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22・1秒で加工出来ますよ

「加工だと……?」


 店主がわなわなと震えている。


「はい」

「どういうことだ! この剣は完璧だろう? それなのにどうして加工する必要があるんだ!」


 どうやら怒っているらしい。


 店主には悪いが、このままではこの剣は使い物にならない。

 最初から俺は、この剣を素材としか見ていなかったのだ。


「このままだったら……いや、もっと良い剣に出来ると思いまして」

「誰がやるんだ?」

「俺がです」

「そんなこと出来るわけない!」


 店主は前のめりになった。


「クルト、本当にやれるの?」

「名職人エイベルさんの武器を加工する? そんなことしたら逆効果じゃないですか」


 ララも首をかしげ、マリーズも止めようとしていた。


「まあまあ。見てなって」


 と俺は服の内側から魔石を取り出した。

《宝物迷宮》で拾った魔石だ。

 今回はこれを使って、購入した剣を早速加工する。


「魔石だと……? どうしてそんな高級なものをお前が持っている!」


 店主がつばを飛ばす。


「うーん、道ばたで拾ったから?」

「そんな小石みたいな……」


 マリーズが呆れたような顔になった。


「じゃあ早速加工させてもらいますよ。良いですよね?」

「それはお前さんが購入したんだから、自由にしてもらっていいが……本当にやるというのか?」

「ええ」


 俺が頷くと、さっきまで怒っていた店主が一転してニカッと笑顔になった。


「相変わらず面白い小僧だ。良いだろう。俺の鍛冶場を貸してやる。そこで思う存分腕を振るうがいい」

「ああ、もう済みましたで大丈夫です」

「はあっ?」


 店主が転けそうになる。


「い、いつやったって言うんだ! ……ん? さっき持っていた魔石はどこにいったんだ?」

「さっき喋っている間です。魔石は剣に取り込みました」

「取り込んだ……? そんなことが出来るっていうのか……?」


 と目を丸くした店主。


 この時代の文明は魔石を直接加工して、刀身とかに代用するという方法なのだろうか?

 しかし多量の魔力を含んだ魔石を、そんな使い方をするなんてあまりにも無駄すぎる。

 そこで俺は剣に魔石を取り込み、魔法を付与……そして定着しやすいように加工したのだ。


「どこが変わってるのー?」

「見た目は変わってないように思えますが……」


 ララとマリーズが剣に顔を近付けた。

 ……もしかして、俺の加工技術に疑問を感じてるということなのか?


 確かに前世から、俺はそういった生産魔法は比較的苦手だった。

 苦手だった……とはいっても、俺より少し上かなというくらいの鍛冶職人は世界で一人だけだったが。

 そもそも黄金色の魔力は、生産職にあまり適していないのだ。


「そうだな……店主。試し斬りが出来るものはあるか?」


 と俺は尋ねる。


「試し斬りか? だったらマッド人形があるぜ。オリハルコンにも匹敵する人形だからな。何度斬りつけても大丈夫だぜ!」


 確か入学試験の的当てで使った、あのもろい人形だよな?


 まあそれでも良いだろう。

 試し斬りなら十分だ。



 その後、マッド人形が目の前に置かれている店の裏手に出た。



 マッド人形を見るに無数の切り傷のような跡がつけられている。

 店主の言った通り、試し斬り用の人形として使われているが、未だに両断出来た人はいないという証明だろう。


「あまり力入れるんじゃねえぞ? マッド人形が固すぎて、勢い余って骨折してしまったバカもいるからな」


 店主が忠告を入れる。


「分かりました。あまり()()()()()()ようにします」


 と俺は剣を片手で持ち、マッド人形を見据えた。


「えい」


 そのまま適当にマッド人形を横払いに斬る。


 すると——マッド人形は一回で上下にスパッと両断されてしまった。


「……は?」


 店主が口を半開きのままにしている。


「うむ……まあこんなものか」


 使ったのは魔石一つだけだからな。こんなもので良いだろう。

 俺はそう思いながら、剣をさやに収めた。


「ありがとうございます。では俺はこれで」

「ちょ、ちょっと待てー!」


 引き留められた。


「ど、どうしてそんなに斬れ味がいいんだ?」

「ええ。魔石を取り込んだ後、【鋭利化+500%】【筋力補強+500%】【軽量化】等々の魔法を付与してますから」

「今の一瞬で魔法を付与しただと? それに聞いたこともない二重も三重も付与出来るなんて聞いたことがない!」


 本当はもっと付与しているんだが、店主の腰が抜けてしまいそうだ。

 これ以上は言わないでおこう。


「それに……自分でも良い剣を作れたと思っていたが、そんな軽く振ってマッド人形が真っ二つになるなんて有り得ないぞ!」

「ああ、ごめんなさい。マッド人形って確か高いんですよね。すぐに直しますから」

「えーっ!」


 復元魔法でマッド人形を元に戻してやると、さらに店主は目が飛び出さんばかりに驚いていた。


「まあクルトだからね……やっぱりわたしの指輪に細工をした時にも、同じことをしたのかなー?」

「当然ですね。いちいち驚いてられません。だってクルトですから」


 二人の方はあまり驚いていないみたいだが、呆れたような視線が謎だ。


 さて。

 剣も買ったし、マッド人形も直したところで用は済んだ。


 改めて武器屋を後にしようとすると、


「待ってくれ! ……いや待ってください!」


 また引き留められた。


「今まで粗暴そぼうな態度を取ってしまって、申し訳ございません!」

「いえいえ、自分は気にしてませんから。じゃあ俺はこれで」

「お、俺の自信作五本……いや! 一本だけでいい! 一本の剣だけ、さっきみたいなことをしてくれませんか? 報酬のお金は言い値でいいですから!」


 やれやれ。


「無理ですよ。さすがに悪いです。それに魔石がもうないんで、さっきみたいなこと出来ませんから」

「それでもいい! だから……頼む! 一生のお願いだ!」


 手を合わせて、頭を下げる店主。


 このままじゃ帰らせてくれそうにないな。

 とはいっても、タダでやるのもそれはそれで違うような気がする。

 仕方がない。


「はあ、分かりました。一本だけですよ。ただ質の方は保証しません」

「た、助かります!」

「ただお金はいりません。そうですね……なにか良い素材とか剣を仕入れたり、もしくはなにか情報があったら一番に教えてくれませんか?」

「そんなことで良いんですか?」

「1秒で出来るし、さすがにそんなにお金貰えません」

「い、1秒っ?」


 今はお金より、情報を得る方が優先すべきだろう。

 その後、俺は店主自慢の一品とやらに【斬撃速度+500%】を付与してやって、今度こそ店を後にした。

「18000ポイント」まできました。本当にありがとうございます!

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