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177・筋肉の敗北

 それから街中をぶらりと歩き回っていたが……。


「ん?」


 とある建物の前で立ち止まる。


「酒場か……ここだったら、なにか有意義な情報をつかむことが出来るか……?」


 1000年前から、酒場は情報が集まる代表的な場所である。

 酒場には多種多様な人物が集まる。冒険者や騎士団、はたまた商人まで。

 さらにお酒が入っていることもあり、否応がなしに彼等の口も軽くなってしまう。

 俺はあまり酒が好きではないが——カウンターに座って人々の話に耳を傾けているだけでも、情報を収集することが出来るだろう。


「行ってみるか」


 意を決して酒場の扉を潜った。


 中は想像以上に人……もとい神でごった返していた。

 真っ昼間だというのになかなか盛況なことだ。


 これだけ神や天使がいるなら、なにか情報を得られればいいんだが。


 店員からの案内もない。俺は酒を飲み楽しんでいる神々達を尻目に、カウンター席に座った。


「なにを飲む?」


 カウンターの向こう側。

 店員に声をかけられる。


「そうだな……あまり強くない酒を頼む。()()()酒は得意ではないからな」

「酒が得意でないのにここに来るってのは、なかなか物好きだな。まあ騒がしいと思うけど、ゆっくりしてくれ」


 店員はじゃっかん不思議そうな顔をしながらも、水のような無色透明の酒を出してくれた。


 つーんと鼻を通り過ぎるアルコールの匂い。

 まあ得意ではない——とは口にしたものの、少量で酔っぱらったりはしない。ただこの味が苦手なだけだ。


 俺はグラスを傾け、ちまちまと中の酒を飲みながら周りの声にそっと耳を傾けた。



「あーあ、ギャンブルでまた金をすっちまったよ」

「最近の人間界は平和でつまらん」

「平和がなによりだ。物騒なことを言うな」

「この飲み会が終わったら俺……結婚するんだ」

「マスター、エールをオカワリー」



 皆が話している内容は他愛もない内容だ。


「こういうところは人間とさほど変わらないか」


 神界に来て、まだあまり時間も経っていないが、ほとんど人間界と変わらないように思える。


 人間界と同じようなドリンクが流行り。

 ナンパをされる女の子もいれば、逆ナンしてくる女の子もいる。

 こうした酒場で愚痴を吐き、日々の疲れを取る。


 昔の人は「人間とは神が作りし分身である」と言ったそうだが……なかなかどうして、こうして神界を眺めているとそれも信じてみたくなってくる。


「これが普通なのだろうか? ……否」


 ——なにかがおかしい。


 人間界と代わり映えのない光景。

 俺はそこに僅かな違和感を覚えた。


 その違和感の正体を探りながら、チビチビと酒を傾けていると……。



「おい、そこの兄ちゃん」



 ポン。

 後ろから声が聞こえ、肩に手を置かれた。


 不快だ。

 俺はその手を振り払う。


「なんだ?」


 振り向くと、筋肉隆々の男が顔を歪めていた。

 うむ。どうやら俺の反応が気に食わなかったらしい。


「へっ! そんなところで、ちまちまと弱い酒なんて飲みやがって。お子様は家に帰って、ママのミルクでも飲んでおけ」

「酒の飲み方など千差万別だろう。我を忘れるくらい酒を飲んで楽しむことも否定はしないが、だからといって酔わない程度に酒を飲む者をバカにするのもどうかと思うぞ」

「こいつ……っ、さっさと帰ればいいものを、ごちゃごちゃ言いやが……て……?」


 男は俺の顔を覗き込んだ。


 そして顔をぐにゃりと歪ませ、


「はっはっは! こいつ、人間じゃねえか! 人間がどうして神界に紛れ込んでやがる!」


 と大口開けて笑い出したのだ。


 男の笑い声はとても不快で、周囲に響き渡った。

 そのせいだろうか、酒を飲んでいた者共の視線が一斉にこちらに集まる。


「なあに、ちょっとした観光旅行だ」

「観光で神界に来れるとは思えないが……まあ、そんなことはどうでもいい。だが人間というのも貧弱なものだな。酒の飲み方もそうだが、ひょろひょろの体をしやがって」

「ふっ。貴様はもう少し無駄な肉を削ぎ落した方がいいと思うがな」

「ああん?」


 男がすごむ。


「オレのこの体が無駄な肉だと?」

「ああ。一見鍛えているようにも見えるが、鍛え方に無駄が多すぎる」

「はっ……! 面白えこと言うじゃねえか。人間っていうヤツは、見る目もないっていうのかよ」


 男が俺の隣に座る。


 しまった……変に挑発してしまう形となってしまったみたいだ。

 俺も珍しく酒を飲んで、幾分か酔ってしまったのだろうか?

 これは話が長引きそうだ。


「おい、兄ちゃん。酒の余興だ。勝負しろ」


 ドンッ!

 男は右肘をテーブルに置き、にやりと口角を吊り上げる。


「なんのつもりだ?」

「腕相撲でもしようじゃねえか。そんだけ偉そうに高説垂れるんだから、オレに勝てるよな?」


 ほら、やはり面倒ごとになってしまった。

 ここで男を振り払い、店から出て行くのは容易だ。わざわざこいつの勝負に付き合うメリットはない。


 しかし反面、もう少しこの酒場で情報収集がしたかった。

 今のところ収穫はゼロに等しいからな。


「……はあ。いいだろう」


 溜め息を吐き、男の勝負を受け入れる。

 勝負は一瞬でつく。ここで言い争いをしている方が時間の無駄だ。


「なかなかノリがいいじゃねえか。おい、さっさと構えろよ。始めようぜ」

「なに、お前との腕相撲など俺が()()()とも勝つことは容易い」

「はあ?」


 男は「なにを言っているのか分からない」というような表情をする。


「一応言っておくが、魔法は禁止だぜ? それをしちまえば、勝負の本質が変わっちまう」

「当然だ」


 俺はじっと男の顔を睨みつける。


 すると。


「ぐ、お……?」


 男の手の甲がだんだんテーブルに近付いていった。


「どういうことだ? どうして勝手に手が……?」


 彼は勝手に動き出す右手を左手で押さえつけようとした。

 本来ならばここで反則負けだ。しかしそれを指摘する必要もない。


「負けろ」


 俺がトドメにそう一言発すると、男の体がさらに傾いて、


「うおっ!」


 と彼は声を上げ、とうとう手の甲がテーブルに付いてしまった。


 しかもそれだけでは止まらない。

 手はテーブルを突き抜け、男は床に間抜けに転がった。


「言っただろう? 触れずとも勝てると」


 テーブルをこのままにしておくのも店員に悪い。

 俺は魔法でテーブルを元通りに戻してから、倒れている男を見下す。


「ど、ういうことだ……? 確かにお前はオレに触れてもいなければ、魔法も使っていなかった? それなのに……何故オレの手が勝手に……?」

「俺とお前で実力の差が大きすぎる。ゆえに『まともにやっては勝てぬ』とお前は無意識下むいしきかで俺を恐れた。だから右腕が勝手に動き出し、俺との勝負を避けようとした……というわけだ」


 この程度の小者、まともに戦うのもバカらしすぎる。

 俺は威圧を込めて相手を睨みつけた。

 その結果、恐れをなしたこいつの『無意識』がひとりでに敗北を認めたということであった。


「筋肉というものは正直なものだな。絶対的強者相手と戦おうとすらしない」

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