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168・神界の街並み

「失礼しました……! どうかお通りくださいませ!」


 門番は慌てて頭を上げ、その先へ通じる門を開いた。


「クルト……相変わらず出鱈目だね」

「ララが全然持ち上げられなかったのに!」

「クルトの力は神をも超える」


 ララとマリーズ、シンシアのいつもの三人が後ろで驚愕していた。


「ラゼバラ」

「なによ」

「神の力とはこの程度のものだったか?」


 この子供騙しが神の全てだと言うなら、神界で俺が得られそうなものはなさそうだ。

 ましては『俺より強いヤツ』もな。


 しかしラゼバラは首を横に振り、


「ふふふ、安心してよ。あくまで力試しみたいなものだからね。もし万が一人間がここに迷い込んできても、変な輩を入れないようにしているだけ。この先はもっと面白いものがあるわ」


 と唇を動かした。

 うむ、それは安心したな。

 しかしラゼバラは前を向いて、小さくこう呟いた。


「……たぶん」

「おい、ラゼバラ。今なにか言ったか?」

「なんでもないわよ」


 彼女はそう言うが確かに「たぶん」と口にした。

 まあここで落胆しても仕方がない。俺は自分の目で見たものしか信じないたちなのだ。


「では早速進みましょう」

「わーっ! わたし、神界なんてはじめてだな」

「当たり前でしょ!」


 ララがはしゃぎ、マリーズがツッコミを入れた。


 そして門を潜った先には——



「ようこそ。神界へ」



 近代的な街並みが広がっていたのだ。


「まるで人間みたいだな」


 神だというから、なんとなく、人間とは違う住み方をしていると思っていた。

 だが、俺達の目の前に広がる街並みはまるで王都のようだ。高い建物が建ち並んでおり、人間……失敬、神でごった返している。

 とはいえ、道を歩く者達のほとんどは人間と区別がつかない。

 中には頭から角を生やしたり、背中に白い羽があったり……と明らかに人とは違う造形をしている者もいたが、それも少数だ。


「そうね。あなた達、一体どういう想像してたのかしら」


 くすくす、ラゼバラが笑う。


「わたしはもっと神っぽいところだと思ってた!」

「ララ。神っぽいところってどんなところかしら?」

「え? えーっと……なんかふわふわしてて、ぽわ〜んと幸せそうで」


 抽象的すぎる。

 しかし、その様子を見ていると……すっかり二人も仲良くなったものだ。


「私はこんなに建物が並んでいるようなイメージではありませんでした」


 ララを見て呆れたように溜息を吐くマリーズ。


「シンシアも……」

「ふふふ。まあそう思うのも不思議じゃないかもね。でも神だって同じ。あなた達と同じように暮らしているわ」


 ならば人と神を分ける要素とはなにになるのだろうか……?

