表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/189

26・鉄球を投げろ!

 また日をはさんで『実技』の時間がやってきた。


「よし! 今日は鉄球投げに挑戦してもらうぞ!」


 今日もデズモンド先生がみんなの前に立ち、豪快に言い放った。


「「「鉄球?」」」


 デズモンドから放たれた単語を聞いて、みんなが首をかしげる。


「鉄球投げを知らないか……仕方がない。一般的ではないからな。ちょっと待っていろよ」


 とデズモンドは右手に持たれていた、黒くて丸いボールのようなものを掲げた。


「ちょっとそこの生徒。持ってみろ」

「はい……って重っ!」

「当たり前だ。鉄球なのだからな」


 重いとはいっても、持てないほどではないらしいな。


 なるほど……。

 その鉄球を投げる、というのが今回の授業の内容だろうか。


 面白そうだ。

 前世ではドラゴンの尻尾を持って、放り投げる競技もあったが、それの基礎的な内容になるだろう。


「どうしてそんなのが魔法使いに役に立つのですかっ?」

「うむ……魔法使いには体力も必要、と言っただろう? その考えに校長も賛同してくれたから、儂はここの先生になることが出来たのだ。魔法の前に体を鍛える! 魔力も大事だが、筋力も大切! 魔法ばかりで体力を疎かにしていたら、体が動かなくなってくるぞ?」

「はあ……」

「もちろん! 魔法なんて使って、鉄球を遠くに飛ばすことは禁止だぞ」


 俺もデズモンドの言葉におおむね賛成だ。

 魔法使いは魔法も大事だが、体力がなければ戦場では役立たずなのだから。


 だが、同時に……俺はどうしても口をはさみたくなった。


「あの、ちょっといいですか?」

「お前か。なんだ?」


 俺は手を挙げて、



「さっきから聞いていて思ったんですが……どうして魔法と体力を分ける必要があるんですか?」



「……なにを言ってるのだ?」


 デズモンドは怪訝けげんそうな顔つきになる。


「もちろん先生の言ってることは分かります。ですが……魔法と体力——すなわち物理。最終的にはそれを合わせることが理想のはずです」


 まあまずは魔法を使わず投げてみて、基礎的なところを鍛えよう……という方針は分かる。

 しかしデズモンドの言葉からは「魔法と物理は分けて考えるべきだ」という考え方が、滲み出ているように感じたのだ。


 デズモンドは一転興味深そうな顔になって、


「魔法と物理を合わせる? そんな雲をつかむような話が実現可能なのか?」

「はい、可能です」


 俺がそう言ってまずは実演してみようか、と考えてた時、



「おいおい! 欠陥魔力が調子に乗るんじゃねえよ! そんなこと出来るわけねえじゃないか!」



 野次が飛んできた。


 やれやれ。

 魔法学園にも欠陥魔力を蔑むシリルのようなヤツがいるみたいだ。


「出来るから言っている」

「じゃあやってみろよ! そんなに自信があるなら、オレと鉄球投げで勝負するか?」

「おお、いいぞ。もし俺が負けたら、謝罪でもなんでもしてやる」

「その言葉忘れるなよ?」


 喧嘩腰に突っかかってくる男子生徒。

 入学試験での俺の戦いぶりを見てないんだろうか?

 それに今からやろうとしてたところだ。


「じゃあデズモンド先生。ちょっと鉄球、渡してもらってもいいですか?」

「良いぞ」


 デズモンドから鉄球を受け取る。


 うわあ……見た目はまあまあ重そうだったけど、想像以上に軽かった。

 これだったら力の調整を間違って、変なところに飛ばしてしまうかもしれない。

 困ったな……。


「そうだな……」


 俺は後ろを見て、ララとマリーズに目を合わせる。


「ララ、マリーズ。二人もやってみてくれ」

「えっ、わたし?」

「私……筋力には自信がないんですが?」

「良いから。二人ならもう出来るはずだから」


 そのまま、ララとマリーズにごにょごにょと耳打ちをする。

 魔力を使って、鉄球を遠くまで飛ばす方法を伝授したのだ。


「おいおい! お前じゃなきゃ意味がねえじゃないか!」

「心配するな。俺も後からやってやるから。それに女二人に勝てる自信がないのか?」

「バ、バカにするな!」


 男子生徒が顔を真っ赤にする。


「後悔するなよ……じゃあオレからいくぜ? うおおおおおおおお!」


 男子生徒は早速右手で鉄球を持って、肩のところにセットする。

 そして押し出すような形で、鉄球が手から放たれたのだ。


「どうだっ?」

「うむ……10ミータルだな。なかなかやるじゃないか」


 デズモンドがメジャーで計測すると、男子生徒は得意気に鼻をすすった。


「もしやお主。この鉄球投げという競技を知っておったな? 投げ方がまず違った」

「ふふふ。どうでしょうね」


 デズモンドに問いかけに、男子生徒はそう答えた。


 なるほど。

 肯定こそしなかったが、最初から鉄球投げというものを知っていたということだろう。

 だからこそ自信満々に喧嘩をうってきたのか。


 だが、投げ方とか知ってるかもしれないが、それでも体力任せに放り投げただけだ。

 二人の敵にはならないだろう。


「じゃあ……次はわたしだね」


 今度はララが鉄球を持つ。

 重そうだ。あんなに細い腕をしてるからなあ。無理もない。


「ララ。魔法、魔法」

「う、うん! 忘れてた!」


 ララが魔法式を組んでライズパワーを発動させる。


 ……うむ。

 今、魔法式を教えて一発本番でうまくいくかちょっと不安だったが、どうやら上手く組めたらしい。

 歪な魔法式ではあったが、なんとか発動は出来ていそうだ。


「えいっ!」


 そしてそのまま鉄球を放り投げる……。


「うおっ! どういうことだっ?」


 先ほどの男子生徒が驚きの声を上げる。

 ララの投げた鉄球は、明らかに男子生徒の二倍の距離のところまで届いていた。


「に、20ミータル……お主。なかなか怪力じゃなあ」

「クルトのおかげですっ」


 ララが嬉しそうに飛び跳ねていた。可愛い。


「じゃあ次は私ですね」


 マリーズが一歩前に出る。

 彼女は最初からライズパワーを発動させてたみたいだ。


 魔力の操作こそ、昨日特訓したララの方が上。

 しかし魔法式の完成度がララより段違いだ。

 はじめて教えてこれとは……だてに『天才』の異名は持っていなかったらしい。

 まだまだ改善点も多いが、魔法式の方向性は間違っていない。


「えいっ!」


 同じようなかけ声でマリーズが鉄球を放る。


 ぴゅいーん。

 まるで普通のボールのようにして、鉄球が弧を描いた。


「……に、25ミータルだと? バカな。儂の最高記録を超えたぞっ?」


 マリーズが達成した記録に、周囲のどよめきがより一層大きくなった。


「これが身体強化……魔法?」


 マリーズは自分も驚いたようにして、右手をグーパーと握ったり広げたりしていた。


「そ、そんなバカな……!」


 男子生徒は驚き、目を大きくしていた。


 さて。

 ララとマリーズのおかげで、大体コツはつかめたような気がする。

 次は俺の番だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