178・酒場でモテモテになった
コミカライズがニコニコ静画にて連載開始しました!
よろしくお願いいたします!
酒場がざわついている。
「うむ……少し暴れすぎたか?」
肩を回す。
とはいえ、ちょっとしたお遊びに付き合ってやっただけなんだがな。この程度でざわつくとは……やはり神とはいえ、大したことがない。
わざわざ挑発する必要はない。
しかし人は『怒り』という感情が動いた時、思わぬことを零したりもする。
ここは一度挑発してみて、相手の動きを見てみるか。
「どうした? 文句があるなら言え……」
と言葉を続けようとした時であった。
「お兄さん、すごいねー!」
横から突如女が俺に抱きついてきたのだ。
「なっ……!」
女の柔らかいところとかが当たってしまい、つい反応が遅れてしまった。
全く……! 俺はいい加減慣れなければ。
すぐに女を振り払おうとしたが。
「カッコよかったよ。あいつは酒癖が悪くてね。私達も困っていたんだよー」
と女は続けた。
あらためて見ると、メイドのような服を着ている。これは……。
考えていると、周囲からも声が上がった。
「おいおい! バドラーに腕相撲で勝っちまうなんて、あいつ、本当に人間なのか?」
「そもそもあれは腕相撲だったのか?」
「よく見えなかったが、あそこでバドラーが転がっているんだから、あのお兄ちゃんが勝ったんだろ」
「大したもんだよ……まあよく見えんかったことに変わりないが」
拍手喝采。
……どうやら俺に喧嘩を売ろうとしているわけではなさそうだ。
「う、うむ……そのバドラーとかいう男はよほど嫌われていたみたいだな」
バトラーと呼ばれた男は、相変わらず床で転がって目を回していた。
なんだったんだ、こいつは。
「で……お前は誰だ?」
「私はここの店員だよ! いっつもバドラーには尻を触られて困っていたんだっ!」
女店員は自分の頬を、俺の顔にすりすりする。
こういうことは止めて欲しい。
その女店員は豊満な体つきをしていた。そのせいで頭がくらくらしてしまう。
「さあさあ、そんな端っこじゃなくてここに座って!」
女店員が俺を無理矢理招き、近くのテーブル席に座らせる。
他の木製の安っぽい椅子ではなく、ふかふかの高級なソファーだ。ここだけ他と雰囲気が違う。
「もてなすよ! へい、店長! どんどん酒を持ってきて!」
「お、おい。俺はそんな長居するつもりは……」
俺は制止しようとするが、女店員はそれを意にも介さず、店長に声を投げかけていた。
次から次へと酒が持ち込まれる。
あっという間にテーブルには、山のような酒が積まれていた。
それだけではない。
「ねえ、お兄さ〜ん、カッコいいね。どこから来たの?」
「このあと、なにか用事があるの? よかったら私達と遊ばない?」
女店員だけではなく、他の女の子達も俺が座っているソファーに腰をおろしたのだ。
ソファーはそんな広いものではない。せいぜい詰めて座っても、三人くらいまでだろう。
しかしそんなところに、十人以上も集まってくるわけだから……その、なんだ。色んなところが俺の体に密着していた。
「ま、まあいい」
本来ならここまでされれば、すぐに店から出たくもなる。
悪い気分にはならないが、落ち着かないからな。
しかし俺に敵意を抱いていない女の子達が、俺に酒をどんどん注ぐものなので、俺も気が削がれてしまった。
せっかくだ。
もう少し情報を引き出そう。
「おい」
「な〜に?」
呼びかけると、女店員が甘ったるい返事をした。
「ここはユンヴルとかいう上位神が仕切っている領地と聞いたが?」
「そうだよ〜。ユンヴル様はとっても優れたお方。そのおかげで私達は楽をさせてもらっているんだ〜」
ぐびぐび。
お酒を飲むと、頭がくらっとした。
どうやらかなりアルコール度数が強いお酒らしい——いや、それだけが理由ではない?
なるほど。そういうことか。
俺は彼女等を気分よく喋らせるためにも、酒を断らずに次から次へとグラスを空にしていく。
「お兄さん、お酒強いね〜」
「そうでもない。ちょっと酔ってきたぞ……で、ここはどれくらい前からユンヴルが領主になったんだ?」
「知らな〜い」
「知らない?」
「気付いたら、ユンヴル様が領主になってた……ん? あれ? つい最近だったかな。大分昔だったような気も……」
急に女店員の歯切れが悪くなってきた。
どういうことだ?
神界に来てから抱いてきた違和感。それがだんだん強くなっていくのを感じた。
その後、他にいる神や天使からも情報を聞き出そうとしたが、有意義なものを手に入れることは出来なかった。
ユンヴルのことを聞くと、一様に言葉がたどたどしくなるのだ。
これはわざと隠しているわけでもない。
どうやらそこの記憶だけ曖昧になっているようだった。
「……もう少し考えてみる必要がありそうだな」
俺だけではこの違和感の正体に分かりそうにない。
ラゼバラに聞いてみるか?
彼女に聞けば、なにか答えは得られそうだ。
「そういえばララ達はなにをしているんだ?」
ほとんどなにも言わずに、ここに来てしまったが……急に彼女達のことが心配になった。
しかし一度確認しておこう。
俺は意識共有魔法を使い、ララの視覚に接続した。
前書きにも書きましたが、
コミカライズがニコニコ静画にて連載開始しました。
とても面白いので、是非見ていただけると幸いです。
また明日、9月2日は原作小説3巻の発売日にもなります。
そちらも手に取っていただければ嬉しいです!