31・《四大賢者》
前回のあらすじ・帝国がしょうぶをしかけにきた。
さっきのメテオバーンであるが、帝国側の代表が使っていないのは明らかだった。
代わりの誰かが魔法式を組んでいるのだ。
分析魔法のアナライズを広範囲に使用する。
具体的には二層全体を包み込めるくらいの範囲だ。
「……ん?」
意外と近くにいた。
草むらのところで、ナメレオン・シンパシーという魔法を使って息を潜めているのだ。
「はあ……」
あまりにもお粗末すぎて溜息が出てしまう。
このナメレオン・シンパシーという魔法は、周囲の風景と同化して見つけられにくくする魔法だ。
まだ相手はバレてない、と思ってるんだろうか。
「クルト。どうしたの?」
「なにかあるのですか?」
その証拠に、俺と同じ方向に顔を向けているララとマリーズは気付いていないようだ。
それにしても……どうしてこんなに近くにいるんだ?
もっと遠隔から支援すればいいだけなのに。
分かった。離れすぎたら、代わりに魔法式を組んで発動……って真似が出来ないからか。
まあ俺だったら、故郷にいたとしても王都に魔法を届かせることも出来るがな。
「おい、さっさと出てこいよ。つまらん真似は止めて」
魔法で擬態しているそいつに話しかける。
「どうやら汝には通用しないようだな。やはり汝も真理を知るものか」
老人は魔法を解き、姿を現した。
「わっ! どこにいたの?」
「もしかして……魔法? クルトにだけ見えていたということなのですか」
ララとマリーズはいきなり現れた(ように見える)老人に、驚きを隠せないようだった。
こいつは……ああ。監視魔導具を通して帝国側を見た時、一人だけ余裕な態度を見せていた老人か。
「お前はなんだ?」
「我は《四大賢者》アルノルトというものだ。汝と話をするために、ここに降り立った」
老人……アルノルトは偉そうな態度で告げた。
話?
一体なんだ。
「よ、《四大賢者》って帝国にいるとされる、最強の魔法使いじゃん!」
「この世の全てを見通し、世界を掌握する力もあると言われてる……まさかこんなところでお目にかかれるとは!」
ララとマリーズが身構えている。
三年生のコリーとグレンも同じような反応だ。
「なかなかお前、有名人みたいだな」
「我にとってもどうでもいいことだ」
アルノルトが嘆息する。
さて……答え合わせをしようか。
「帝国側は交流戦に介入している。それは認めるか?」
「汝、どうしてそう思うのだ?」
人を食ったような笑みを浮かべるアルノルト。
「まずあの監視魔導具だ。魔力を逆流させて全て見させてもらった。どうやら帝国側は離れたところで、俺達の様子を逐一確認しようとしていた」
「正解だ」
「そして生徒に張られた結界魔法。あれはあいつ等の力量を見るに、自分達で張れるもんではない」
ララとマリーズいわく、この時代においては結界魔法はなかなかに難しいものらしいのだ。
それはろくに結界を施していない、魔法学園の寮を見ても分かる。
それなのにちんたら詠唱魔法を使っている、帝国側の代表に使えることが出来るか?
答えは……有り得ない。
「多分、お前が張ったものだよな。代表選手に張ってた結界魔法は」
「……正解」
やけに素直に言いやがる。
こいつの表情からはなにを考えているか分かりにくい。しかしせいぜい「どうせすぐに殺して口封じするから、好きなだけ喋らせておけ」と言ったところだろうな。
「メテオバーンもお前が代わりに展開したもの。しかもここまでやけに手慣れていたよな? これが一度じゃない。どうせ今まで何度もやってたんだろう?」
「正解」
今まで王都側が勝ちかけていたら『不運』が起こった、とエリカ先生が言っていた。
どうせ不運に見せかけて、帝国側が裏で糸を引いていたといったところだ。
今日みたいにな。
……まあ監視魔導具も潰されて、俺の精霊魔法であいつ等も混乱もしている。
だからこそ、今回だけはこんなバレバレな方法で奇襲を仕掛けにきた……といったところか。
「汝、聡明であるな。やはり我の目に狂いはない」
「狂い?」
「汝の話を聞いたところで、我の本題に入ろう……汝、我ら帝国と手を組まぬか?」
はあ?
「汝の力はふぬけた王都にはもったない」
「どうしてそう思う?」
「無詠唱魔法を使っていることから、分かるものよ。汝、我らと同じく真理の一部を知るもの。我には分かる」
「さっきも言ってたが、真理……? もしかしてこの世界の衰退についてなにか知ってるのか?」
問いかける。
ララとマリーズ達には、俺がなにを言ってるか分からないだろう。
アルノルトは「ククク……」と笑いをこぼし、
「やはり……一部しか知らぬか。ならば帝国に来い。真理を教えてやる」
アルノルトが手を差し伸べる。
「クルト……」
「い、行っちゃダメですからね!」
ララとマリーズが俺の両腕をつかんできた。
……やれやれ。
二人は心配しているみたいだが、考える必要もない。
「断る。俺は帝国が昔から嫌いなんだ。どうしてお前等と手を組まなければならない?」
と吐き捨てるようにして言った。
《四大賢者》とやらも確かに気になる。
探し求めていた『俺より強いヤツ』がいる可能性もあるが……アルノルトを見るに、とてもそうは思えない。
なによりも、1000年前……魔法革命をもたらした異端者の俺に対して、色々と嫌がらせをしてきたのも帝国の貴族連中だ。
魔神に滅ぼされてせいせいしたが……1000年後の世界でも、俺を不快な気持ちにさせてくれるとは。
例え『俺より強いヤツ』が帝国にいたとしても、手を組むはずがない。
何故なら——俺は強いヤツと仲間になりたいわけではなくて、戦いたいからだ。
敵対していた方がやりやすいだろう。
「真理を知りたくないのか?」
「今からお前と戦って、聞き出せばいいだけだろうが」
そう言うと、アルノルトは「ほう」とさらに笑みを濃くさせた。
「《四大賢者》の我を前に、よくそんな口を叩けるものよ」
「いちいち《四大賢者》《四大賢者》って繰り返すんじゃねえよ。どんどん小者に見えてくるぞ」
「……よかろう。この答えは多少は予測していた。ならば当初の予定通り」
アルノルトが魔法を展開させる。
「殺すのみだ」
言い放ち、アルノルトが魔法を放とうとした。魔法式から見て雷撃魔法のサンダーボルトだろう。
「キャッ!」
「早く逃げないと!」
襲い来る雷撃に対して、ララとマリーズが怯んだ。
しかし俺は。
「……つまらんな」
右手を掲げる。
すると俺達の前に円形の結界が現れ、四方八方からくる雷撃を全て防いだ。
「なっ……!」
驚いた表情のアルノルト。
雷撃が止んだのを見届け、結界を解いた。
「さて……お前は俺に本気を出させてくれるかな?」