21・剣を買いに来た
「さて……と。お金も多少手に入ったし、これで良い剣を買えればいいんだが」
ギルドを出て、俺がそう呟くと、
「金貨300枚で多少……って! クルト、どれだけお金持ちなの!」
「そんなことないぞ。俺の生まれ育った村は田舎だし、普通の両親だ」
「それなのにどうして金銭感覚麻痺してるの……」
麻痺してるだろうか?
金貨300枚は大金だ。
どうやら貨幣価値みたいなのは、前世とさほど変わっていないので、それくらいは分かる。
しかし良い剣を買おうとしたら、どうしても金貨300枚では買えない。
例えば『魔剣リアドジク』には、金貨5000枚の値が付けられた。
一振りするだけで国が滅びると言われる魔剣だ。もっとも、ろくな結界を張っていないところ限定だが。
……まあその魔剣、俺が作ったんだが。
「クルト。自分で作ってみようとは思わないんですか?」
マリーズが尋ねる。
「マリーズちゃん! そんな簡単に剣なんて作れるはずないじゃん!」
「それもそうですが……クルトなら、なんとなく出来そうな気がしまして」
「無理だよ無理! だってクルトは魔法使いだよ? 鍛冶師じゃないんだから——」
「作れるぞ」
「えーっ!」
ララが目を大きくする。
いちいちアクションが大きくて、見てて飽きない。
「今まで剣を手に入れても、なかなかしっくりこなくてな。だから自分で作った方が早い、ということで勉強した」
「作った方が早いって……普通そう思わないよ」
「一人前の鍛冶師になるためには、20年の厳しい修行が必要と言われていますからね」
マリーズが腕を組みながら答える。
どうせその20年も「お前が鍛冶場に入るなんて10年早い! それまで雑用だ!」とか頑固職人が言ったりして、非効率な修行方法を採ってたからだろう?
前世でもそういうヤツはいた。
まあ魔法革命以降、武器に魔法を付与するのが当たり前になったので、そういう職人は自然と淘汰されていったが……。
新しいことを吸収しようとしないからだ。
「今回も作っていいんだけどな。だが、素材が足りない。俺の納得する剣を作るためには、少なくても《宝物迷宮》の100層には潜らないといけないだろうな」
もっとも、かなり小規模な迷宮なので、100層まで行ってもなさそうだが。
今回、剣を購入するのはそこに行くまでのつなぎなのだ。
「相変わらずクルトはさらっと、とんでもないことを言うね」
「いくらクルトでも100層は無理だと思いますよ?」
ララとマリーズが驚いていたが、彼女達もしっかりと魔法を鍛えれば、単独でも100層には辿り着くだろう。
話を戻そう。
「それで……王都に良い武器屋があるか知らないか?」
俺が尋ねると、ララとマリーズがほぼ同時に、
「知ってるよ! 王都一……いや、世界一とも言われている武器屋さんをね!」
「その武器屋は有名なんです。それこそ、世界中からそこの武器を求めて、お客さんがやって来るくらい」
ほお。
それは期待出来そうだ。
「じゃあ早速行こうか。二人とも、案内を頼むよ」
「「はい!」」
◆ ◆
二人が言っていた武器屋に到着したのだが、店内に入って俺は愕然としていた。
「これが世界一の武器屋……?」
ここに来るまでに、何件か他の武器屋にも入ってみた。
そこの武器屋……というか俺からしたらガラクタ屋なんだが……に比べたら、少しはマシなものを扱っている。
しかしどれも低レベルすぎた。
「ふふふ、小僧。儂の武器に見惚れているのか? だが、儂は自分が納得したヤツにしか武器を売らぬぞ?」
店主らしき人が現れて、俺達にそう言った。
「さすが名職人エイベルさんの武器だね」
「どれも素晴らしい一品です」
ララが剣を、マリーズが弓を持って目を輝かせていた。
……その二つとも、どちらも魔法すら付与してないぞ?
もろい金属として代表的なオリハルコンを使ってるんだぞ?
本当にそう思ってるのか?
なんてことを言ったら、この店主を怒らせそうなので黙っておいた。
「なにか武器は……おっ?」
それでも諦めずに武器を物色していたら、角を曲がったところの目立たないところにそれはあった。
「……これは少しは使えるみたいだな」
剣を握る。
オリハルコンが使われているのは仕方ない。この世界においては、魔石を加工して作られる魔金属は一般的じゃないみたいなのだ。
俺は分析魔法のアナライズを使って、その剣の詳細を覗く。
「ほう、小僧。その剣が気に入ったのか?」
いつの間にか店主が俺のところまでやって来て、そう問いかけてきた。
「うん」
「それは一番儂の自慢の武器だ。あえて目立たないところに置いていたが……どうしてそう思う?」
店主が怪しむような目線を向けてくる。
「まず素材のオリハルコンの加工が良いな。相当時間をかけたんだろう。丁寧にやれていて、純度が87%まで残っている。一ミクリ単位まで気を遣ったのが、見ただけではっきりと分かる」
「小僧、話が分かるじゃねえか。純度がどうとかは気になるが……」
店主がニッコリと笑顔になって、
「気に入った! 一目でそこまで見抜くとはな! 小僧になら、儂自慢の一品! 名剣エンマペヤーを売ってやる!」
自分で名剣って言ってるのか……。
1000年前の常識と照らし合わせたら、そこまで質の良いものではない。
だが、転生後の人生で今まで見た中では、一番まともであることは間違いないだろう。
なので。
「はい。ではこれを買わせてもらいます。値段はいくらですか?」
「聞いて驚くな……金貨100枚だ! これからびた一文まけん!」
「これが金貨100枚。ご確認ください」
「ふふふ、子どもには金貨100枚はきつかったか? しかしこの剣を買うために精進するがいい! 儂の名剣エンマペヤーを見抜いた貴様なら、10年も冒険者として働けば買えるはず……って、え?」
店主が目を丸くした。
おかしなヤツだ。
現金一括で買うって言ってるのに。
「き、貴族の子どもだったか……! ならば頷ける。鍛冶師として英才教育を受けているんだろうな」
店主が腕を組んで、軽く震えていた。
貴族でもなんでもないし、鍛冶師は目指してないのだが……。
「じゃあ今からその剣は小僧のものだ! 大事にするんだな」
「ありがとうございます」
頭を下げておく。
改めて剣を握って、刀身を光にかざしてみた。
「クルト、やったね! とっても似合ってるよ」
「はい、カッコ良い……じゃなくて、ララ! 武器にカッコ良さなんていらないですから! 機能性が大事です!」
「えーっ、カッコ良いか可愛い方がいいじゃん」
ララとマリーズがなにやら騒いでいたが、俺の方は分析が完全に終了した。
「さて……と。じゃあ早速この剣」
「ん?」
「加工させてもらいます」
俺がそう言ったら、店主はこれ以上ないくらい目を見開いていた。