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コミカライズ2巻発売記念短編・一番弟子

本作品のコミカライズ二巻が本日発売となりました。

こちらは発売記念の短編となります。

時系列でいうと、クルトが学校の授業でデズモンドに魔法を教えてから……になります。

「ねーねー、クルト君。ここの問題ってどうやって解けばいいの?」

「クルト! 頼む、教えてくれ。次の中間考査で赤点だけは取りたくないんだ!」

「順番を守りなさい! 今日は私が教えてもらえるはずだったんだから……ねー、クルト君」


 中間考査まで一週間を切った。


 そんなとある昼休み──クルトの周囲に人だかりが出来ていた。

 みんなは教科書やノートを片手に、彼に殺到している。


「待て待て……そう慌てるな。ちゃんと教えるから……」


 クルトはちょっと困った様子ながらも、丁寧に対応している様子だった。


 しかし──いや、だからなのか。クルトに駆け寄る生徒は減るどころか、ますます増えていくばかりである。

 これでは全員をさばき終えることもないまま、昼休みが終わってしまう。

 それほどの人だかりであった。


「マリーズちゃん……このままだったら、クルトがみんなに取られちゃうよ」

「ララ、奇遇ですね。私も同じことを思っていました」


 それを少し離れたところから見つめる二人の少女がいた。

 ララとマリーズである。


(先日の実技の授業から……クルトの人気はとどまることを知りませんね)


 そんな光景に嘆息しながらも、マリーズは思う。


 先日の授業──クルトは教師のデズモンドに身体強化魔法の使い方を伝授した。

 少ししか教えていないのに、デズモンドはすぐに魔法を使えるようになった。

 あの時はまだ荒く、戦闘では使い物にならなかったが──彼はそのまま鍛錬を続け、今では戦いに魔法を織り交ぜているのだという。


 デズモンドは口を開けば「筋肉!」「体力!」と言っていた脳筋教師だ。

 それなのにクルトに感化され、そしてこれほどの短期間で魔法を使えることになったのは驚愕に値する。


 その光景に衝撃を覚えたのはララとマリーズだけではなかった。


(あれからクルトに勉強や魔法を教えてもらおうとする生徒が増えました。クルトも断ればいいものの……彼も本質的には優しいですからね。来るもの拒まずの姿勢でみんなに勉強を教えています)


 そんなクルトはマリーズから見て眩しく、そして素直に尊敬出来るものであった。


 しかしその結果がこれである。


 いくらクルトがすごいにしても限度がある。

 彼は一人しかいないのだし、クラス全員を均等に教えることなど不可能だ。


「中間考査も近づいてきてるし……だからみんな、クルトに教えてもらおうとしているのかな?」


 ララが不安そうな表情を見せる。


「その通りです。なんせクルトは教え方も一流ですからね。ちょっと教えてもらった子が、次の小テストで満点を取ったという話も聞きます」


 しかもその子は毎回小テストで悪い点数を取り、居残りを命じられるような──所謂『劣等生』だったのにも関わらず、だ。


「そうだよね。クルトはなにをやっても一番なんだからっ! わたし達もクルトに教えてもらってから、驚くくらい成長しているもんね!」


 少し声のテンションが上がるララ。

 クルトのすごさについて言及されると、どんなに落ち込んでいても元気になる。ララはそういう子だった。


 しかし。


「……まあそのせいで私達、クルトと落ち着いて喋ることも出来ていないのですが……」

「うん……」


 再び顔を暗くするララ。それはマリーズも同じであった。


 とはいえクルトもそのことに気付いており、放課後にはマリーズとララに構おうとする。

 だが、休み時間もクラスメイトの相手をしていて、クルトがろくに休めていないことも彼女たちは知っている。

 それなのに放課後にも教えてもらうなんて……そんな図々しい真似は出来ないとマリーズは思った。


 しかし。


「このままじゃわたし達、捨てられちゃうかも……」

「ラ、ララ!? なにを言っているんですか! そんな捨て猫みたいな……」

「でも今のわたし達ってそんな感じじゃん。このままクルトと距離が離れていって、そして消えていく……」

「うっ」


 ララの言ったことに、マリーズはそれ以上反論出来ない。

 これは由々しき事態である。


(クルトに捨てられるなんて考えたくもありません! でも……ララの言うことに一理あります。なんとかして、クルトの心が私達から離れていかないようにしなければ……)


 とマリーズが逡巡していると、


「……そうだっ! マリーズちゃん」


 ララが手を叩いて、パッと表情を明るくする。


「なんですか?」

「わたし、良い考えがあるんだ。次の中間考査で……」


 ララがごにょごにょとマリーズに耳打ちする。


「……それはいい考えですね。クルトにも負担がかからないですし」

「でしょ!」

「でもその方法なら──私はともかく、ララは大丈夫なんですか?」

「むぐっ」


 言葉を失ってしまうララ。


 しかしすぐに気を取り直し、


「だ、大丈夫だよーっ! でも……一人だけだったら不安だからマリーズちゃん、協力して!」


 と握り拳を作り、それをブンブンと上下に振った。


「もちろんです。二人で頑張りましょう」

「頑張ろー!」



 ◆ ◆



「ふう……」


 俺は溜め息をつきつつ、寮内の自室へと向かっていた。


「ようやく中間考査も終わったし、やっと一息吐けるな」


 無論、俺の方は問題ない。


 テストは全教科満点であった。いくつかの答案用紙には俺の独自理論も書き足しておいたので、入学テストの時と同様『∞点』になっていた。あれは無用に騒がれるもとになるのでやめて欲しい。


