表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/189

コミカライズ7巻発売記念短編・クルトの暇つぶし(下)

コミカライズ7巻、好評発売中です!

 その後、悪魔から話を聞くと……。



『……というわけなんだ。そいつ……精霊が、オレの育てたリンゴを勝手に食べやがった。オレが怒るのも仕方ないだろう?』



 悪魔はその巨体を縮こませ、体育座りをしながら、事の経緯を説明してくれた。


 どうやら、こいつは悪魔の農家らしい。

 人里から離れ、ひっそりとリンゴを育てていたが……その時にこの精霊が現れ、リンゴをパクリと食ってしまったらしい。


 だが、悪魔も鬼じゃない。精霊が謝れば、それで終いにするつもりだった。

 しかし、こともあろうか精霊は『不味い!』と言い放ち、謝りもせずに悪魔の前から逃亡。

 憤怒した悪魔は精霊の魔力を辿って、ここまで追いかけてきた──というわけだった。


「…………」


 その説明を聞き、俺は精霊の方へ顔を向ける。


「お前が──全面的に悪いではないか!」

『ご、ごめんなさい!』


 すかさず慌てる精霊。


『精霊と悪魔っていうのが、仲が悪くてね……なんで悪魔に謝らないといけないと思ったら、つい不味いって言っちゃった』

「はあ……。精霊たちの事情も理解するがな。だが、大切に育ててるリンゴを勝手に食べて、謝らないのはダメだ。ほら、そいつに謝れ」

『ごめんなさい……私の口には合わなかったけど、あんたの努力をバカにしちゃったわ。私が全面的に悪い……です。リンゴは不味かったけど』

『分りゃあ、いいんだ。なんか腑に落ちないが……』


 精霊からの謝罪を受け、悪魔は深く溜め息を吐く。


『まあ、これに懲りたら、もう勝手にリンゴを食べんなよ。あっ、ちゃんとお金を払うなら別だ。ちゃんとお客さん扱いはする』

『ありがとう。でも、行かないと思うわ。だって、不味かったし』

「お前は謝るのか喧嘩を売るつもりなのか、どっちなんだ!」


 俺が叱ると、精霊は『ひっ!』と短い悲鳴を上げた。


 悪魔も色々と思うところがあるんだろうが、これ以上俺たちと関わり合いになりたくないと考えたのだろう。苦い顔を作ってから、その場からおとなしく去っていった。


「とんだ災難だったな……まさか、喧嘩の仲裁をすることになるとは」

『ごめんなさい……』


 俺が溜め息を吐くと、精霊は心の底から申し訳なさそうに謝罪した。


「……まあいい。お前は元の場所に戻れ。俺はそろそろ寮に戻る。補習も終わってる頃で──」

『待って!』


 踵を返そうとする俺を、精霊が慌てて止めにきた。


「まだなにか用か?」

『ええ。とっても大事な……ね』


 そう言うと、精霊は自分の胸をバンッ! と叩き、力強くこう告げた。


『あんた、私のカレシになってくれない?』

「はあ?」


 妙なことを言われ、今度は俺がきょとんとする番だった。


『人間なんて、みんなバカだと思った。でも……あんたは違った。精霊よりも聡明で……そして、なによりも優しい。お願いします、私と付き合ってください!』


 顔を赤くし、右手を前に差し出す精霊。


 いきなり、なにを言うんだか……。

 好意を向けられることは嫌ではないが、生憎そんな暇はない。俺は魔法を探求しなければならないのだ。


 ゆえに否定の返事を紡ごうとすると──。



「クルトー!」

「補習、終わりました」



 タイミングがいいのか悪いのか──。

 ララとマリーズが手を上げて、学園の校舎の方から走ってきた。


「ララ、マリーズ」


 俺は精霊から視線を外し、二人の名を呼ぶ。


「補習、無事だったか?」

「うん! いつもクルトに教えてもらってるもんっ! 補習くらい、お茶の子さいさいだよ!」

「あなたの授業に比べたら、とても簡単でした」


 ララとマリーズは俺の前で立ち止まり、そう口にする。


「そうだったか。よしよし……」


 ララとマリーズの頭を撫でてあげる。

 ララは満面の笑顔。一方、マリーズは頬を朱色に染めて、恥ずかしそうに俯いていた。


 心配はしていなかったが、やはり二人にとって補習など取るに足らないものだったか。


 まあ、当然だろう。

 千年前でも、ララとマリーズ以上に出来た人間は希少だったのだから。


 二人に感心していると……。


『あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……』


 精霊は口元に手を当て、この日一番の唖然顔を俺に披露すると、



『こ、この浮気者おおおおおおお!』



 また妙なことを言い出した。


「浮気者?」

『私という女がいて、なによ、その二人!? いきなり浮気? わ、私との思い出を忘れたの? あんなに可愛がってくれたのに……』


 精霊は勝手に自分の世界を展開し、くるりと踵を返す。

 どうやら、こいつの中では既に俺と付き合ってることになっていたらしい。


 そのまま精霊は次元の狭間を開け、


『し、失恋だわあああああ!!』


 そう叫んで、次元の先へと消え去ってしまった。


「一体なんだったんだ……」


 終始訳の分からない精霊だったな。


 だが、告白を断らずに済んだ。

 いくら付き合う気がなくとも、相手の好意を断るのは、それなりに精神に負担がかかるからな。


 問題は、あの様子だとまた来そうなことだが……。


「……クルト。さっきの精霊だよね? なんだったの?」


 後ろで。

 ララがぞっとするような声を上げた。


「いや……ちょっと遊んであげてて……」

「遊んで!? 彼女、泣いていましたよ? あなたを見損ないました。まさか、女と遊びで付き合うなんて!」


 マリーズも腹を立てているのか、拳を握ってわなわなと震える。


 ……やれやれ。

 いい暇つぶしになったと思ったが、どうやら本番はこれかららしい。


 その後、なにがあったのか──その説明に、俺は多くの時間を費やしてしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