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172・交差する思惑

「どうやらそのようだな」


 探知魔法を使うと、ファンソナの邸宅ていたくに何者かが侵入していた。

 しかも複数だ。


 邸宅には結界が張られていた。それは侵入者を防ぐ者だと思われるが……それがあだとなり、探知魔法を使うまで俺達は敵の侵入に気付かなかった。


「神のくせにあっぱれなものだ」

「神の()()()……ですか」


 ファンソナが苦笑する。


「さて、どうする?」

「撃退……するしかないでしょう。やれやれ、これだから乱暴なユンヴルは嫌いなのですよ。すぐに暴力で解決しようとする」


 呆れたようにファンソナが息を吐く。


 そう口では言うものの、あまり慌てている様子が彼女にはない。


「その様子だと、これが初めてではなさそうだな」

「その通りです」


 ファンソナが首肯する。


「ユンヴルは何度もわたくしの邪魔をしようとしてきました。そのせいで邸宅を守る兵士はもうほとんどいません。このままではわたくしはユンヴルに滅ぼされてしまうかもしれません」

「ならもう少し慌ててもいいではないか」

「慌てても仕方ありませんので」


 肩をすくめるファンソナ。


「それに……ユンヴルがわたくしを完全に滅ぼすことは不可能ですよ」

「どういうことだ?」

「下位の神ならともかく、上位神であるわたくしを倒すのは一筋縄ではいきません。完全に滅ぼさなければ、わたくしは何度でも復活します」

「完全に滅ぼす……か。それはどうすればいいのだ?」

「ふふ、それは内緒です。それにしてもあなたの口ぶりでは、わたくしを滅ぼそうとしているみたいに見えますね?」


 余裕げにファンソナが微笑む。


 ふむ……ファンソナがこの調子なら、対抗のユンヴルも似たようなところといったところか。

 完全に滅ぼすのが面倒臭そうだな。噛ませ犬くさい邪神バグヌバとは格が違う。


 なにはともあれ。


「まずはこの地の震えを止めよう」


 俺は地面に手を置き、魔力を流し込む。


 ゴゴゴ……。


 ゴゴ……。


 ゴ……。


 すると徐々に地面の震えがおさまっていき、やがて完全に制止した。


「ほお」


 興味深げに、ファンソナが俺に目をみやる。


「なにをやったのですか?」

「なに。地面が右に震えたら左に、左に震えたら右に動かすことによって、動きを()()しただけのことだ」

「そんな簡単に出来るようなことでもないと思いますが」

「なにを言う。これくらいならお前も容易いのではないか?」


 俺が問いかけると、ファンソナは「ふふふ」と怪しげに微笑むだけで、答えを返そうとしなかった。


 やはり掴み所のない女……いや神だ。

 いまち信頼出来ない。


「では、もしよろしければそのまま、ユンヴルの兵達を返り討ちにしていただけませんか?」

「どうして俺がお前の命令を聞かねばならないのだ」


 ファンソナを睨む。


 しかし彼女はそれを軽く受け流し。


「別に聞かなくてもいいですよ。ただ……ユンヴルの話も聞いてみたいと思いませんか?」

「ほう?」

「ユンヴル自身もこの攻撃に参加している……とは思えませんが、力を示せば彼もあなたに興味を抱いてくれるかもしれません。そうなったら、あなたをご招待していただけるかもしれませんよ。ユンヴルの元に」

「……なにを考えている」

「ユンヴルがですか?」

「お前だ」


 何故ご丁寧に俺にアドバイスをくれるのか。それが気にかかった。

 何度も言うようであるが、俺はファンソナを信頼したわけではない。ただ今のところは利用価値があると思っているから、滅ぼさないだけだ。

 少しでも敵意を見せてくるなら、攻撃に転じる。

 ゆえにファンソナがなにかを企んでいるようにしか、今の俺の目には映らなかった。


「……あなたはなんでもお見通しですね。やりにくいですわ」


 ファンソナは諦めたように溜息を吐く。


「その通りです。ですが、あなたの思っているような理由ではありませんよ。わたくしはあなたを利用して、ユンヴル派を撃退して欲しいだけです」

「やっと口を割るつもりになったか。お前が持つ戦力だけでは、ユンヴル派を振り払うことは難しい……そう言いたいのか?」

「ユンヴル自身が来てるならともかく、その下っ端の兵くらいなわたくしでも倒せます。ただ……力を一部解放する必要があり、それはとても疲れるものなのです。神は滅多に本気を出しません」


 ファンソナが断定する。


 するとなにか。

 こいつは「ユンヴル派を退けるのが面倒臭いから、お前が代わりにやってくれ」とでも言いたいのか。


「俺はお前の部下でもないんだがな」

「ですが、ユンヴル派を退けることはあなたの利害にも一致する。力を示せば招待してもらえるかもしれない……というのは嘘ではありませんので。もしこのまま無視して帰ったとしても、あなたにメリットは少ないのでは?」 


 ファンソナが挑戦的な視線を俺に向ける。


 良かろう。

 ファンソナの思い通りに動くのはしゃくだが、こいつの言うことにも一理ある。

 ここは彼女の思惑に乗ってやるか。


「ユンヴル派の兵は……百五十人といったところか。攻めてきているのは神や天使か?」


 訊ねると、ファンソナは黙って首を縦に動かした。


 神なのに百五十()と言うのは変かもしれないが、百五十()と数えるのも億劫だ。このままでいこう。


「俺一人で対処することも可能だが、それではユンヴルとやらが満足しないかもしれないな」


 なんせ力を示す必要があるのだ。

 戦いに勝つだけではなく、派手なアピールもしておきたい。


「ここには武器庫かなにかはあるか?」

「敵を退けるために、武器庫は用意していますが……それを使いたいとおっしゃるのですか」

「その通りだ。とはいえ、お前の想像している使い方ではないだろうがな」

「?」


 ファンソナが不思議そうな顔をした。




 すぐに俺はファンソナに武器庫まで案内してもらい、そこに置かれていた剣や弓、盾を眺める。


「なかなか立派なものだ」


 全てに魔力が付与されている。地上のものと比べると質は雲泥うんでいの差とも言えるだろう。


「さらに……その上から魔力を上塗りする」


 俺はそっと手を前に突き出す。


「なにをするおつもです?」

「まあ黙って見ていろ」


 すると武器が一斉に光り輝き始めた。


 ……《自動操縦》《自律行動可》を付与。


「け、剣が独りでに……!?」


 ファンソナが目を見開く。


 剣だけではない。

 武器庫に置かれていた全ての武器が独りでに動きだし、空中を浮遊していたのだ。

 それはあたかも一つ一つに『意志』が含まれているかのよう。


「この一つ一つが勝手に動く。これが俺達の兵士……といったところだ。こいつ等にユンヴル派の撃退を手伝ってもらおう」


 驚いているファンソナに向けて、俺はそう告げた。

新作はじめました!


「無能はいらない」と言われたから絶縁してやったけど、実は最強でした 〜四天王に育てられた俺は、冒険者で無双する〜


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