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30・帝国との交戦

前回のあらすじ・帝国がズルをしてたみたいだ

 さて……これからどうしたものか。

 居場所は分かったので、転移魔法を使って大本おおもとを叩くか。


「それってどういうことっ?」

「帝国側がズル? なにを見てそう思っているのですか、クルト」


 転移魔法を使おうとすると、ララとマリーズが問い詰めてきた。

 一から説明するか?

 その間に逃げられてしまうかもしれないのに?

 どうしようかと悩んでいたら、


「いた! 王都の欠陥魔法使い達だぜ!」

「一気にやっちまえ!」


 声のする方を振り向くと、帝国側の代表選手がこちらに向かってきて魔法を放とうとしていた。


小狡こずるいヤツ等だ」


 虚を突かれた形で、みんなは帝国側の代表に反応しきれていない。


「この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を貫き灼け!」


 帝国の代表が詠唱をはじめる。


 遅い。

 眠たくなってくる。


 俺は手を掲げて、背反魔法を使う。

 以前にも言ったが、背反魔法とは相手の魔法を()()()()()技法だ。


「あれ……?」

「どうして発動しないんだ?」


 帝国側の男はきょとんとした顔をしている。

 背反魔法を使うことによって、発動前に相手の魔法式を消滅させたのだ。


「えっ……どうして帝国の人が攻撃を? これがクルトの言っていたズル……?」

「あ、あなた達! ルール違反ですよ!」


 やっと状況が分かったのか、ララとマリーズが同時に声を出した。


 それに対して、帝国側はニヤリと口角を釣り上げ、


「うるせえ! お前等の口を封じてしまえばそれで終いだ」


 と言い放った。


 なるほどな。

 周りに先生達の姿が見当たらない。


「これを見計らっていた……ということか」

「クルト。どういうこと?」

「最初から仕組まれていたんだ。帝国側はまともに交流戦なんかするつもりはない」


 ララが驚いたように目を見開いた。


 監視魔導具で俺達の行動を把握して。

 さらに交流戦では禁じられている、直接的な妨害をする。

 そのことが物語っていた。


「それにしても随分慣れた行動だな。これがはじめてなんかじゃないんだろう?」


 帝国側はニタニタと笑みを浮かべているだけで、問いに答えを返さなかった。


 決まりだな。

 だからこそ王都の10連敗なんて記録が生まれたんだろう。


「しかし俺が監視魔導具を潰しまくった。だから状況が悪くなったと見るなり、俺達を始末しにきたか。もしくは俺達が収集したアイテムを奪いに来たか……」

「説明する必要はない」


 そうは言うものの、表情から相手の意図が読めるようだった。


 さすが帝国。汚い。

 1000年前でも変わらなかったことだ。

 帝国側の先生はともかく、王都側の先生達も適当に言いくるめて、この場に近付かせないようにしているんだろう。


 つまり……。


「ぼーっとしているんじゃねえよ! さっきは不発だったみたいだが、今度はそうはいかねえ!  この手に集まりたまえ炎よ……」


 交流戦では行われると思っていなかった、他校との直接的な戦闘だ。


「ふう……」


 溜息が出る。

 律儀に詠唱魔法を使っているのか。

 そんな遅かったら、


「ララ」

「うん! 分かってる!」


 相手の魔法が飛び出すよりも早く、ララがファイアースピアを放った。

 もちろん無詠唱でだ。


「ぐはっ!」


 一人がファイアースピアに当たり、後ろに吹っ飛ばされた。


「な、なんだ! なにが起こった?」

「今のは不遇魔力……? 不遇魔力がどうして、オレ達完全魔力よりも早く発動出来るんだ?」


 ……分析完了。


 どうやら帝国側の五人全員は戦闘に向かないとされる白色……じゃなくて完全魔力らしかった。

 攻撃系統の魔法に秀でている赤色に勝てるわけがない。

 しかも相手は詠唱魔法だ。


「か、かかれ!」

「お前等、手加減するんじゃねえぞ!」

「この手に集まりたまえ炎よ……」


 どうやら今ので帝国側に火を付けてしまったらしい。


 だが、手加減してくれないとは……。

 なんと優しい!

