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167・神界への試練

 放課後。

 俺達は中庭に集合した。


「本当に神界に連れて行ってくれるのー?」


 半信半疑といった感じでララが問う。


「ええ。それとも……もしかしてあなた達は行きたくない?」


 ラゼバラが悪戯少女めいた笑みを作る。


「い、行きたい行きたい!」

「じゃあさっきの不躾な態度を謝ってくれるかしら?」

「不躾?」

「私とクルトがいちゃいちゃしてたのを邪魔したでしょ?」


 挑戦的なラゼバラの口調。


「だ、だって……学校であんなことをするのは、ほら……校則違反だし……」


 もごもごとララの歯切れも悪い。


「そんな校則ないでしょ。それにあなたもいっつもクルトといちゃいちゃしてるじゃないの」

「わ、わたしはそんなことしてないよ! ね、クルト!」


 ララが俺を見てくるが、あえて視線を逸らしてみた。


「うぅ……クルトも……え、でも——いちゃいちゃしてくれてたっていう自覚があったってことかな? それだったら嬉しいし……あーっ、でもラゼバラちゃんの言うことを認めてるってことに!」


 葛藤して頭を抱えるララ。

 いや、別にいちゃいちゃしていないんだが……こういうララの姿も可愛らしいので、ついつい悪戯してしまった。


「ラゼバラ。そこらへんで止めてやれ」


 溜息交じりに俺はラゼバラの凶行(?)を制止する。

 するとラゼバラは心底楽しそうに、


「ふふふ、やっぱりこの子はからかい甲斐があるわね。ごめんね、ちゃんと神界には連れて行ってあげるから」


 と笑った。


 それを聞いて、ララは表情をぱっと明るくする。


「ありがとーっ、ラゼバラちゃん!」

「『ラゼバラちゃん』……」

「ん?」

「なんでもないわ。どういたしまして」


 一瞬ラゼバラは感慨深そうな表情になったが、すぐにいつもの鉄仮面のような顔に戻った。


 いちいち忘れそうになるが、ラゼバラは神だ。

 しかも1000年前からラゼバラは特に派閥を作ってこなかった。

 悪い言い方をするなら『ぼっち』だったのだ。

 そういうところにも、俺は彼女にシンパシーを感じていて、気が合ったものだな。


「もちろん、私達も連れて行ってくれるんですよね?」

「シンシアも……行きたい」


 近くで見ていたマリーズとシンシアもおずおずと口を開く。


「ええ、もちろんよ。仲間はずれはしないから」


 ラゼバラの表情が柔らかくなった。

 先の一件をきっかけに、彼女の中でもなにかが変わってきているということか。



 ——神界に行く。



 そこに古の神器があるらしい。

 古の神器とやらを見たい……あまり考えもなしに口にしたことであったが、まさか神界に連れて行ってくれるとは。


「クルトは神界に行ったことないのー?」

「ああ。1000年前にもな」


 ララの質問に肩をすくめる。


 神とやらにあまり期待はしていないが……それでも、強いヤツがいないとは限らない。

 それを考えると胸が高ぶる。


「じゃあ早速行きましょうか」


 そう唇を動かして、ラゼバラは地面に手をかざした。


「神聖なる獣よ、神に至る道を造りたまえ」


 続けて口にすると、足下にぽわんと白色の煙が現れる。

 そしてそれがなくなると、一体の大きなライオンのような生き物が現れたのだ。


「わーっ、可愛い!」

「もふもふしてそう……」


 ララとシンシアが顔をほころばせて、ライオンのような生き物に駆け寄る。


神獣しんじゅうよ」


 ラゼバラがその光景を微笑ましそうに眺めながら、こう続ける。


「この子が私達を神界まで連れて行ってくれる。優しくしてあげてね」

「「はーい!」」


 ララとシンシアは既にライオン……ではなく神獣にぺたぺた触ったり、体を埋めたりする。


 もふもふ。

 そんな擬音がここにいても聞こえてきそうだ。


「ラゼバラよ。神獣はいいが……さっきの詠唱のようなものはなんだ? 魔力導線も繋がっていなかったし、今の詠唱は全く無意味だろう」


 というか魔法ですらなかった。

 神の力を行使し、神獣を召喚させただけだ。


「ふふ、カッコいいじゃない。詠唱」

「……まあ詠唱魔法をそう言う輩もいるもんだが」


 詠唱魔法は無詠唱魔法に比べて非効率だ。

 しかしその詠唱文律は所謂『カッコいい』ものが多いとされ、1000年前においても非効率だと分かっても、あえて詠唱を唱えるものはいた。


 あくまで趣味の範疇と言えるがな。

 俺には理解出来なかったが、そういう考え方もあるだろう。


「マリーズはもふもふしに行かないのか?」


 俺の隣に立つマリーズに話しかける。

 そうすると彼女は「ふっ」と余裕めいた表情で笑い。


「私はあんな子どもっぽいことはしないのです。私はララ達と比べて大人ですから」

「ほう? だが、うずうずしているようにも見えるがな」

「……!」


 内心を見透かされたと思ったのか。

 マリーズがびくりと体を震わす。


「別に我慢しなくてもいいだろう。それに神獣にもふもふしている女の子の姿も可愛いものだ」

「可愛い……クルトはそう思いますか?」

「ああ」


 精神的な側面からも、そして物理的な側面からも、文字通り彼女の背中を押してあげる。


