コミカライズ発売記念短編・1000年で変わるもの。変わらないもの
本作品のコミカライズ一巻が発売中です。
記念として……短編を書いてみました。時系列でいうと、クルト達がロザンリラ魔法学園の入学試験を受けている時になります。
「次はわたしだよぉ……大丈夫かな」
俺の方の実技試験も終わり、次はララが戦うことになった。
ちなみに……先ほどのデズモンドとの戦いでボロボロになってしまったステージは、元通りに戻っている。
さすがにこのままでは、他の者の試験が続行不可能だからな。魔法で修復してやったのだ。
その際、また驚かれたが……「この程度でなにを?」と思わないでもない。
「ララ、自信を持て」
不安そうに俯いているララに、俺はそう声をかける。
「ララの実力は間違いなく、ここにいる連中の中でも一、二を争うだろう。自信を持って試験に挑めば、自ずと良い結果になるはずだ」
「そ、そうかな?」
「ああ」
「そっか……ありがと、クルト! 励ましてくれて! 一、二を争うってのは言い過ぎだと思うけど……ちょっと自分に自信を持てるようになったよー」
握りこぶしをギュッと握ってララが言う。
別に言い過ぎでもないのだが……まあ結果的にララが前向きな気分になったなら問題ない。
俺はお世辞を言わないのだ。
「じゃあ行ってくるね!」
「頑張ってくるんだな」
手を振るララを、俺はそう言って見送った。
◆ ◆
「勝者! ララ!」
試験がララの手を掴み、高く上げる。
ララは俺の方を見て、ウィンクをした。
うむ……やはり勝負は一瞬で付いたな。
ただでさえ赤色魔力のララは攻撃系統の魔法に優れている。
さらにそんな彼女に、俺のチューニングした指輪を持たせているのだ。
最初のファイアースピア一発で勝負が付くことは、容易に予想出来た。
「やはり……ララには才能がある。魔法文明が衰退している世では、俺より強いヤツはいないかもしれない——そう思っていたが、なかなかどうして……素晴らしい才能を持った者もいるようだ」
腕を組み、喜んでいるララを見ながら思う。
周りにいる者もララの快進撃に目を見張り、コソコソと会話をしていた。
「あのララって子、強くない!?」
「うんっ! 見かけは可愛いのに、あんなに強いだなんてビックリだよ」
「オレ……あの子とお近づきになりたいな。あの子なら試験は合格だろうし、オレも絶対に合格してみせるぜ!」
「たとえお前があの子と同じクラスになっても、仲良くなれないと思うぞ」
みんながララに賞賛をしている。
それを聞いて、俺はまるで自分のことのように嬉しく思った。
だが……。
「でも……クルトっていう男の子がすごすぎて、正直ちょっと見落とりしちゃうな」
「間違いない。だが、ララって子は悪くない。クルトの野郎がすごすぎなだけだ。ララもシゼノスナ家のご令嬢も、トップクラスではあるが……」
「クルトは化け物だった。正直、強すぎてちょっと近寄りがたいし……」
「あっこまで強かったら、ちょっと引くよな」
俺に聞こえていないと思っているのか、そんな声も聞こえてきた。
——化け物。
——ちょっと引く。
その言葉を聞いて、俺は暗い気持ちになった。
1000年前においても、強すぎる俺を周囲の者は『異端者』と呼んだ。
強すぎる力は周囲から注目を浴びる。それは俺の場合は度を超え、迫害するまでにいたった。
そのせいで周囲の者は俺を遠ざけて、見ないようにしていた。
——この世界においても、それは変わらないのか?
他の者より秀でていている者は迫害される。
これでは1000年前となに一つ変わらないではないか。
それなら何故、俺はこの世界に転生を……。
「クルトっ!」
そう考えていると。
ララの声が聞こえ、そちらに視線をやったと同時——彼女が俺に抱きついてきたのだ。
い、いきなりなにをする!?
前世から女の子に触れられた経験は乏しかったため、戸惑いを隠せない。
「クルトのおかげで試験にも勝てたよ! ありがとっ! クルトがよかったら、これからもわたしと仲良くしてねっ」
弾んだ声でララがそう口にする。
……そうか。まだ早いな。
やれやれ、俺としたことが結論を急いでしまった。
まだ転生してきて、面白くなるのはこれからではないか。
その証拠に……俺のことを遠ざけようとしない、ララのような素晴らしい人間に俺は巡り会えた。
それだけでも転生してきた価値がある。
「……ああ、もちろんだ」
ララの頭をポンポンと叩くと、彼女は「えへへ」と照れたような表情になった。
そう……楽しくなるのはこれから。
もしかしたらララ以外にも、俺のことを好ましく思ってくれる人物にも会えるかもしれない。
俺はこれから繰り広げられるであろう楽しい日々に、胸を踊らせるのであった。
「ん?」
そんな時。
チクチクするような視線を感じ、俺はそちらに顔を向けた。
「……ふんっ」
ここから少し離れた観客席で、俺を見ていた一人の女の子を見つけた。
確か……あれはマリーズといったか?
先ほどの試験で、デズモンドの前に戦った女の子だ。
彼女は俺の視線に気付くと、顔を背けてその場から立ち去ってしまった。
「……あの子には嫌われてしまったようだな」
「クルト?」
俺の呟き声に、ララは首をかしげた。
「いや、なんでもない」
「そっか……なんだかよく分からないけど、嫌われてなんかいないと思うよ」
「どうしてそう言える?」
「うーん……わたしの勘!」
堂々とララは胸を張った。
まあララの勘は侮れないからな。彼女もあの実力だったら合格だろうし、入学してから少しずつ距離を縮めていければいいか。
……だといいな。
マリーズの顔を思い浮かべながら、俺はそう考えるのであった。
コミカライズもぜひぜひよろしくお願いいたします!