16・第一層には隠し通路があった
放課後。
宣言通り、俺はララとマリーズを連れて《宝物迷宮》へと向かった。
「ほ、ほほほ本当に大丈夫?」
「迷宮には魔物もいるんですよ! 自殺行為です!」
「大丈夫、大丈夫」
それにちゃんと先生には許可をもらっているのだ。
《宝物迷宮》に足を踏み入れると、魔素の独特な匂いがした。
うーん、懐かしい。
この焦げたような匂いを嗅ぐと、前世で100以上もの迷宮を踏破した頃を思い出す。
「薄暗い……だけど見えないことはないね。真っ暗でもおかしくないのに、どうしてこうなってるの?」
「それに広そうですね。王都の地下にこんなものが広がっているとは……」
「ああ。迷宮についてだが、異次元みたいになっているから、なにもおかしいことはないぞ」
「「?」」
二人が同時に首をかしげる。
「二人は迷宮に入るのははじめてか?」
「当たり前じゃん!」
「話には聞いていましたが……危険だと言われていましたし、この近辺には《宝物迷宮》しかありませんからね」
だったら分からなくても仕方ないか。
「いいか。迷宮というのは魔素があって、それが次元を歪ませているんだ」
「次元……?」
「ああ……まあ別世界が広がっている? と言っていいかな」
例えば見た目からは家一軒分くらいの広さしかないように思えたとする。
しかし中に入ると、次元が歪んでおり、別世界のような場所へと誘われてしまうのだ。
そうすると、見た目以上に広く……中には王都以上の広さがあったりする層もある。
「詳しいことは俺でも解明しきれていないんだがな。だが、迷宮については二人よりも知っているつもりだ」
「クルトって何者……?」
「なんで私達と同じ歳なのに、それだけ知っているんですか」
「そう思ったら、肝心なところ知らなかったりするしね」
「そうそう」
まさか前世からの知識があるから、とも言えないので口を閉じる。
というか言っても信じてもらえないだろうしな。
転生魔法は前世においても、俺くらいしか使えないだろうし。
そんなことを思いながら、迷宮の一層を進んでいく。
すると。
「わっ! 魔物だ!」
ひょこっと前方から小型リザードマンが現れた。
「当たり前だ。《宝物迷宮》には魔物が棲んでいる。だが、魔物からは素材を採取することが出来る。素材を換金することも出来る。つまり『お金』みたいなもんだ」
「そんなこと思えませんよ!」
マリーズに怒られた。
「リザードマンくらいなら、二人でもやれると思うよ。まず一回目の授業だな。あれに向かって魔法を放ってみて」
「わ、わたしが魔物を?」
「魔物と戦うんて……私、はじめてです」
たかがリザードマンなのに、どうやら二人は臆しているみたいだった。
実際、二人でもファイアースピアを五回は放てば倒せると思う。
マリーズにいたっては、ホーリーソードで一発だ。
仕方がない。
「じゃあ手本を見せてあげるよ」
俺は剣を抜き、リザードマンに襲いかかる。
クイックムーヴとライズパワーを重複発動。
リザードマンの首を一気に切断した。
「どうだ? 簡単だろ?」
「簡単じゃないよ!」
「速すぎて見えませんでした……」
二人にツッコまれた。
「でも実際リザードマンは大した魔物じゃない。二人も勇気を出して……ほら。リザードマンがまた来たよ」
「今度は二体も!」
「そうですよね。いつかはやらなければいけないことですから……それにクルトがいるんですから、安心です!」
まずはマリーズが手を掲げて、
「この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を貫き灼け!」
と攻撃を放った。
炎の槍が放たれると、命中しリザードマンを転倒させた。
「今です! ララも一気に畳みかけましょう!」
「わ、分かった! ——この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を貫き灼け」
俺から見たら微笑ましい動きではあったが、二人はなんとか力を合わせて二体のリザードマンを倒すことに成功した。
「やった! マリーズちゃん、ありがとう!」
「やりました! 私の方こそありがとうございます!」
リザードマンを倒しただけというのに、二人は手を取り合って小躍りしていた。
微笑ましい。
だが、マリーズはハッと気付いたように手を離して、
「と、当然です! 私は魔法学園を首席で合格するんですからね! これくらい、出来ていないといけませんから!」
恥ずかしさを誤魔化すようにして言った。
この様子を見るに、やっぱり二人は仲が良いようだ。
だよな?
「さて……一層にはこれ以上強いモンスターも出てこないし——ん?」
「どうしました、クルト」
迷宮に入った瞬間から、探知魔法は機動している。
とある反応が引っ掛かった。
「ほお。これは面白い」
「クルト?」
「二人とも、ちょっとこっちに来てくれるかな」
二人を連れて、右の分かれ道を選択して進んでいく。
「こちらは行き止まりですよ? どうするつもりですか?」
「今まで誰も気付いてこなかったのか」
「え?」
「この先に道がある」
疑問に思っていそうな顔をする二人に答えず、俺はファイアースピアを行き止まりの壁にぶつけた。
ドゴォォオオオオン!
大きな音を立てて、壁が崩壊していく。
「壁が!」
「どういうことですか! 迷宮の壁は絶対に破壊出来ない。だから地道に攻略していくしかない……ってなにかの本で読んだことあるのですが」
「その常識は間違いだぞ。ほら、見ろ」
壁の強度にもよるが、絶対に壁を破壊出来ないことなんてない。
「道が続いている?」
そんな常識があるから、壁の向こうにある道も発見することが出来なかったんだ。
「わわわ! しかもいっぱいリザードマンがいる!」
「こちらに襲ってきます!」
しかも道の向こうからうじゃうじゃとリザードマンがいて、俺達の方に向かってきた。
全部で二十体くらいはいるか。
こいつ等の反応があったから、俺は壁を壊せば道があることが分かったのだ。
これは二人にちょっと荷が重いか。
「準備運動に丁度良い」
怯える二人に背中を向け、俺はリザードマンの大群に一歩足を踏み出した。
そして疾走。
大群の中央に入り、俺は雷魔法を展開する。
「サンダー・ストーム」
魔法の名を呟く。
俺の両手から雷が現れ、それらがリザードマン達に向かっていく。
リザードマンは危険に気付き逃げようとしたが、俺の雷魔法はそれも追尾する。
やがて10秒もすれば。
「よし。終わり」
感電死したリザードマンの大群が地面に転がっているのを見て。
俺はパンパンと手を払った。
「クルト、すごいよ!」
「クルトって私が思っているより、とんでもない人なんでしょうか……」
二人がはしゃいでいるが、この程度の魔法で褒めないで欲しい。
恥ずかしくなるから。
「これは……魔石か」
しばらく道を進んでいくと、今度こそ正真正銘の行き止まりになっていた。
そこに魔石が落ちていたので、拾い上げる。
「小さい魔石だが、なにかの加工に使えるかもしれないな。取っておこう」
ガッカリしたな。
もっと良いお宝があると思ってたのに。
「魔石って、ちっっっちゃなヤツでも家が建つくらい高価って、聞いたことがあるんだけどっ?」
「クルトですからね。魔石に目の色を変えなくても、何故か納得出来ます」
肩を落としている俺に対して、何故だか二人は呆然としているようだった