 なにはともあれ、無事に中間考査が終わったのだ。

 俺のクラスメイト全員、赤点は免れ平均点も他クラスに比べて断トツだったらしい。上々の結果である。


「気になるのはララとマリーズだな……」


 このテスト勉強期間中──ララとマリーズは何故か積極的に俺と関わろうとしなかった。

 今までなにもなくても「クルト! クルト!」と駆け寄ってきたのが嘘のようだ。

 さすがに気になって二人に話しかけようとしたが、決まって……。



『いいの、いいの! クルトはお疲れだろうしね。ゆっくり休んでてて!』

『そうです。あなたは少しは休むことを覚えるべきです』



 とはぐらかされてきた。



 ──もしかして二人に嫌われたのか!?



 そう心配にはなったが、それ以外は彼女たちはいつもの様子と変わらない。どうやら違うようだ。


 ……なんてことをグルグル考えて、なんならそっちの方に気を取られてしまった。


「まあいい。少し落ち着いてきたし、二人とちゃんと話をしてみるか。なにか理由があるかもしれないし……」


 そうこうしていたら自室の前まで辿り着いた。


 俺はそのままドアノブを捻り、中に入ると──。



「「クルト!」」



 何故だかララとマリーズの姿があった。


「……ん? 二人とも、どうしたんだ。というかどうして俺の部屋にいる」

「鍵が開いてたから、クルトが来るまで待たせてもらってたんだ! ダメだったかな?」


 ダメだ。不法侵入は犯罪だ。


 ……まあ鍵を閉めるのを忘れていた俺が悪いだろう。


 俺は魔法でなんでも解決出来るので、こういう細かいところにはついつい無用心になってしまう傾向がある。

 この性格は今後直さなければ。


「……でもう一度聞くが、どうしたんだ? その様子だとなにか俺に言いたいことがあるみたいだが……」


 ララとマリーズは両手を後ろに回して、もじもじと体をくねらせている。


 そして勢いよく、一枚の用紙を俺の前に差し出し、



「見て見て! わたし、『魔法』のテストで百点だよ! すごくない?」

「私もです」



 と嬉しそうに言ったのだ。


 二人の答案用紙の右隅には『100点』という赤字が。

 しかもそれが花丸で括られていた。


「お、おお……! すごいじゃないか。百点とは驚いた」


 これは素直な気持ちである。


 ララとマリーズにとっては簡単な内容だったと思うが──それでも後半にはいくつか難問も用意されていた。

 それを潜り抜けて百点を取るとは──大したものだ。


「マリーズちゃんに教えてもらって勉強頑張ってたんだ〜」

「ララったらすごかったんですよ。寝る間も惜しんで勉強して……でもララも百点で私も嬉しいです」


 きゃっきゃっとはしゃぎあう二人。


 うむ、ララとマリーズも仲良くなったものだ。


「ねえねえ、クルト」


 一転。

 ララが真剣な表情をして口にする。


「これでわたし達、クルトに捨てられないかな?」

「は? 捨てられる?」

「うん。ほら、最近クルトって他の子達から大人気だったじゃん。だからこのままだったら、わたし達のことなんて忘れちゃうかも……ってマリーズちゃんと話してたんだ」

「そこで今回の中間考査、魔法の教科だけでも百点を取ろうねっていう話になったんです。そうしたらクルトも私達のことを見てくれるでしょうから……」

「クルトに教えてもらうのが一番なんだけど、疲れているだろうしね。だからマリーズちゃんとわたしだけの力で百点を取ろうって……」

「──っ!」


 ……やれやれ。

 相変わらず二人は俺を驚かせてくれる。


 優等生のマリーズはともかく、ララはそこまで筆記テストが得意なわけではない。百点を取るために並々ならぬ努力をしていただろう。


 しかもその理由が俺に捨てられたくないから? 

 忘れられたくないから?


 なにを言う。


「そんなことをしなくても、俺は二人のことを忘れたりしないさ」


 ポンと二人の頭に手を置く。


「しかし二人とも百点を取ったのは称賛に値する。二人とも、よく頑張ったな。すごい」

「「クルト……」」


 ララとマリーズがうっとりした視線で俺を見る。


「そして──他の生徒を教えていても、二人のことは片時たりとも忘れなかった。なんせ二人は俺の()()弟子だからな」


 そうだ。

 この部分だけは変わらない。

 俺のことを気遣ってくれる二人のことが、とんでもなく可愛く思えた。

 こんな二人のことを俺は忘れたりなんかしない。


「えへへ、一番弟子って言ってもらえちゃったぁ」

「あなたにそう言ってもらえると、私も嬉しいです。ですが……」


 嬉しそうに表情を緩ませていたマリーズであったが──途端に視線を厳しいものにして。


()()()()って言うのは納得出来ませんね。だって一番は一人だけでしょう?」

「……ん?」

「クルト、選んでください。私とララ、どっちが一番なんですか?」

「そうだよーっ、クルト! マリーズちゃんの言う通り!」


 風向きが変わった……?

 どうして今までなごやかムードだったのに、急に俺が怒られる流れになっているんだ……。


「ちょ、ちょっと待て、二人とも。それはさすがに俺でも選び難い……」


 たじたじになっている俺を見て、ララとマリーズは楽しそうに笑っていた。

コミカライズもぜひぜひお願いいたします!

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