コミカライズ8巻発売記念短編・光の果てに立つ者
コミカライズ8巻、好評発売中です!
こちらはその記念短編となっています。
「クルト、一緒に舞台を見に行きませんか?」
ある日。
教室で帰る準備をしていると、マリーズに話しかけられた。
「舞台?」
「はい!」
聞き返すと、マリーズは鼻息を荒くして、早口で捲し立てる。
「ここから馬車で三日ほどかけて行った街で、『光の果てに立つ者』という舞台が行われるんですよ! 勇者を主人公とした王道の物語で、笑いあり涙ありの大人気舞台です! 毎回チケット争奪戦になりますが、今回たまたま二人分のチケットが取れまして、ぜひあなたと一緒に見に行きたいと!」
勇者……か。
そういえば先日、異世界に召喚されて勇者と囃し立てられたことがあったな。
夢か現実か分からない出来事であったが、あれはなかなかに勉強になった。
「面白そうだな」
俺はそう声を返す。
「いいだろう。行こうではないか。丁度、学園も一週間の長期休暇に入る。特に用事もなかったし、ぜひ一緒に行きたい」
「やった……!」
マリーズは後ろを向いて、ぐっとガッツポーズを作る。
「二人分のチケットを取ることもそうですが……ここまで幸運が続くなんて! クルトと二人きりの旅行です。旅行先で一体どんなことが──って、私はなにを考えているんですか!? ハレンチです。でも、ちょっとくらいは期待しても罰は当たらな……」
「おーい、マリーズ。なにを言ってるんだ?」
急にすごい勢いでぶつぶつ呟き出したマリーズに声をかけるが、彼女は気付いていないよう。
変なヤツだな。
だが、久しぶりの休暇だ。
舞台俳優として演技をした経験もあるし、観劇を通して新たな魔法習得のヒントに出来れば……そんなことも考えていた。
「あっ、マリーズちゃんだ!」
「クルトもいる」
一人の世界に入ったマリーズを見守っていると、ララとシンシアもやってきた。
「二人でなにを話してたの?」
「なあに、次の休暇に舞台を──」
「な、なんでもありません! クルトも余計なことを言わないでください! いつものパターンだと、ここで私の計画が台無しになるんですから!」
説明しようとするが、マリーズがすかさず俺の言葉を遮る。
全く、さっきからなんだというのだ。
「ふうん? まあいっか」
ララは首をかしげ、「そんなことより聞いて!」と声を弾ませた。
「実はいいものが手に入ったんだ! クルトは『光の果てに立つ者』っていう舞台は知ってるかな?」
「知ってるぞ。丁度マリーズとその話をしてたんだ」
「丁度よかった。実はたまたま二人分のチケットが手に入ったんだ! それでシンシアちゃんも見たいと言ったから、二人で行くことになって」
「シンシア、前からその舞台をずっと見に行きたいと思ってた……! 今から楽しみ」
シンシアは相当楽しみなのか、彼女にしては珍しく声が上擦っているように感じた。
うむ、奇遇だな。
「それなら、俺もマリーズと行くつもりだったんだ」
「え?」
「よかったら、四人で見に行くか? 大勢で行った方が楽しい」
それによくよく考えれば、マリーズだって俺と二人きりで出掛けることに抵抗があるかもしれない。
今更二人きりの旅行ごときで、気を遣う必要がないと言っても……だ。
そう考えれば、ララたちも舞台のチケットが取れたことは好都合。俺にしては良い気遣いが出来たんじゃないだろうか?
