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17・詠唱魔法を止めさせてみた

 二層に降りると、そこには緑豊かな森が広がっていた。


「え、なんで?」

「クルトが言ってたでしょう。迷宮は異次元になっているって」

「そういうこことだ」


 層が変わると、ガラッと周囲の風景が変わることも珍しくない。


「二層だしこんなものだろう。俺が攻略した——じゃなくて聞いたことがある迷宮では、フィールド全体がマグマになっているらしいぞ」

「そんなの、そもそも歩けないじゃん!」

「本当です。人間には攻略出来ない、ということでしょうか」


 ……前世で攻略したんだけどな。


 特段難しいことではない。

 高温に耐えられるように、魔法で体を防御するか変化させればいいだけなのだから。


 それよりも、少し気を抜いたら次元の狭間に飛ばされる迷宮の方が面倒臭かった。

 遭遇する敵は弱かったので、つい気を抜いてしまうのだ。

 いちいち次元の狭間に飛ばされるたびに、時間軸に干渉して元の場所に戻るのは難儀した。


「じゃあ二層も進んでいくぞ」

「層が深くなっていくごとに、攻略が難しくなっていくんだよね?」

「そうだ」


 ララの問いに答える。


「大丈夫なんでしょうか? 一層でも私、精一杯だったんですが……」

「安心しろ。俺の見立てでは、例え二人っきりでも二層を攻略出来るはずだ」


 本音だ。

 それに俺からすると、一層も二層もほとんど変わりない。

 俺達は周囲の風景を眺めながら、森の中を進んでいった。


「この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を貫き灼け」


 魔物のクラブが現れ、マリーズが魔法を放つ。


 ちなみに……基本的には魔物退治はララとマリーズに任せておいた。

 魔法というものは理論も大事だが、それ以上に実戦が大事だ。

 二人に魔法を教える、って約束したんだしな。

 これくらいは譲っておかないとダメだろう。


「どうした、二人とも? 疲れている様子だが」

「はあっ、はあっ……大丈夫。クルトの足を引っ張りたくないから」

「私はまだまだ行けます!」


 そうは言っても、二人とも肩で息をしている。

 歩き回っているうえに、魔力を消費しているのだ。

 こうなるのも仕方ない。


「この辺りで一回休憩を取るか」

「め、迷宮の中なのにですか?」


 マリーズが目を見開く。


「変か?」

「変もなにも、魔物がいつ襲ってくるかと思ったら、落ち着いてもいられませんよ……」

「迷宮内で休憩することは珍しくない。何日もかけて迷宮を攻略することもあるしな。それに魔物については心配しなくてもいいぞ」


 少し開けた場所に出て、俺は結界魔法のホーリネスサークルをかける。


「俺が今、ここに結界を張った。弱い魔物なら、俺達を見つけることも出来ないはずだ」

「息をするように難しい魔法を使うね」

「結界魔法はかなり難易度が高いと聞きましたが?」


 ララとマリーズが驚いていたが、この世界の魔法技術が低いことは今更なので、気にしないでいた。


 俺は地面に腰を下ろす。


「ふう、生き返るねー」


 ララとマリーズも円になるようにして座った。


「それにしても……私達の魔力じゃ、魔物一体を倒すのも必死です」


 マリーズが顔を暗くした。


「本当だね。クルトはあんなに大量のリザードマンを一瞬で倒したのに」

「どうして、私達とクルトの魔法にあれだけ差があるのでしょうか? 同じファイアースピアなのに……」


 二人は疑問に思っているようだった。


「二人とも、あれくらいのリザードマンならすぐに狩れるようになる。慌てなくても大丈夫だ」

「今の私では、悔しいですがとても思えません。どうすればクルトみたいな魔法を放てるのですか?」


 マリーズが膝立ちになって、詰め寄ってきた。

 俺は二人が魔法を放っている場面を思い浮かべる。


「うーん、そうだな……恥ずかしい詠唱を止めてみたらどうだ?」

「詠唱を止める……? 無詠唱で魔法を放てと」

「ああ。慣れたらそっちの方が簡単だしな」

「それはクルトだけですよ!」


 マリーズが語気を強くしてツッコんだ。

 ララの方を見ると「うんうん」と頷いている。


 どうしてそうなる。


