33・もっと面白いこと
後日。
帝国側が不正をしていた、ということも明るみになり、こちらでは大きな問題となった。
帝国は認めないだろうが、さすがにエリカ先生やデズモンドといった目撃者も多いので、逃げきるのはなかなか難しいだろう。
「まあどちらにせよ、俺達生徒を殺そうとしてたわけだしな……」
ちなみに。
交流戦の勝敗どうこうは、あれから有耶無耶になってしまった。
『それどころじゃない!』
といった具合にな。
まあいい。
これから王都は帝国を徹底的に糾弾するだろうし、その結果帝国が窮地に立たされるなら良い気味だ。
一方俺は……。
「さて……と。こんなところか。そもそも大して荷物なんてないけど」
寮の部屋。
片付けが終わり、腰に手を当て眺める。
「短い間だったな」
そうなのだ。
俺はここ魔法学園を退学して、帝国の謎に迫ろうと思っているのだ。
正直この学園で学べることは、もうほとんどないだろう。
ここには求めていた俺より強いヤツもいなさそうだ。
それよりもこの世界の魔法の衰退……アルノルトの言葉を借りると『真理』とやらに迫っていきたいと思う。
そのためにこの魔法学園にいる必要性があまりないように感じられた。
「それにしても……俺が『魔王』と呼ばれていたとはな」
アルノルトは言っていた。
1000年前、この世界には魔王がいたと。
その魔王の魔法、そして理論はあまりに恐ろしく、帝国側が尽力して封印したと。
「全部嘘だ」
少なくても俺は生前『魔王』なんて呼ばれ方はしていない。
それにみんなは魔法の便利さを享受していたとはいえ、恐れている様子はないように思えた。
どうして帝国がそんな嘘を吐いているのか。
魔神に滅ぼされた帝国が再興している理由。
そこに——ここ1000年後の衰退の真理が秘められているように思える。
「さて……まずはなにをするかだな」
俺は呟き、部屋を出ようとした時であった。
コン、コン。
ん?
扉のノックする音。
「鍵は開いている。入ってきていいよ」
俺が扉の向こうにそう呼びかけると、
「クルト! 学校を辞めないで!」
「私からの勝負に逃げるなんて……私、許しませんからねっ!
雪崩れ込むようにして、廊下からララとマリーズが入ってきたのだ。
しかも俺と体を密着させるくらいまで接近して、訴えかけてくる。
「お、おい! いきなりどうしたんだ!」
二人の柔らかな感触が伝わってきて、ついしどろもどろになってしまった。
「だって! だって……クルトが学校を辞めてしまいそうな気がしたから……」
「はじめはララの勘ですが……交流戦が終わった後。クルトはずっと考え込んでいる素振りを見せていました。だから本当に辞めてしまうような気がしてきて不安に……」
二人は俺に顔をぐーっと近付け、捲し立てるようにして言った。
……俺が魔法学園を辞める、と直感したということか?
それで阻止しようとしていると。
まいったな。
前にも言ってた気はするが、ララの勘というのは本当に侮れないのかもしれない。
しかし。
「もし辞めるとしても、それがララとマリーズにどういう関係がある? 俺がいなくなっても、二人なら魔法学園で立派にやっていけるはずさ」
問いかけてみる。
するとララは顔がくしゃくしゃになって、
「うええええん! クルトが……! クルトがそんなこと言うー!」
とうとう泣きだしてしまったのだ。
……おいおい。
なんだこの状況?
「クルト! いくらあなたでもさっきの言葉は酷すぎます! 今すぐ撤回してください!」
マリーズが俺を指差し、必死に叫んでいる。
……はあ。
こりゃ、収集つかなくなってきたな。
俺は溜息を吐いてから、
「ごめんごめん。でも俺が魔法学園を辞めるなんてのは、二人の早とちりだ」
「「え?」」
二人が声を揃える。
「それは本当……?」
「ああ、本当だ」
肩をすくめる。
……本当はこのまま二人にも告げず、寮を出ようとしていたんだがな。
まあこれでもいい。
別に生徒であり続けながらも、衰退の真理とやらに迫ることが出来るしな。
二人の顔を見てたら、急に名残惜しくなってしまった。
魔法学園の生活とやらも案外嫌いじゃない。
学園生活と校外活動……この二つを両立させることくらい、本気を出さなくとも俺なら容易いことだろう。
「それに……二人にはまだまだ教えることが山ほどあるからな」
「そ、そうだよ! 途中でほっぽり出すなんて許さないんだからねっ」
「あの《四大賢者》に使っていた魔法はなんですか? それに……《魔王魔法》って?」
さっきまで泣いていたララはもう笑顔になって。
マリーズはいつもの調子に見えるが、わずかに声が上ずっていた。
1000年後の衰退した世界では本気を出せない。
だが、案外この衰退した世界というのも退屈しない。
俺は迫ってくる二人の頭を撫でながら、これから巻き起こるであろうことを考えていた。
第一章終了です。
二章も頑張ります!