 正直《宝物迷宮》内のアイテムをちまちま集めるのは、飽きてきた頃だったのだ。


「ララ、マリーズ。特訓の成果を出す時だ」

「う、うん! でも対人戦なんて入学試験の時以来だよ……」

「大丈夫です! 今まで頑張ってきたこと……そしてクルトを信じましょう!」

「思う存分力を振るえ」


 俺のその言葉と同時、ララとマリーズも魔法式を組みはじめた。

 詠唱と無詠唱では速度に天地の差がある。

 相手がちんたら詠唱文律えいしょうぶんりつを唱えている途中、ララはファイアースピア。マリーズからはライトニングアローが放たれた。


「なんだこの速度は!」

「どうしてヤツ等は詠唱してないのに、魔法を放つことが出来るんだっ?」


 あっという間に帝国側が混乱に陥る。

 ララとマリーズはそれに乗じて、一気に畳みかけるように魔法を連発させた。


 火や雷……氷といった魔法が帝国側に吹き荒れる。

 相手も急いで魔法を放とうとするが、全く追いつかない。

 ヤツ等は魔法の威力で吹き飛ばされ、近くの木に思い切り体をぶつけたり、地面に転がったりしていた。


「こ、これが一年生の力……!」

「オレ達はなにを見せられてるんだ?」


 三年生のコリーとグレンが驚きの声を上げている。

 二人も加勢しようとしていたのだが、追いつかなかったんだろう。


「一年生はこれが普通ですよ」

「普通……? 無詠唱が普通だって言うのかい!」

「はい。一年生の間では無詠唱が主となっています。帝国側の詠唱魔法では追いつかないのも無理はないでしょう」

「……さっきから君を見てると、僕の中の普通が崩れていくよ」

「一体今年の一年はどうなってんだ?」


 コリーとグレンは唖然としていた。


 あの『実技』の授業以来、ララとマリーズ以外にも魔法を教える機会があったのだ。

 その結果、一年生のほとんどが無詠唱でも魔法を放つことが出来ていた。


「それにしても……」


 気にかかることがある。

 帝国側の代表は、ララとマリーズの魔法に吹き飛ばされながらも、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。


「……少しタフすぎないか?」

「本当だね。死んじゃうかも、って思ってちょっと手加減しちゃったからかな……」

「それにしても異常です。すぐには立ち上がれないはずですが?」


 帝国側は余裕にも笑みを浮かべて、勝負を諦めていない者もいる。


 ……なるほど。

 質の低いものだったので気付くのが遅くなったが、ヤツ等に結界魔法が展開されている。

 そのせいで何割かのダメージは吸収されてしまったんだろう。


「お前等……調子に乗るんじゃねえぞ?」


 その中の一人が手を掲げる。


「オレ達の本当の力……見せてやるよ!」


 ほう?

 そいつを中心に魔法式が展開されている。


 こりゃ直接誰かが裏で糸を引いているな。

 一見、そいつが今からメテオバーンという魔法を放とうとしているように見える。

 しかし代わりの誰かが魔法式を展開しているのが、俺の目からみたらバレバレだった。


「はあ! メテオバーン!」


 俺達の頭上からでかい隕石のようなものが出現してきて、落下しようとしていた。

 だが——。


「遅い」


 俺は上に手の平を向ける。

 魔法式に介入する。


 ……やはりか。ちょっとは威力が高いものの、こんなに簡単に魔法式を組み替えられるとは。

 結界魔法も展開されているし、死にはしないだろう。

 俺達に落下しようとした隕石は向きを変え、相手の方へ突き刺さっていった。


「うわあああああああ!」

「ど、どうしてあいつ等に放った魔法がこっちに……!」


 悲鳴を上げながら、隕石の直撃をくらった帝国側は衝撃で宙に浮き上がった。

 そのまま地面に激突。

 いくら結界魔法といえども衝撃を吸収しきれなかったのか……全員地面に転がって気を失ってしまっているようだった。


「これで……終わった?」

「ララ。油断してはいけません! まだなにか仕掛けてくるかもしれません!」


 マリーズが緊張の糸を解かず、いつでも魔法式を展開出来るような体勢を取っていた。

 うん。さすが俺の愛弟子だ。


「マリーズ、その通りだ。まだ終わっちゃいない」


 さて……と。

 真打しんうちを引っ張り出そうか。

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