「無詠唱はそんなに難しいことじゃない。それに詠唱魔法だったら、魔力が固定されてどうしても威力が出ないんだ」


 詠唱魔法というのは、唱えたら自動的に魔法式が組まれる方法のことだ。

 魔法革命以前にはよく使われていた方法だ。


 しかし自動的に魔法式が組まれてしまうため、どうしても応用が利かなかったりする。

 さらにいちいち詠唱文律を言わなければならないから、展開速度も遅くなるし……そもそも魔法式に改良を加えることも難しいので、限界がすぐくる。

 ララとマリーズがいくら筋が良くても、このままだったらすぐに頭打ちになってしまうだろう。


「二人は無詠唱魔法についてどう聞いている?」

「詠唱しないと、魔法式が不完全なまま構築されてしまい、ろくに使い物にならないと聞きました」

「魔力も無詠唱じゃいつもの十分の一しか注げない、ということも聞いたねー」

「なんだそりゃ」


 全く……。

 どうして魔法革命がなかったことにされてるんだ。


 そんな古典魔法みたいな使い方。

 俺の世界では鼻で笑われるところだろう。


「でもどうやったら無詠唱魔法なんて使えるのー?」

「そうです。あなたの常識は私達の常識じゃない、ということを自覚するべきです」

「今のララとマリーズだったら、無詠唱魔法なんてすぐに使えるようになるよ。そうだな、まずはララ」

「へ?」


 俺はララを立たせて、後ろから手を取った。


「ク、クククルト! いきなりなにをするつもりなの?」

「ハレンチです!」

「……一体なにを勘違いしているんだ。いいか。今から補助してやるから、手に魔力を集めてみな」

「えーっと、こんな感じ?」


 ララの両手に魔力を集まっていくのを感じた。


「そうだ。今、どんな感じだ?」

「どんなって……手がポカポカ温かくなっていく感じ。それと胸がドキドキ言ってるよ」

「よし、その調子だ。きっと心拍数も上がってるんだろう」

「多分だけど、クルトに手をつかまれているからだと思うな……」


 なんで俺が手をつかんでいるだけで、心拍数が上がるんだ?


「頭の中でファイアースピアの魔法式を組み上げてみろ」

「うん……これでいいかな?」

「十分だ。ちゃんと目、開けてろよ」

「わっ!」


 ララが驚く。

 彼女の手から、炎の槍が飛び出し地面に着弾したからだ。


「い、今! 魔法を唱えてないのに、ファイアースピアが飛び出した!」

「そうだ。これが無詠唱魔法だ」

「魔力がすぱぱーんって集まって、手からボーンって飛び出した!」


 かなり抽象的な表現だが、何度かやると無詠唱魔法の感覚もつかめるだろう。

 そうすれば後は早い。


「クルト! 私も!」

「はいはい」


 マリーズも同じように後ろから手を握ってやると、


「うう……男性と手を繋ぐなんてはじめでです……」


 と首まで顔が真っ赤になってたが、どうしてだろう?



 ——それから一時間くらい。

 俺は二人に無詠唱魔法を教えていった。



 結果。


「やあっ!」

「はあっ!」


 二人が同時にかけ声を上げる。

 無論、詠唱文律なんて無駄なことは一切口にしていない。

 するとララとマリーズの手から、小さな炎の槍が発射された。


「やった! クルトの手を借りずに、はじめての成功だ!」

「でも……やはりこれだったら、詠唱魔法の方が強いんじゃ?」


 確かに二人から放たれたファイアースピアは、以前の方が威力も精度も高く、弱々しいように見えた。

 だが。


「それはまだ慣れてないからだ。何度か練習を繰り返していたら、すぐに無詠唱魔法の方が強くなるよ」

「すぐってどれくらい?」


 ララの問いかけに、俺は少し考えてから、


「三日くらいだ」

「三日! そんなに早いの!」

「ああ。これでも長めに見積もったんだがな?」


 俺の言葉に、ララとマリーズが目をキラキラと輝かせた。


 ふむ。

 まずは二人だけでも、詠唱の非効率さに気付いてくれてなによりだ。


「じゃあそろそろ出発しようか。二層は特に目新しいものもないみたいだし、次は三層だ」

「うん!」

「はい!」


 結界を解いて、俺達は三層へと向かった。

月間21位までこれました。本当にありがとうございます。

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