34・帝国がズルをしていた証拠
二章開始です。
俺は自分より強いヤツを求めて、1000年後の世界に転生した。
しかし……そこで見たのは魔法文明が衰退してしまった世界だったのだ。
そんな世界でも俺はめげず、王都にある魔法学園に通っていたが……。
「お呼びでしょうか?」
とある日。
先生達に呼ばれた俺は、一人で校長室に足を運んだ。
そこには椅子に座った校長と、その両脇には担任のエリカ先生、元Sランク冒険者のデズモンドがいた。
校長は白髭を撫でながら、ゆっくりと口を開く。
「ふむ。よく来てくれた」
「俺になんの用ですか?」
「実は先日の交流戦のことなのだ……」
ああ、あのことか。
帝国との交流戦のことだ。
俺は純粋に楽しみたかったが……帝国のヤツ等がズルをしてきて、結局《四大賢者》とかいう大層な名前のヤツと戦うことになってしまった。
もちろん俺が勝ったが……1000年前と変わらず、卑怯な帝国に呆れるのだった。
「交流戦ではよくやってくれた。クルトのおかげで、帝国の不正を見つけることが出来た」
「いえいえ、みんなのおかげですよ……でも俺を呼んだのは、それを言うためですか?」
「それもあるのだが……本題は別のところにある」
別?
なんだ、嫌な予感しかしない。
「帝国は実際ズルをしていた。それは《宝物迷宮》内で待機していた、エリカ先生とデズモンド先生も目撃している。クルトの話を聞くに、最悪人死にが出た可能性もあるとではないというか。これは由々しき事態だ」
「当然ですね」
「だが……一つ問題があって——」
「帝国がそれを認めていないんでしょう?」
次に言いそうなことを先回りしたら、
「そ、その通りだ……」
と校長は唖然とした顔になった。
「どうして分かった?」
「まあ……そんな気がしましたので」
頬を掻く。
帝国は卑怯。
これは1000年前より変わらない事実だ。
いくらエリカ先生やデズモンドといった目撃者がいようとも、帝国としては認めないことは容易に想像出来た。
「帝国はなんと言ってるんです?」
なんとなく予想は出来るが、あえて問いかけてみた。
「私から説明しよう」
エリカ先生が一歩前に出た。
「交流戦で見たことを元に、帝国を詰めたのだ。そうすると、ヤツ等なんと言ったと思う?」
「証拠がない……ってところでしょうか」
「クルトのような賢い生徒には、説明が省けて助かるよ。クッ……ヤツ等!」
その時のことを思い出してるんだろうか、エリカ先生は悔しそうに歯をギリッと噛みしめた。
「本当にとんでもないヤツ等だ!」
デズモンドも怒りを隠せないようであった。
うむ。
そうやって、帝国は言い逃れして交流戦のことを有耶無耶にするつもりなんだろう。
幸い王都側には被害者は一人もいない。
なんなら、俺の魔法によって帝国側の代表が傷を負ってしまったくらいだ。
ホーリネス・ゲートによって滅された《四大賢者》のアルノルトも、行方不明扱いになってるらしいしな。
帝国としては、エリカ先生とデズモンドの狂言である……とかふざけたことを言ってるんだろう。
「それでもこちらとしては断固抗議している」
改めて、校長は机の上に肘を突いて話を続ける。
「しかし……証拠がないのも事実だ。いまいちヤツ等を詰めるための決定的な材料がないのだ。それで……クルトになにか知恵があると思ってな」
「俺ですか? 俺は一介の生徒ですよ?」
「《四大賢者》に圧勝しておいて『一介の生徒』呼びは、さすがに無理がありすぎると思うぞ……」
エリカ先生が溜息を吐いた。
信じてくれないが、俺は平和主義者なのだ。
どこにでもいるごくごく普通の学園生徒……として通しておきたい。
やっぱり無理かな?
「まあ……でも証拠なら何個かありますよ」
「そ、それは本当かっ?」
校長が前のめりになった。
「ええ。これを見てください」
と俺は予め持ってきていたものを、ポケットから取り出した。
「これは……?」
「監視魔導具というものです」
交流戦の時、俺達王都側の動きをこの監視魔導具にて把握しようとしていた。
エリカ先生とデズモンドが、監視魔導具が乗せられた俺の手の平に顔を近付ける。
「潰れた虫……にしか見えないが?」
「それは見つけたら、俺が潰してたからです。この魔導具で王都側の動きは、全て帝国に監視されていました」
「そ、それは本当か! しかし……そんな魔導具、見たことも聞いたこともないんだが?」
エリカ先生が驚きながらも、疑った表情を見せる。
1000年前においては、犯罪抑制のために飛び回っていた魔導具も、この世界では普通じゃないらしい。
万引き対策とかで、道具屋とかによくあったんだけどな。
この世界ではオーバーテクノロジーだ。
「だが……潰れてるなら、証拠としては使えないのではないか? クルトはなにか知ってるようだが、儂等はこんなの知らない。帝国ものらりくらりと言い逃れるのでは?」
デズモンドから質問が飛び出した。
言っていることは一理ある。
俺なら、一度潰れた監視魔導具を元の状態に修復することが出来る。
だが、修復したところで一般的な魔導具じゃないのだ。
『そんなもの、帝国は使ってない! お前等が作って、証拠をでっち上げてるだけだろう!』
なんて帝国側の言ってる光景が目に浮かぶようだ。
「ならまだ別の証拠がありますよ」
「それはなんだ?」
「ちょっと部屋を暗くしてもらえますか?」
と俺が言うと、窓のカーテンが閉められて部屋は薄暗くなった。
「よし……この壁だったら、キレイに映せそうだな」
部屋が広くて助かった。
白くて真っ白な壁に、投影魔法を使う。
「こ、これは……交流戦の光景?」
「映像が流れとる。これはどんな原理なのだ?」
そこに映し出された映像を見て、校長やエリカ先生、デズモンドが目を見開いた。
彼等の反応を見てもらえれば分かる通り、帝国の代表が勝負をしかけてから……そして《四大賢者》と戦い終わるまでを、映像として音声とともに壁に映し出しているのだ。
「ムーヴ・ストレージという魔法です。こんなこともあろうかと、交流戦の光景を魔法で収めていたんですよ」
丁度アルノルトが、バカ正直に帝国が不正をしていることを認めている場面まできた。
『これが一度じゃない。どうせ今まで何度もやってたんだろう?』
『正解』
愚かだ。
戦いの最中、映像を保存されていることも知らなかったんだろう。
「な、なんという素晴らしい……! これがあれば、帝国を追い詰めることが出来る」
映像を見て、校長はわなわなと震えた。
アルノルトが光に滅されたところで、俺は投影魔法を止めた。
「ク、クルト……あの激戦の最中、こんな魔法も発動していたというのか? そんな余裕どこにあったんだ?」
「クルトはやはり、儂等の常識の範疇では収まらない男だな。例えそのような魔法があろうとも、ここまで長く映像を保存出来るとは……」
エリカ先生とデズモンドも混乱しているっぽかった。
この程度で驚かれちゃ、困るんだがな……。
念のために、交流戦がはじまってから終わるまで、全て映像を保存してたんだが。
見せると余計に驚かれそうだし、今は必要なさそうなので止めておいた。
「ですが、これでもまだ少し問題があります」