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159・俺より強いヤツはここにいた

 意識共有魔法のおかげで、ララとマリーズの様子がぼんやりと頭に浮かんでいる。


「マリーズちゃんと二人きりで共闘……久しぶりかもね」


 空を滑空するドラゴンを見据え、ララが声を出す。


「ええ、そうですね」


 マリーズの口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

 ドラゴンを見た当初の不安げな二人の表情はもうない。


「ねえ、マリーズちゃん。わたし達、ドラゴンに勝てないと思っている?」

「ふっ、そんなこと思ってませんよ」

「だよね。だってクルトが信じてくれているもん——きた!」


 ドラゴンの瞳がぎょろっとララの方を見る。

 それにつられ、周囲の人々も恐慌状態に陥った。



「うわっ、こっちを見たぞ!」

「逃げろ逃げろ!」

「逃げろたってどこに!?」



 ドラゴンの大口がゆっくりと開けられる。

 口内で魔力が奔流ほんりゅうする。


 これは……。


「マリーズちゃん!」

「はい!」


 ララとマリーズが手を繋ぐ。

 そして自分達の周り……いや、王都全域をすっぽりと収められるような巨大な結界魔法を展開した。


 速い!

 それに正確だ。


 そのままドラゴンからブレスが放たれ、王都に向かって落下する。

 しかし、直撃の寸前でブレスが結界によって弾かれ消滅した。


「やった!」

「上手くいきましたね」


 ララとマリーズが喜ぶ。


「でも油断しちゃダメだよね」

「ですね。まだまだこれからです」


 うむ、二人はまだ気を引き締めたままだ。

 先ほどの攻撃を防がれ、なにかドラゴンの気に障ったのだろうか。怒気が高まっていく。

 そして第二撃、第三撃……第四撃と連続してブレスをメチャクチャに放ってきたのだ。


「んんんっ!」


 ララが必死に魔力を注ぎ込み、結界魔法を展開し続ける。


「魔法式は任せてください!」


 ブレスの衝撃によって崩れる魔法式を、マリーズがその度に修正していく。

 二人の力が合わさって、ドラゴンのブレスの応酬を防ぐことに成功した。

 これにはドラゴンも予想外だったのか。


「ぐぉぉおおおおおおおお!」


 大きな雄叫びを上げ、そのままララ達の方へ降り立とうとしてきたのだ。

 風を切り、ぐんぐんと王都に効果するドラゴン。


「わっ! きたぞ!」

「もう逃げられねえ!」

「王都も終わりだ!」


 人々が騒ぎ、逃げ出そうとする。

 ドラゴンが降り立つ様は、まるで神が現世に降臨するかのように神々しい。

 それに怯んでいるのか、体が動かなくなっていしまっている人々もいた。


 しかし。


「マリーズちゃん……」

「はい」


 ララとマリーズが手を繋ぐ。


 そっと目を瞑る。

 ドラゴンが向かってきているのに目を瞑り、さらには手を繋ぐという愚行。普通なら自殺行為だ。

 だが、二人にとってはそれは大きな意味を有する。


『マリーズちゃん、わたしの声聞こえる?』


 ララの強い意志が逆流してきた。


『ええ。なんだか不思議な気分ですね』


 マリーズの意志も。

 こうしている間にもドラゴンは地上に降臨しようとしている。


『わたし一人ならドラゴンに勝てないかもしれない』

『だけど二人なら……ララと一緒ならドラゴンを倒せます』

『それよりも』

『『わたし(私)達にはあの人が付いている!』』


 二人の魔力……さらには心さえも混ざり合っていき、一つの魔法式を組み上げようとした。


 これは……?


 ほう、見たことがない魔法式だ。

 ここにきて二人はオリジナルの魔法を生み出そうとしているのか!


『『クルト』』


 俺の名が呼ばれる。

 ドラゴンの地上に降臨しただけでも、その衝撃波で周囲の被害は避けられない。

 それだけで百人以上もの人が死ぬ。ドラゴンというのはそういう存在だ。

 そんな凶星ドラゴンが地上に追突しようとした瞬間——



『『聖なる救世主の剣ホーリー・セイバー・ソード』』



 ドラゴンを迎え撃つようにして、光り輝く一本の剣が現れた。

 聖なる救世主の剣ホーリー・セイバー・ソードと言ったか。


 ララは右手で、マリーズは左手で一本の剣を握った。

 ドラゴンはその異様な剣に気付き、静止しようとする。

 しかし勢いがついてしまっているためか、急に止まることは出来ない。

 その僅かな間隙だけで十分であった。



「「これで終わりだぁあああああ!」」



 ララとマリーズがふわっと宙に浮き、ドラゴンに向かっていく。

 二人が声を上げ、剣を振るった。

 それはドラゴンに比べ、小さな剣であった。

 しかし二人によって浴びせられた剣撃は重く、一閃ごとにドラゴンに深い傷を負わせていった。


「ぐぉぉおおおおおおおお!」


 ドラゴンの苦悶の声。

 それはすぐに終わった。

 ララ達によって斬られたドラゴンはやがて光と共に、消え去ってしまったのだ。


「やった、マリーズちゃん!」

「私達だけでドラゴンを倒したんですよね?」


 着地するララとマリーズ。

 勝利の余韻のためか、二人の体は微かに震えていた。


 歓喜の輪は二人の間だけではなく、周囲にも広がっていく。 


「ド、ドラゴンが消えちまったぞ!?」

「なにが起こったか分からないが……もしかして、あのお嬢ちゃん達がやったのか?」

「なんということだ! あんなか弱そうな少女達がドラゴンをやっつけるなんて!」

「うおおおおおおお! 王都は救われたぞおおおおお!」


 徐々に大きくなっていく歓声。


「にゃはは。わたし達、とんでもないことやってしまったみたいだね」

「こんなこと、大したことありませんから」


 ララが頬を掻き、一方のマリーズは澄まし顔。


「あっ、今のマリーズちゃん。まるでクルトみたいだった」

「クルトみたい?」


 俺みたい……かはともかく、ドラゴンを倒したごときで満足してはいけない。

 確かにドラゴンは強敵であったが、二人はまだまだ成長していける。

 それを感じさせた。


 人々からの喝采を受け、二人は笑みを作っていた。


 ◆ ◆


「ララとマリーズ……すごい……」


 俺と一緒に先ほどの光景を見ていたシンシアが、そう声を出す。


「そうだな。すごい」

「クルトもそう思う?」

「もちろんだ」


 二人が創造した聖なる救世主の剣ホーリー・セイバー・ソードは、俺がフォンバスクを葬った王の一閃(ディバインロワ)と似ている。

 とはいえ、魔法式を見るに全く別物であった。


 二人の赤色と紫色魔力。

 さらにララとマリーズの二人は心の奥深いところで、強く結びついていた。

 そういった……いわば()の強さといったものが、聖なる救世主の剣ホーリー・セイバー・ソードという魔法に現れていたのだろう。


 俺一人で聖なる救世主の剣ホーリー・セイバー・ソードを生み出すことが出来るだろうか?

 いや、今すぐでは難しいだろう。

 こんな感覚……それこそ、1000年前にも感じたことがなかった。


「俺もうかうかしてはいられないな」

「クルト、笑っているの?」


 シンシアに指摘され、口元に手を当ててみると……確かに無意識に笑っているようであった。



 俺より強いヤツは()()にいた。



 そんな確信を抱き、今から胸の高鳴りが押さえられないのであった。

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