2・転生したら衰退した世界だった
結論から言おう。
俺の転生魔法は成功した。
しかもきっちり1000年後の世界だ。
「よし……!」
そのことが分かって、俺は内心ガッツポーズをするのだった。まだ赤ん坊だけど。
「おお……! とうとうオレも一児の父か」
「見てください、お父さん! クルトちゃん、天使みたいな顔をしているわ!」
両親が抱きかかえ、俺に頬をすりすりとさせた。
さて……俺はレプラクタ家の長男としてこの世に生まれた。
父の名はアロイス。母の名はエミーリアと言う。
そして俺はクルト……クルト・レプラクタという名前を授かった。
家は特別裕福でもなければ、貧乏というわけでもない。中流家庭というヤツだ。
ちょっと親バカ気味なアロイスとエミーリアからの愛情をたっぷり受け、俺は十二歳となった。
ここまで特に問題もない人生であった。
だが、どうやら問題なのは世界の方だったみたいだ。
「この世界はどうなっちまったんだ……?」
読んでいた本を置いて、俺は愕然とする。
ここまで十二年。
もしかして?
なにかがおかしい?
と疑問に思いながらも暮らしてきたが、どうやら間違いないらしい。
この世界は1000年前に俺が住んでいた頃より衰退している。
特に魔法技術に関してだ。
1000年前。俺は魔法に革命をもたらし、全人類が魔法の恩恵を受けることになった。
しかし1000年後のこの世界では、どうやら魔法は『一部の才能がある者しか使えないもの』と特別視されているようなのだ。
これには驚きだ。
魔法革命が起こる前ならいざ知らず、魔法なんてそこらへんの子どもでも普通に使っていた。
日常生活に魔法が溶け込んでいる、と言い換えてもいいだろうか。
しかし1000年後の世界では、ほとんど誰も魔法を使わない。
それどころか、あれだけ発達していた魔導具の類も見かけないのだ。
「この1000年の間になにが起こっちまったって言うんだ……?」
1000年後はどんな魔法技術が開発されているのだろうか。
どんな便利な魔導具が、街中で使われているのだろうか。
そう心を弾ませていたのにガッカリだ。
……しかしまだ決めつけるのは早いだろう。
なんせ俺の生まれた村はかなりのド田舎みたいなんだ。
この狭い村の中だけかもしれない。
魔法文明に取り残された……ということだ。
現状を見るに、考えられにくいけど。
「じゃあ父さん、母さん。今日も遊びに行ってくるよ」
「おう、気をつけろよ」
父さんが新聞を読みながら答える。
「クルトちゃん。何回も言うけど、近くの森にだけは行ったらダメよ? あそこには魔物が棲んでいるんだから」
「うん。分かってる」
心配する母さんに手を振ってから、家を出る。
俺が向かう場所は——もちろん魔物が棲んでいる近くの森だ。
村から出て、少し歩いたところにそれはあった。
父さんと母さん……というか、村の人達から近くの森には行っちゃダメと言われている。
しかしなにもない田舎で唯一出来る楽しみというのが、いわゆる『魔物狩り』というヤツだ。
たまには魔物相手に魔法を放たないと、体がなまっちまうからな。
「とはいっても、俺を楽しませてくれる魔物はいないんだがな」
とぶつぶつ言いながら森の中を歩いていると、前方からウルフという狼型の魔物が現れた。
今日はすぐに見つけることが出来た。運が良い。
「うし……やるか」
ウルフは俺を見るなり、牙を向けて襲いかかってきた。
こちらに辿り着くまでに残り2秒といったところか……。
前世では0・001秒内での戦いが普通だったため、あまりに遅すぎて欠伸が出てしまう。
俺はゆっくりと魔法式を組むことにした。
完成した魔法式に魔力を注ぐことによって、魔法が発動するのである。
ウルフがまだ遙か前方にいる中、俺の目の前に槍を形取った炎が現れる。
ファイアースピアと言われる下級魔法である。
こいつにはこれくらいで十分だろう。
炎の槍はグングンと直進し、そのままウルフに突き刺さっていった。
「きゃうんっ!」
意外に可愛らしい鳴き声を上げながら、槍が突き刺さったウルフは地面に転がった。
「他愛もない……まあ前世では、ほとんどの魔物が俺を見るなり逃げ出してたから、こういうヤツは貴重なんだがな」
倒れているウルフに近付こうとした時であった。
俺を囲むようにして、十数匹のウルフが顔を現したのは。
「仲間がやられて、様子を見に来た……ということか?」
無論、ここまでの接近を許したのはわざとである。
探知魔法を使って、十数匹のウルフが近付いてきてるのはとっくに把握していたからだ。
「いいぜ、そっちから来い。良い運動になる」
「ウオオオオン!」
ウルフは遠吠えを上げながら、一斉に襲いかかってきた。
そして十数匹分のウルフが転がったのは、戦闘がはじまって5秒も立っていなかった。
「ふう。大分力も戻ってきたな」
拳をグーパーと広げて、魔力の馴染み具合を確かめる。
まだ前世での俺の全盛期には程遠い。
だが、着実に近付いていってるのは分かった。
「さて、狩りをもう少し続けるか」
あれから一時間くらい魔物狩りを続けてから、家に戻った。
「ただいま」
「おかえり。クルトちゃん! わたし、心配してたんだから!」
家に着くなり、母さんが俺に抱きついてくる。
家を空けていたのは少しだけなのに……。
「心配しすぎだよ、母さん」
「でも、でも! クルトちゃんは……」
瞳に涙を浮かべながら、俺をジッと見つめてくる母さん。
「そうだ、クルト。森なんかでウルフなんかに出会ったら大変なことになる。自警団の人でも、一匹倒すのに命がけなんだからな」
……俺はあれから三十匹以上のウルフを倒したが?
「大丈夫だよ、父さん。魔物なんか現れたら……魔法で倒してやるから」
「ハハハ、心強いね。まあお前にはなにか才能があると思ってはいるが……魔法というのはなかなか面白い冗談だ」
冗談ではない。さっきまで魔物を倒してからだ。
ちなみに魔法を使えることは、両親には内緒にしている。
無駄に騒がれるのが面倒臭かったからだ。
「なぜならお前は——欠陥魔力なんだからな。魔法にだけは色気を出すんじゃないぞ」
「そうよ、クルトちゃん。お母さんあんまり分からないけど……ほら、欠陥魔力っていうのは魔法に一番向いていないんでしょ? だからクルトちゃんは危ないことをしちゃダメ!」
そうそう、この『欠陥魔力』という常識が一番驚いたのだ。
魔力には種類があり色が付けられている。
それは1000年前も同じであった。
だが……欠陥魔力?
なにを言う。
俺が現世にて引き当てたのは魔法に最も適した魔力色——黄金色ではないか。