「ん〜〜〜〜〜! クルトがそう言うなら別にいいですよね!」


 マリーズは腕を広げて、神獣にダイブしていった。


「ふふ、楽しそうね」

「ラゼバラは行かなくていいのか?」

「私? 私はいつでももふもふ出来るんだもの」


 とラゼバラは誇らしげに腕を組んだ。


 ◆ ◆


 もふもふな神獣の背中に乗ると、転移門が開いた。

 その中を俺達は通って、あっという間に神界へと到着。


「ここが神界か……」


 なんというか、ふわふわした場所だ。

 上空は桃とも紫とも言い難い独特な色。

 地面はまるで雲の上かのように安定しない。


 俺はゆっくりと神獣から下り、辺りを見渡した。


「なんだか不思議な場所だねー」

「神々しいです」

「足場が悪いから……転けちゃいそう」


 ララとマリーズ、シンシアも似たような反応であった。


「じゃあこっちに付いてきて。まだ神界には入ったばかりだから」


 ラゼバラが一人で歩き出し、俺達は慌ててその後を追いかける。


 そこは歩いて五分も経たなかっただろうか。

 大きな門の前に俺達は辿り着いたのだ。



「おお、ラゼバラではないか」



 門の前には一人の男が立っていた。

 地上の神官のような格好をしている。

 しかし背中には黄金色の翼が生えており、ただの人間ではないことは分かった。


「ラゼバラ、こいつは?」

「天使よ。神の従者みたいな存在ね。それに……この門を守る門番でもある」


 ラゼバラが紹介すると、ララ達は頭を下げた。


「しばらく姿を見なかったな」


 門番が懐かしむようにラゼバラに口にする。


「ずっと地上にいたからね」

「うむ……まあそれは良いだろう。それでその者達は? 人間のように見えるが……」

「私の友達。別に人間が神界に来ちゃダメっていうルールはないでしょ。通らせてもらうわよ」


 それを聞き、門番は「うむう……」と困ったように唸る。


「確かに人間がこの先に入っていけないという制約はない。しかしそれには試練を乗り越えてもらわなければならない。それはラゼバラも分かっているだろう?」

「ええ。邪悪な人間が入ってこないように、試すのよね」


 ラゼバラが言うと、門番は首肯した。


 門番がその手に持つ杖をかざすと、門の隣に巨大な岩が現れた。

 家一軒分くらいの大きさか。

 門番が巨岩を杖で何度か叩くと、小さな岩の欠片が地面に落ちた。


「これを持ち上げてもらおう」


 岩の欠片を拾い上げ、門番が俺達に手渡そうとする。


「そんなのでいいの?」

「無論ただの岩ではない。清き心を持った者……そしてなにより、内に秘める魔力の質が優れていないと持つことすら出来ないだろう。汝等人間が誰か一人でも持つことが出来たら、ここを通らせてやる」


 退屈そうな試練だ。

 だが、いきなり「戦え」と言われるのも、それはそれで億劫なので悪い展開ではないか。

 門番、そんなに強くなさそうだからな。


「ふふんっ、クルトに鍛えられてわたし達も強くなったんだからね! 魔力の質なら自信があるよ!」


 ララが腕まくりをして、早速門番が持つ岩の欠片を持とうとする。


「え——!」


 しかし岩の欠片が手の平に乗った瞬間。

 ララの手が下がり、そのまま欠片を地面に落としてしまったのだった。


「ララ、大丈夫か?」

「う、うん! でもすっごい重いよ! 持てる気もしないくらい……」


 彼女は驚いたように、岩の欠片を見た。


「うむ……面白い岩だな。ララの魔力の質でも、これを持つことは至難の業か」


 ララ……というかマリーズとシンシアの実力もだが、かなりのものになっている。

 俺の見立てでは、地上で彼女達に勝てる者はそうそういないだろう。


 そんなララが持てなかったのだ。

 やはり、神の試練とやらも一筋縄ではいかないか。


「ははは! それはそうだろう。なんせ、その岩の欠片を持ち上げることが出来た人間は今まで誰一人おらぬ! ラゼバラのように、今まで神が何人か人間を連れてきたこともある。しかしこの門を潜った人間は今まで誰もいないのだ!」


 高笑いする門番。

 うむ、そういうことか。やけに簡単に神界に入れてくれるなと思っていたが、そういうカラクリだったか。

 だが。


「相手が悪かったな。俺達、誰か一人でも持ち上げることが出来れば通らせてくれる……そう言ったな?」


 門番が黙って頷く。

 差し詰め「どうせ、試練を突破出来ないだろう」と思っているのだろう。


「その自信満々な鼻っ柱を追ってやる」


 俺は岩の欠片——を通り過ぎ、そのまま巨岩の前に立った。


「なにをするつもりだ?」


 門番は不思議そうな顔。


「なに、そんな小さな岩では物足りぬ。どうせならこっちの大きい方を持ってやろうと思ってな」


 巨岩の表面に右手の五指を沈ませる。

 そのまま力を入れると、ゆっくり巨岩は地面から浮き上がっていった。


「あ、ああ……聖なる岩が……持ち上がっていく?」


 驚愕に門番は目を見開く。

 うむ、思っていたよりも軽いな。


 俺は片手で巨岩を持ち上げた状態で、こう言ってやるのであった。


「俺を試そうと思っているなら止めることだ。火傷するぞ?」

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