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156・この時代は本当にいい

「とはいえ……これで問題が解決したわけではない」


 暗澹あんたんたる雲がなくなったことにより、街の人々は安心したのか笑顔を作っている者もいた。

 しかし俺が言った通り、これはいわば人々の不安を取り除いただけだ。

 根本から問題を解決するためには、バグヌバを始末する必要がある。


「早く迷宮に行きましょう!」


 マリーズがまだ緊張感を保ったまま、声を発した。


「その通りだ。ここにいてもなにも解決しない。だが……」


 言葉を続けようとすると「一体なにが起こっておる!」という声が駆け足とともに聞こえてきた。

 俺達は同時に声の方に振り返る。


「アヴリルか」

「クルトよ、先ほどの雲はなんだ? なにかよからぬことが起こっていそうな気がするのだが……」


 アヴリルが息を切らしてやってきた。

 彼女は大賢者とも呼ばれ、この世界においてはなかなかハイレベルな魔法使いだ。

 人里離れた地で暮らしていたが、今は両親とともに王都で暮らしている。


「一から説明している暇はないが……アヴリルは王都の近くに突如出来た迷宮について知っているか?」

「うむ、噂くらいはな」


 アヴリルが首肯する。


「そこで厄介なものが生まれようとしている」

「なんだと?」

「俺とて、今王都で起こっている出来事について全て把握しているわけではない。それを究明し解決するためにも、今から迷宮に向かう」


 バグヌバについて説明すると長くなるので、端的に説明した。


 するとアヴリルは覚悟を決めた顔つきで、


「うむ……では私も付いていこう。足を引っ張らないくらいは出来るはずだ」


 と口にした。

 俺の口ぶりからして、厳しい戦いになることを察知したのだろう。


 だが。


「それはしなくていい」

「おお!?」


 手で制すと、アヴリルは一瞬前のめりに転けそうになっていた。


「ど、どうしてだ? 私では力不足だと?」

「いや、そういうわけではない。アヴリルが来てくれれば、俺も頼もしい。気持ちは嬉しいがな」

「もしや私に気を遣っているのでは? 危険な目に遭わせられない……と。それについては気にしなくてよい。魔法を極めるにあたって、それくらいの覚悟は出来ている」

「そうでもない……アヴリルには王都を守る役目を担って欲しいのだ」

「ふうん?」


 目を丸くするアヴリル。


「二手に別れよう」


 俺はララとマリーズのにも視線をやって、人差し指と中指を立てる。


「バグヌバを完全に始末するまでは、まだ王都に悪影響があると考えている。それを食い止める係……いわゆる王都防衛班として、それをララとマリーズ。そしてアヴリルの三人にお願いしたい」

「わたしが……?」

「またファントムのような魔物が発生するということでしょうか?」


 おっ、マリーズの方は察しがいい。


「マリーズ、その通りだ。ファントム以外にも、王都に危険を及ぼすものが発生しないとは限らない」


 それはきっとバグヌバの影響力によって現れるのだろう。

 本来なら、ララとマリーズ……そしてアヴリルの三人とて、それを処理するのは困難かもしれない。


 しかしララとマリーズの二人は時空間で『心の眼』を習得した。

 その二人とアヴリルならきっとバグヌバの刺客であろうと、撃退出来るはずだ。


「俺は三人を信頼している。俺が二人いれば事足りるんだがな。そういうわけにもないかない……どうだ? 頼めるか?」

「う、うんっ! わたし、頑張るよー!」

「あなたと一緒に迷宮に行けないのは残念ですが、王都を守ってみせます!」


 ぐっと握り拳を作る二人。

 うむ、本当に二人も成長したものだ。

 今までの彼女らなら『王都を守る』という言葉に、尻込みしていたかもしれない。

 だが、今の彼女達なら優にその任務を達成することが出来るだろう。


「……俺の見立ては間違っていなかった」

「クルト? なにか言った?」


 ララが顔を覗き込んできたが、それについては反応しなかった。

 


 ——わたしに魔法を教えて!



 ロザンリラ魔法学園に入学してすぐに、ララは俺にそんなことを頼み込んできた。

 マリーズも同じだ。

 転生前、俺は孤独だった。共に寄りそう友などいなかった。


 しかし——この時代は本当にいい。


 二人も気付いていないほどの潜在能力が、彼女達にはあった。

 それを俺は見抜き、二人に魔法を教えていくことにした。

 俺の教え方がよかった、と言うつもりはない。

 ここまでこられたのは、二人の努力があったからだと思うからだ。

 そのおかげでめきめいきと彼女達は力を伸ばし、とうとう王都を任せられるほどになったのだ。

 そのことを思うと、感慨深く思うのであった。


「では三人とも任せたぞ。王都を守ってくれ」

「うん!」

「はい!」

「任せてくれ!」


 ララとマリーズ、アヴリルから力強い返事が返ってきた。


「さて……と。シンシア」


 それを聞いて、今度はシンシアの顔に視線を移す。


「シンシアは俺と一緒だ。シンシアの魔力分析能力が必要になる。この問題を解決するための手段となるだろう。だから俺に付いてきてくれるか?」

「……うん。シンシア、どこにでも付いていく」


 そう口にして、シンシアがぎゅっと俺の腕をつかんだ。


 決まりだな。

 ララとマリーズ、アヴリルの王都防衛班。

 俺とシンシアの迷宮班の二手に別れて、一旦は行動しよう。


「ではまた後でな」

「うん!」



 ララ達に手を振ってから、転移魔法を発動する。



 地下迷宮の入り口。


「……さて、まずは最奥に向かうとしよう。ここからは転移魔法を使えないからな」

「うん」


 シンシアが一歩踏み出した。


 ……ん? 

 この気配は。


「シンシア」


 俺は彼女の肩に手をやり、歩みを停止させる。

 するとシンシアの前の地面に一本の黒い槍が突き刺さったのだ。


「ダークネスアローか」


 俺は槍が飛来してきた方を見る。


「なに……あれは? 禍々(まがまが)しい……」


 ()()を見て、シンシアが俺の背中に隠れる。


 見ていると、迷宮の中から一人の人間が現れた。

 そいつはゆっくりと余裕を持って歩き、俺達に近付いてくる。


「俺の仲間を傷つけようとするとはな。どういうつもりだ?」


 問いかけるが、そいつからは答えが返ってくる気配がない。

 表情も分からない。

 何故なら……そいつは黒い鎧で全身を包んでいたからだ。

 顔も甲冑で隠れているため、相手の顔を拝むことが出来ない。

 1000年前の帝国に『暗黒騎士』を名乗る輩がいた。そいつは騎士団の中でも選りすぐりのエリートだそうで、俺の前に立ち塞がってきたことを思い出す。

 ……まあそいつは俺がハンデとして小指一本で倒したが。

 ともかく、その暗黒騎士によく似ている。


「……ふん」


 今度は暗黒騎士からダークネスアローが十本同時に発射される。

 俺はすぐに結界を展開してそれらを防いだ。


「うむ、この時代にしてはなかなかの魔法ではあるが、俺に届かせようと思えば後1000年以上の修行が必要になってくるだろう」


 丁度いい。

 俺は暗黒騎士に手をかざし、こう開戦を告げた。


「折角、1000年前の力を完全に取り戻したのだ。その力をまずはお前に試すとしよう」

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