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29・不正は許しません

前回のあらすじ・交流戦がはじまった。

「なんということだ! これで監視魔導具が潰されたのは、12個目だぞ!」


《宝物迷宮》から少し離れたところ。


 とある一室では少年がやったことに対して、大騒ぎになっていた。


「まさか監視が潰されたのか?」

「あ、有り得ない! ただの虫にしか見えないはずだ! これを見破れるヤツは……《四大賢者》くらいしかいない!」


 室内にはモニターが一台置かれている。

 一見虫にしか見えない監視魔導具を通して、《宝物迷宮》の様子が映し出されるのだ。


 その少年はこちらが差し向けてきた監視魔導具を、一つ残らず叩き落としてきた。

 そのせいで断片的な映像でしか、王都側の情報を知り得ることが出来なかった。



「——あちらに、我らが想定していたより少し大きい虫がいるようだ」



 騒然としている室内で。

 一人、その()は落ち着き払った様子で、周りを眺めていた。


「し、しかし……偶然なんじゃ?」

「12個も壊されたのにか?」

「くっ……?」

「汝は浅慮せんりょすぎるな」

「さ、さすがは《四大賢者》の一人……アルノルト様だ。このような状況になっても落ち着いていられる」


 ローブをまとったその男が立ち上がる。

 男の名はアルノルトという。

 ポキポキと鳴らす指には、しわが深く刻まれていた。


(あの少年は間違いなく強い。じゃが、()の魔法の力を享受した我の前では虫けら同然よ)


 彼は今まで誰にも負けたことがない。

 やがて彼は他者を拒絶するようになった。

 皆では自分を満足させることが出来ない、と確信していたからだ。


(あの少年なら我が渇きを潤すことが出来るかもしれぬ)


 男が一歩前に踏み出すと、


「ちょ、ちょっと待ってください! どこに行かれるつもりですか!」

「決まっておろう。《宝物迷宮》だ」

「なにを言ってるんですか! さすがに迷宮に足を運ばれては……グッ!」


 アルノルトが手を掲げると、前に立ち塞がった男は自分の首をつかみ、悶え苦しみ始めた。

 そしてゆっくりとその体が倒れていき、息をしなくなったのだ。


「我の邪魔をするのなら、他の者もかかってくるがいい。良い準備運動になろう」


 アルノルトのその言葉に、答えるものはいなかった。


「では早速……ん?」


 アルノルトが部屋から出て行こうとする時。

 強烈な敵意をモニターから感じて、振り返った。


「一体、これは……」


 その瞬間。


 バリィィィィイイイイン!


 モニターが壊れ、アルノルト達に電撃が襲いかかってきた。


 ◆ ◆


「やっぱり鬱陶うっとうしいな……」

「はい?」


 本日、12個目の()を潰したところで、いい加減腹が立ってきた。


「どうしたんですか、クルト。いきなり」


 マリーズが怪訝そうな顔つきを見せる。

 気が付かなくても仕方がないか……。


 俺からしたらバレバレなのだが、監視魔導具がちょこまかと俺達の周りに飛んできているのだ。


 一見、この魔導具は虫にしか見えない。

 しかし魔導具を通して、遠くの場所にその映像を飛ばすことが出来る。

 つまり誰かが俺達を監視している、ということだ。

 なんのために?


 交流戦で生徒が危険なことに陥らないように、先生達が飛ばしているのだろうか。

 いや、そんな説明はなされていないし、この世界の文明を考えるに……。


「監視魔導具はオーバーテクノロジーってヤツだよな……」


 それに、そうならそうで交流戦前に説明があるはずだろう。

 だとしたら。


「ちょっとみんな聞いてくれ」

「どうしたの、クルト?」

「折角良いペースでアイテムを集めているというのに」


 みんなを立ち止まらせる。


 現在、俺達が来ているのは森林が広がっている場所である。

 俺達は一層にある至高の宝とやらを入手した。

 残念ながら、俺にとっては外れアイテムである『愚者の杖』というものであったが、他のメンバーはは「す、すっごいお宝ですよ! SSSランクです!」と興奮気味のようだった。