 と一瞬考えるが、すぐに消す。今そのことを考えても仕方がない。


「本当に人間のように暮らしているのか?」

「ええ、そうよ。あっ、あれ。神界名物の『ピピオカドリンク』って言うんだけど、よかったらみんなで飲んでみない?」


 街を歩きながら、ラゼバラがとある出店を指差す。

 そこの前には行列が出来ていた。


「みんなで飲もうよ!」

「神界にある飲み物というのも気になりますね」

「美味しそう……」


 ララ達ははしゃぎ、行列に並ぶ。


「やれやれ。すっかり楽しんでいるようだな」


 俺も彼女達と同じように列に並んだ。

 かなりの行列ではあったが、どうやらピピオカドリンクとやらは客の回転率が早い飲み物らしい。

 あっという間に俺達の順番まで回ってきた。


「おまちどおさま〜」


 店員がピピオカドリンクを人数分、俺達に手渡す。

 透明の容器にミルクティーのような液体が入っている。

 その中には黒い粒々のものがいくつか混じっていた。


「ラゼバラ、この黒いのはなんだ?」

「ピピオカよ。まずは飲んでみたら? 毒なんか入っていないから」


 自分で言ってて『毒』という言葉に面白みを感じたのか、ラゼバラは愉快そうに笑う。


「「「いただきまーす!」」」


 ララ達がストローに口をつけ、中のドリンクを吸い出そうとした。


「美味しい!」

「この黒い粒々、なかなか甘いですね」

「不思議な味……」


 すると三人はピピオカドリンクが気に入ったのか、目を丸くした。

 俺も続けて飲んでみる。


「うむ……なかなかどうして、旨いではないか」


 思わず唸ってしまう。

 黒い粒々……ピピオカを吸い出すには少し難儀するが、この感覚が癖になってくる。

 ドリンク自体も甘く美味しかった。


「神界にもこんなものがあるのだな」

「神界にだけ住む『神亀かみがめ』の卵だと言われているわ。まあ私もよく分かっていないんだけどね」


 ピピオカドリンクを飲んでいるラゼバラは、神というよりララ達と同じような学生に見えた。

 ますますここが神界だとは思えない。


「ごちそうさま!」


 真っ先に飲み終えたのはララ。

 続けて、マリーズとシンシア、そして俺も飲み終わった。

 俺達は空の容器をゴミ箱に捨ててから、


「……ラゼバラ。そもそも神というのは食べ物が必要なんか?」


 素朴な疑問を問いかけてみた。

 神も食べ物の摂取が必要とあらば、ますます人間と変わらないと思ったからだ。


「ん……? いらないわよ」

「だったらどうして神界にこういう店がある」

「さあ……考えたことがないわね。別に神も天使も食べ物を食べなくても、生きていくことは出来るわよ。でも美味しいからね」

「美味しいからか」

「うん。神だって美味しいものを食べたいのよ」

「なら仕方がない」


 そう思って無理矢理納得することにした。


 まあ料理や飲み物を口にすることは、なにも栄養を補給するだけの理由ではないだろう。時には誰かと食べることや、味自体を楽しむことも必要なはずだ。

 神も娯楽に飢えているということか。


「しかし勉強になった」

「どういたしましてー」


 ラゼバラが適当に返事をしているのが分かった。

 相変わらず掴み所のない女だ。


「じゃあこれからどうする?」


 話を振るラゼバラ。


「せっかく神界に来たんだしね。観光でもする?」

「うん! わたし、観光地を回ってみたいな−」


 ララが手を上げ、元気よく提案した。


「……なんか普通に旅行に来たみたいですね」


 マリーズも表情が柔らかい。


「クルトがいるなら、どこにだって行く……」


 俺の右腕にぎゅっとしがみつくシンシア。


 まあ、そのなんだ。俺はもう少し別のことを期待していたが、偵察がてらに観光地とやらを回ってみるのもいいだろう。

 神器というのも気になるが、それは後から追及していこうか。その時間くらいはあるはずだ。


 そんなことを考えていた矢先であった。



「やめて!」



 近くの路地裏から女の子の声が聞こえてきた。

 無視してもいいが……どうやらふざけているわけではなく、切迫しているような印象を受けた。


「クルト!」

「うむ」


 ララ達と目配せをして、すぐに路地裏に向かう。

 するとそこには……一人の可愛らしい女の子を、三人のごつい男達が囲んでいたのだ。


 どうやら不穏な雰囲気。

 女の子も嫌がっている。


 ……見逃すのも後味が悪いな。


「おい、そこでなにをしている」


 声をかける。

 こうやって首を突っ込んでしまうのが俺の悪い癖だが……性格だから仕方がない。

 女の子、そして三人の男がこちらを向いて。


「なんだ? てめえら」

「オレ達はこの女の子と遊ぼうとしてただけだ!」

「邪魔するんじゃねえ」


 男達が凄む。

 女の子の顔を見たが、彼女は「ち、違います!」と頭を左右に振っていた。


「なんかこういうこと、前にも一度あったな……」

「うん……わたしがクルトとはじめて出会った時だね」


 ララが不快そうに男達を見ていた。


「離してやれ、嫌がっているではないか」


 平和的解決を試みる。


 しかし。


「へっ! せっかく上玉を見つけたんだ!」

「それにお前は人間か? どうして人間がこんなところにいやがる!」

「人間が神に逆らうんじゃねえよ!」


 と男達は反抗の意志を見せていた。


 そういえばここは神界だ。女の子、男と呼んでいたが、全員神ということか。

 神なのにあまりにも低脳で、溜息の一つや二つも吐きたくなるものだ。


「もう一度言う。離してやれ」

「嫌なこった! どうしてもそうして欲しかったら、力ずくでやってみたらどうだ?」

「ははは! 人間にそんなこと出来るはずがないがな!」


 力ずくで?


「ほう? 言ったな」


 俺は男達に向かって手をかざす。

 ふわっと男達が地面から足を離し、浮き上がった。


「こ、これは重力魔法……?」

「たかが人間が……神になんということを……!」

「おい、やめやがれ! どうして魔法に抵抗が出来ない? 人間ごときの魔法なら、すぐに打ち消せるというのに!」


 男達がばたばたと空中で両足をばたつかせる。


「神ごときが俺の魔法に抵抗出来ると思ったか?」


 そのまま地面に落とす。

 最後まで三人は抵抗していたが、俺の魔法に神ごときがそんなことを出来るはずもない。

 三人は地面に落下し、頭を強く打って気絶してしまった。


「うむ」


 手をぱんぱんと払い、俺はこう続けた。


「神というのも大したことがないものだ。これなら邪神バグヌバの方が数百倍マシであった」

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