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27・先生より先生っぽくなってしまった

前回のあらすじ・鉄球投げでケンカを売られた。

「だ、だが欠陥魔力なんかには負けたりしない! ここで怖じ気づいて逃げてもいいんだぜ?」

「まさか」


 わめいている男を放って、俺は鉄球を左手で持った。


 ……うん。

 身体強化魔法を使うのは、最低限に収めておこう。

 こんなところで本気を出す必要はないんだからな。


「じゃあ先生、投げますよ?」

「いつでも投げろ」


 じゃあ早速投げさせてもらうか。


「えい」

 

 小石を遠くにやるような感じで、鉄球を投げた。

 ただ……ここでも俺は間違ってしまった。



 ズゴォォォォオオオオン!



 何故ならまた加減を間違ってしまったからだ。


「は?」


 男子生徒が口を半開きにする。

 俺が軽く投げた鉄球は、真っ直ぐと伸びていき、校庭の端にある木の幹に突き刺さった。


「き、木が倒れるぞ!」


 おっと、いけない。

 俺は急いで鉄球がめり込んでいる木に修復魔法をかけて倒れないように修復した。


 うむ。


「ちょっと力を入れすぎてしまったか」


 手加減というのは、なかなか難しいものだ。

 首をひねる。


「ど、どうなってるんだ……」


 喧嘩を吹っかけてきた男子生徒は、この光景を見てへなへなと地面に座り込んだ。


「おいおい、そんなに落ち込む必要はない」

「こ、この競技だったら絶対に勝てると思ってたのに……こんなことは有り得ない……」


 色々と呟いている彼を見て、俺はそれ以上言葉を紡げないでいた。


 さっきは左手で投げた。

 だが、俺の利き腕は右だ。

 あまり飛びすぎてはいけない……と思って利き腕じゃない左手を使ってしまったことが間違いだったみたいなのだ。


「まあいっか……」


 所詮、授業とはいえ子どものお遊びだ。

 これ以上本気になることはないだろう。


「こ、小僧! 一体なにをやった!」


 俺がみんなの列に戻ろうとすると、デズモンドが血相変えて駆け寄ってきた。


「……先生。顔が近いですよ」

「そんなこと気にしてられっか! どうしてさっきの鉄球があんなところまで飛ぶんだ! 儂……というか世界中を探しても、小僧と同じ事を出来るヤツはいないだろう!」

「……それは今まで先生達が魔法を使わなかったからじゃないですかね?」

「魔法……? 魔法を使えば、鉄球を遠くに投げることも可能ということか? そういえば試験の時、やたら人間離れした動きをしていると思っていたが……あの時も?」

「はい」


 1000年前なら誰でも使っていた身体強化が、この世界では常識じゃないみたいなのだ。


 俺は怪訝そうな顔をしているデズモンドに対して、話を続けた。


「身体強化と呼ばれている魔法です。これを使えば筋力やスピードを飛躍的に上昇させることも可能です」

「そんな夢のような魔法が……?」

「はい。ちょっと見ててくださいね」


 俺はライズパワーを使い、両足に力を溜める。

 そしてそのままの勢いのまま、地面を蹴って跳躍ちょうやくしたのである。


「……!」


 デズモンドが目を見開いている。

 ロザンリラ魔法学園の校舎……その屋上が見えるくらいまで、高くジャンプした。

 砂埃を上げ、地面に着地する。


「どうです? 簡単そうでしょう?」

「「「そうは思えない!」」」


 デズモンドどころか、校庭にいるクラスメイトも声を合わせていた。


「魔法使いというのは、凄いんだな……儂は魔法を使えん。才能がないのだ。儂に魔法さえ使えていれば、例えドラゴンが相手でも負けはせんかったのに」

「ドラゴンと戦ったことあるんですか?」

「例え話だ。神話上の生き物を、お目にかかることなんて出来やしないだろう?」


 正直、デズモンドだったら魔法を覚えるだけで、ドラゴン一体くらいなら倒せると思う。


 それに。


「デズモンド先生。あなた、魔法使えると思えますよ?」

「……なにを言ってるのだ? だから儂には才能がなくて……」

「そりゃあ、高みを目指そうと思ったら、魔力色とか才能とか関係あるかもしれません。ですが、最低限の魔法なら誰だって使えます」

「そ、そんなわけなかろう! 魔法とは選ばれた者しか使えないのではなかったのか!」


 デズモンドが声を荒げる。


 ああ……そういや、この世界はそうだったな。

 みんな魔法が使える魔法学園にきたものだから、忘れそうになっていた。


「デズモンド先生……ちょっと……」



 俺はデズモンドに魔法の基礎を教えた。



「では使ってみてください」

「うむ……ではいくぞ?」


 デズモンドは両足にライズパワーを発動させ、先ほどの俺と同じようにして跳躍した。


 うむ……はじめてだからこんなものか。

 校舎の屋上……とまではいかないが、二階にギリギリ届くところまで届いていた。


「おお……飛んどる! 儂が魔法を……!」


 はしゃいでいるように、声を弾ませるデズモンド。

 だが、落下がはじまった。


「ど、どうすればいいのだ! このままでは地面に激突してしまうぞ!」


 ……着地はちょっときついか?

 俺はデズモンドの真下に入り、重力魔法のグラビティをかけてやる。

 すると地面に近付くにつれ、デズモンドの落下がゆっくりとなっていき、すとんと静かに着地した。


「どうですか? 先生。魔法、使えるでしょ」

「まさかこんな簡単なものだったとは……」


 まだデズモンドには実感がないのか、顔がぼんやりとした表情になった。

 これを見て、他のクラスメイトも騒ぎ出した。



「さ、さっきのはなんだったんだ?」

「しかも詠唱してなかったように見えるけど?」

「そもそも見たことのない魔法式だし!」

「私も使ってみたい!」



 俺のところにクラスメイトが殺到してくる。


「おいおい、押すな押すな」


 まいったな……。

 こりゃ、身体強化魔法を教えないと騒ぎが収まりそうにない。


「デズモンド先生」

「うむ。小僧の言いたいことは分かっておる」


 視線を合わせると、示し合わせたようにしてデズモンドは頷いた。


 そうなのだ。

 俺はたかが一介の生徒である。

 いくら他の生徒——というか先生を含めて——魔法の知識があろうとも、先生を差し置いて教えるのはいかがなものかと思うのだ。

 しかも今は授業中なんだしな。

 ララとマリーズの時とはまた話が別だろう。


 それに俺は基本的に自分が強くなることしか興味がない。

 なので断ろうと思ったが、デズモンドの理解が早くて助かった——


「存分に教えるがいい! 儂のことなら気にするな!」


 ……どうやら理解してくれなかったらしい。


「ふう」


 息を吐く。

 まあ仕方がない。ちょっと子どもの遊びにムキになってしまった罰だろう。


「じゃあもう一回使ってみせるから、それから教えようか」

「「「はい! お願いします!」」」


 

 その後。

 授業の終わりにはクラスメイト全員が、簡単な身体強化魔法を使えるようになっていた。

次回から帝国との交流戦になります。

誤字報告などありがとうございます。

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