 だが、こんなもので俺は満足出来ない。

 その後順調に順調にアイテムを集めながら、二層に来たということだ。


「ここらで一回気を引き締めないとな。油断大敵だ」


 俺がみんなを集め言うと、一様に驚いた表情をされた。


「……クルト。もう楽勝だよ」

「そうですよ。私も油断はいけないことだと思いますが、さすがにこれは……」


 ララとマリーズがそう言う。

 他の二人の三年生も、


「正直、一年生がこれだけの力を持つとは思ってなかったよ」

「本当だぜ……自信を失ってきた」

「というか収納魔法って簡単に使えるものなの?」


 戸惑っているような口ぶりだった。

 だから普通の魔法……って言っても、また「普通じゃないよ!」と返されそうだ。

 三年生コリーの質問に答えず、


「みんな聞いてくれ。さっきから誰かがずっとこちらを監視している」

「「「「え?」」」」


 四人が声を揃えた。


「クルト、それって……」

「そのままの意味だ。監視魔導具ってヤツが、さっきから俺達の周りを飛んでいる。発見するなり逐一破壊しているから大丈夫だと思うが……多分帝国側が仕掛けてきてると思う。外部からの干渉ってヤツだよな」

「そ、そんなことルール違反じゃないですか!」


 マリーズの言った通りだ。

 本来交流戦のルールでは、外部から干渉……例えば先生達の力を生徒が借りる、といったことは反則だ。もし危険に陥って先生が介入した場合、その時点で失格負けになってしまう。

 壊した監視魔導具の一つでも見せて、帝国側のルール違反を指摘すれば俺達は勝つことが出来るかもしれない。


 だが、それではつまらない。

 それに……どうやらこの世界でも帝国というものは『卑怯』なものらしい。

 証拠一つじゃ、どんな言い逃れをするのかも分からない。

 だから。


「今から俺達を監視しているヤツ等に牽制けんせいする」


 俺がそう宣言すると、またもや虫に見える監視魔導具が飛んできた。

 他の人達はそれに気付いた様子はない。


「ヴォルトバード」


 飛んできた監視魔導具に向かって、手の平を掲げる。

 一瞬で組まれた電撃魔法の魔法式は、鳥の形となって監視魔導具に向かっていった。


 このまま直撃しても、数ある虫の一つが壊されるだけだ。

 だから……今度はちょっと趣向しゅこうを凝らしてみる。



 本来、監視魔導具と中継先には魔力で繋がっている。

 その魔力がいわばケーブルのような形となって、映像を飛ばす……という原理だ。

 ならば。

 その魔力を通せば、中継先に魔法を届けることも可能なのだ。



「クルト。また魔法を放って……もしかしてまた監視魔導具が飛んでいるのですか?」


 マリーズが疑問を口にしているが、説明は後だ。

 ここから先は俺でもちょっとだけ集中しなければならないからな。


 俺の目論見は成功し、監視魔導具を通して中継先にヴォルトバードが刺さった。

 それと同時、そこに仕込まれている魔力を逆流させる。

 すると魔法が届くのと一緒に……反対にあちら側の映像を見ることも出来るのだ。


 ぼんやりとあちら側の映像が頭に浮かんできた。



『うおっ! なんだ! モ、モニターから急に電撃が……!』

『どうなっているんだ。故障かっ?』



 部屋で暴れ狂うヴォルトバードに、あちら側は慌てふためいているようだった。

 ヴォルトバードは雷属性の精霊魔法だ。

 ある程度自律心を持ち、対象に向かい続ける。


 中には……ん? やはり帝国側の先生も何人か混じっている。《宝物迷宮》に入る前に見た顔も混じっているし……間違いなさそうだ。


 それにしても……なかなか杜撰ずさんだな。

 こうやって、監視魔導具を逆手に取ってあちら側に魔法を届かせることは、1000年前なら常識だったのに……。

 そうならないように、妨害魔法の一つや二つ仕込んでおけよ、とちょっと物足りない感じもした。


『ハハハハハ! 驚いた! 理論上では可能だと思っていたが、まさか本当に実現するものがいるとは! しかも帝国からではなく王都から、そんな化け物が現れるとは!』


 その中で。

 一人だけ余裕ぶっこいているローブを羽織った老人がいた。


「ん? ん?」

「どうしたの、クルト。さっきから考え込んでいるみたいだけど」


 ララの声が聞こえたが、俺は頭の中に浮かぶ映像を見て驚いていた。


 ほう……結界魔法を展開してやがる。

 ゆえにヴォルトバードの攻撃を、一人だけしのぐことが出来ているのだ。


「この世界にも、ちょっとはマシなヤツがいるみたいだな」

「クルト。さっきからぶつぶつ呟いてなんなんですか? 私達にも説明してくださいよ」


 だが、これで決まりだな。


「帝国側がズルをしていることで確定だ」

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