「うん! 行こ行こ! すっごい幸運だね!」
「きっと日頃の行いがよかったから」
よかった。
ララとマリーズも乗り気のようである。
あとは旅行に向けて準備を始め……。
「ああ……」
だが、マリーズはなにか気にかかることでもあったのか、露骨に肩を落とした。
「やっぱり、こうなってしまった……せっかく二人きりの旅行だと思っていましたのに。きっと、抜け駆けしようとした私に対する罰です……」
「マリーズ。さっきから、なにを変なことを言ってる。もしかして四人で舞台を見に行くことが嫌なのか?」
「いえ、そうではありません。四人で行きましょう。あなたが鈍感なのは今更ですし」
少し投げ槍な感じで、マリーズが答えた。
情緒が不安定なヤツだ。
なんにせよ、予定が埋まった。
1000年前では、誰かと旅行に行くことなんてなかったな。俺は早くも、舞台当日を楽しみにするのであった。
◆ ◆
そして当日。
俺たちは三日かけて舞台が開かれる街まで行き、観劇を終えた。
「面白かったね〜」
「私、興奮しっぱなしでした!」
「最後は感動で泣いちゃった……」
宿まで歩きながら、ララたちは各々舞台の感想を言い合っている。
「クルトはどうだった? あまり表情が変わらなかったから、面白くなかったのかな……って思ったけど」
「ふっ、なにを言う。最高だった」
『光の果てに立つ者』はオーソドックスな物語で、あまり観劇などしない俺でも楽しめた。
特に最後の、愛する人のために立ち上がる勇者を見た時は、心が震えたものだ。
表情が変わらないように見えたのも、どう魔法に活かそうか考えていたからだろう。
「それにしてもララ、よく俺の表情が変わっていないことに気付いたな? 舞台に集中していると思ったが」
「……っ!」
俺がそう指摘すると、ララはびくっと肩を震わせた。
「た、たまたまクルトの顔が目に入っただけだよ。それ以外はずっと舞台を見ていたよ?」
「本当か? もしや、体調が悪いんじゃ……」
「とにかく!」
ララは強引に話を打ち切り、こう続ける。
「今日はこの街で一泊だね! わたしとマリーズちゃんと、シンシアちゃんで一部屋。クルトとは別部屋で予約を取ってあるけど……本当によかったの?」
「もちろんだ。ララたちのような可愛い女の子と、同じ部屋に泊まるわけにはいかないだろうに」
「シンシアは別によかったけど……」
俺としては当たり前のことを言ったつもりだったが、何故かシンシアは不満顔であった。
「これから泊まる宿は、キレイなところみたいですね。温泉もあるみたいですし、日々の疲れを取って──」
とマリーズが言葉を続けようとした時であった。
「た、大変だ!」
突如、街の中に剣呑な声が響き渡った。
俺は足を止め、声の方へと耳を澄ます。
「自警団から連絡が入った。どうやらこの街に、隕石が落ちてくるらしいぞ!」
「な、なんだと!? どうして今まで気がつかなかったんだ!」
「隕石はものすごい勢いで向かってきているらしい。自警団の予測によると、落下まで残り一分。もうこの街はお終いだ!」
ざわざわ。
街が阿鼻叫喚に包まれる。
「い、いいいい隕石だってさ! クルト、どうする!?」
「ララ、なにをそんなに慌てているんだ? たかが隕石じゃないか」
嘆息する。
こうしている間にも、人々は街から脱出しようと逃げ惑っている。
しかし時間が少なすぎだ。
ごった返したような騒ぎになっていると、上空から炎に包まれた隕石が向かってきた。
なるほど。これが街に落ちればタダでは済まないだろう。
だが。
「隕石ごとき、握り潰してしまえばいいだけだろう?」
隕石に向かって手をかざす。
そしてそのまま、ぎゅっと強く握りしめた。
ドガァァアアアアアン!
そんな破裂音が響いたかと思うと、隕石は空中で木端微塵に砕け散った。
隕石の破片が街へと降り注ぐが、咄嗟に結界魔法を張って凌ぎ、事なきを得たのであった。
「い、隕石が弾けた……!」
シンシアが驚愕で目を見開く。
「驚くことはない。これは所謂、あるあるだ」
実際、千年前もこういう出来事はよくあった。
どうやら一万年に一度、隕石が落ちがちの周期だったらしい。
だが、その時も俺は慌てなかった。
落ちてくる隕石を壊し続けていると、いつしか魔力を込めてぎゅっと拳を握るだけで、破裂させることが出来ていた。
この時代では初めての隕石だったが……俺の腕も鈍っていないようだな。
「さあ、宿に行こう。温泉に入るんだろう?」
「今更ですが……相変わらず、クルトは規格外ですね。街一つ──いえ、下手をすれば大陸滅亡の危機だったというのに、一瞬で解決してしまうとは。スピード解決すぎます」
マリーズがジト目で俺を見る。
彼女の視線を受け流し、再び歩き出そうとすると。
「勇者だ……」
街の住民の一人が、唐突にそう声を零した。
そしてその声は周りに伝播していく。
「隕石を一瞬で砕くなんて……あの人は何者!?」
「まるで『光の果てに立つ者』の勇者みたいだ!」
「有り難や。まさか舞台が終わっても、こんな感動的な場面に立ち会えるとは……」
おや?
人々はいつしか俺を囲み、「勇者! 勇者!」と喝采を上げ始める。
「面倒なことになったな」
頭を掻く。
これでは、すぐに宿で体を休められないではないか。
平和な旅行。
だが、運命の悪戯と言うべきだろうか──どうやら神は、俺たちをゆっくりさせてくれないようだった。
おかげさまで、石後千鳥先生によるコミカライズ8巻が発売となりました。
8巻はいよいよコミカライズの最終巻となっています……!
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