176・最強の魔導士、逆ナンされる
図書館にある神器に関する本を読破したものの、残念ながら俺の期待していた情報は得られることは出来なかった。
「具体的に神器とはなにか……に関する記述がほとんどなかったな。あったとしても諸説が多く、どれを参考にすればいいのかも分からぬ」
やはり一筋縄ではいかぬということか。
しかし全く情報を得られず、無駄足になってしまったわけではない。
三千冊の本を読んでいくと、俺はとある記述に共通点があることを発見した。
それらを組み合わせていくと、神器とは人や神の『魂』を原料にするものらしいことが分かった。
「魂を原料に……か。なかなか物騒ではないか。それに魂を原料にすることなど、本当に出来るのか?」
疑問が浮かぶ。
無論、1000年前の俺も人に宿る『魂』に着目し、なんとかこれを利用出来ないかと試行錯誤したことはある。
しかし『魂』を利用することは一筋縄ではいかなかった。俺に出来ることは、あくまで自分の体に宿る『魂』だけを1000年前の世界に飛ばす術であった。それがこの時代にきた転生魔法である。
「とはいえ、あれも何度も出来るものではない」
下準備が必要となるのだ。
もっとも、俺もなかなかにこの時代を気に入っているので、もう一度転生魔法なんて使うつもりもないが……。
「まあどちらにせよ、これ以上神器についての情報を得られそうにないな」
そうと分かったら、さっさとここから出て行かせてもらおうか。
俺は本を棚にしまい、図書室を出ようとした。
短い間であったが、久しぶりに読書というものをした。なかなか楽しい時間を過ごせたな。
そんなことを思いながら、ゲートを潜って外に出ようとした時であった。
「待ってください!」
突如後ろから声をかけられる。
「なんだ?」
無視してもよかったが、後々トラブルになっても億劫だ。
振り返り、声の主を見据える。
声の主は可憐な少女のような姿をしていた。
しかし背中に翼を生やしていることから、彼女がただの少女ではなく『天使』であると推測出来る。
「あなたに言いたいことがありまして……」
言いたいこと?
心当たりがな……いやあるな。
俺はゲートの魔法式を改竄して、無理矢理図書室に入ったのだ。
特に隠蔽も施してないので、見る者が見れば分かるかもしれない。多分。
もしや無理矢理入ったことを咎められるのか……。
少しドキドキしながら、彼女の言葉を待っていると、
「あ、あの……! よかったら私とお友達から始めてくれませんか!!」
「はあ?」
突拍子もないことを聞かれ、俺は思わず聞き返してしまう。
「一体なにを言い出すのだ。お前と会うのは初めてのことだと思うが……?」
それに友達から『始めて』というのはどういうことだ。その言い方では先があるように聞こえるではないか。
さすがの俺とて困惑していると、
「さ、さっき本を読んでたじゃないですか」
「読んでたな」
「その時、あなたを見てビビビッときたのです!」
「……やはりお前がなにを言いたいのか分からぬ」
ビビビッときた……って、別に俺はこいつになにもしてないぞ?
当然俺もそんな通り魔的なことはしない。今までだってしてこなかった……多分。
しかし天使は捲し立てるようにこう続ける。
「本を読んでいる時のあなたの横顔! とっても素敵でした。まるで一国を統べる上位神のように! 品位に溢れ、本を読む姿からは知性も感じられました。そんなあなたに私は……ひ、一目惚れしてしまったのです!」
「ひ、一目惚れぇ!?」
つい声を大きくしてしまうものだ。
まいった……俺は滅多なことでは動揺しないが、どうも女絡みのことに関しては正常な自分を見失ってしまう。
おそらく1000年前に、女と喋る経験がほとんど皆無だったことが原因であろう。
こういうことなら1000年前に彼女の一人でも作っておくべきだった……もっとも、ぼっちだったので彼女どころか友達すらも不可能だったか。
「はい! なのでどうか私と友達から始めてください! よろしくお願いします!」
天使は右手を差し出し、深々と頭を下げた。
困った。
断りにくい雰囲気が出ている……。
だが。
「す、すまない。そう言ってくれるのは嬉しいが、そういうことをしている暇もないものでな。それに——気付いているかどうか分からぬが——俺は人間だ。天使のお前とは釣り合わないだろう」
と断ることにした。
当然だ。
神界に永住するつもりなどないし、こんなところで友達など作ってしまえば後々面倒ではないか。
天使は俺が人間だと気付いていなかったのか。
「え……人間? 人間がどうして神界に……いいえ、そんなことよりも人間がそんなにカッコいいわけがありません! 人間といえば口から火を吐き、目から光線を出す生き物だと聞いていましたよ!」
「そんな化け物みたいな人間はどこにもいない!」
勢いでツッコミを入れてしまった。
「取りあえず、お前の気持ちには応えられない。すまないな。じゃあ俺はこれで……」
「待ってください!」
その場から立ち去ろうとすると、慌てて天使が俺の後を追いかけてきた。
しつこい!
「あれ……? 消えた?」
彼女の声を聞いたのは、それが最後であった。
「はあっ、はあっ……無駄な魔力を使ってしまったではないか」
転移魔法を使い、先ほどの天使からは離れた場所に移動したのだ。
いくら魔力を大量に使う転移魔法とはいえ、この程度で息を切らす俺ではないが……事実、肩で息をしていた。
「俺ももう少し女への抵抗をつけるべきだな」
この時代ではララとマリーズ、シンシアといった女の子と友達になってきたが、まだまだ修行が足りない。
しかし出来るのだろうか……俺に?
不思議なものだな。
1000年前はこんなことを考えたことは一切なかったのに……気付けば俺はそう強く意識していた。
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