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155・平和が好きだから

「クルト、なにが起こっているの?」

「お、お化けがまた出てくるんでしょうか……!」

「説明して」


 寝間着姿の三人が次々にそう言った。

 言葉の裏に恐れや動揺が隠されているようにも思える。


 こうなるのも仕方がないか。

 ただでさえ、翌日に邪神バグヌバとの決戦を控えているのだしな。ナーバスになるのも分からなくもなかった。

 しかしなにも慌てる必要はない。


 俺はみんなを安心させるために、


「なにも恐れる必要はない。バグヌバとの戦いが一日前倒しになりそう……ただそれだけだ」


 といつものように言った。


「前倒し……? 今から戦うってことかな」

「そうなるな」


 ララの顔を見て続ける。


「恐らく、こんなところまで魔物が発生したのはバグヌバが送り出してからに違いない。もしくは復活の影響のためか……」


 やれやれ。

 美の神ラゼバラは、バグヌバの封印は一年保つとは言っていた。

 しかしこのようなことが起こるということは、封印にほつれがあるということだ。


 なにが起こっている?


「す、すぐにあの……ラゼバラさんでしたっけ? クルトが神様だって言ってた女性。あの人のところまで行って、聞く必要があるということでしょうか」

「マリーズ、その考えは正しい」


 しかし彼女の言っていることには一つ誤り……というか無駄がある。


「取りあえず、今すぐラゼバラになにが起こっているか聞くとしよう」

「「「?」」」


 三人が一様に首を傾げた。



 俺はラゼバラと意識を繋げた。



「ラゼバラよ、なにが起こっている?」


 ここにいながら。

 地下迷宮にいるであろう、彼女に話しかける。


 すると。


『私も計算外のことが起こっているわ』


 と周囲にラゼバラの声が響き渡った。


 それを聞いて、ララ達三人が驚く。


「えっ……あの時の女の人?」

「これは一体……?」

「こんな魔法、見たことない」


 うむ、この魔法はこの世界では一般的ではないからな。


「遠方にいる者とも通信出来る魔法だ。今回はみんなも聞けるように改良しているがな」


 1000年前の世界ではよく使われていた魔法だ。

 俺の時代ではこの魔法を使って、遠距離にいる……たとえば恋人なんかにも連絡をして、恋愛を楽しむ若者もいたものだ。

 魔法で遠距離にいる恋人に愛を囁く。

 1000年前ではこれを『遠距離恋愛』と言っていたのを懐かしく思う。

 ……まあ俺には縁のない話であったが。


「ララ達にも聞いてもらう必要があったからな。これをスピーカー機能と言うな」

「「「…………」」」


 ん?

 三人は唖然として、言葉を紡ぐことが出来ない様子だ。


「まあ……今更だよね」

「クルトが今まで使ってきた魔法に比べれば、随分生活的なんですね」

「驚いている場合でも……ない……」


 まあ意識共有の魔法も俺は使えるのだ。たかが遠距離にいる相手と通信出来る魔法を使ったとて、それほど新鮮味もないだろう。


 閑話休題。


「……話を続けるか。ラゼバラ、計算外とはどいういうことだ?」


 気を取り直して、ラゼバラと会話をする。


『そのままの意味よ。私もよく分かっていないわ』

「ラゼバラもか?」

『ええ。こんなこと、偉そうに言うのもどうかと思うんだけどね』


 ラゼバラの言葉からは、悔しさみたいなものが滲み出ているように感じた。


「大丈夫だ。何故なら俺がいるからな。すぐに解決してやる」

『1000年前からあなたは頼もしいわね。早くこっちに来てくれると助かるわ』


 そこでラゼバラとの通信を終える。


 取りあえず、すぐにでも地下迷宮に向かうか。


「ララ、マリーズ、シンシア。俺につかまれ。転移魔法を使うぞ。ラゼバラのところへ向か——ん?」


 転移魔法を発動しようとした瞬間。

 俺はとある魔力に気が付く。


「……いや、すぐにでも向かおうと思ったが、そういうわけにもいかないようだ」

「どういうこと?」


 ララの顔が不安に染まっている。


「まずは王都に向かおう。転移魔法で向かう先はそこだ……とその前に」

「マスター」


 考えていると、廊下の向こう側からシャプルが駆け寄ってきた。


「なにが起こっているのですか? よからぬ魔力を感じるのですが……」

「どうやらバグヌバの力が漏れているようだ」

「漏れて? 封印されているのでは?」

「ラゼバラの計算外のことが起こっているらしい。なに、それほど気にすることもでもない。決着が一日早いか遅いかの違いだ」


 俺はシャプルの無機質な瞳をじっと見つめる。


「シャプル。お前はここの留守を頼みたい」

「……はい。マスターに言われることなら、私なんでもいたします」

「俺はいい人工知……じゃなくて、友を持った。頼んだぞ、シャプル」


 俺が言うと、シャプルは真剣な顔をして頷いた。

 彼女になら、ここを安心して任せられる。


 だが。


「友……ですか。私はそれ以上になりたいのですが、やはりおこがましいことなんでしょうか……」


 とシャプルは寂しそうな顔をして小さく呟いたが、意味はよく分からなかった。


「よし、待たせたな。ではみんなで王都に向かうとしよう」

「「「はい!」」」


 三人が敬礼して返事をする。


 ◆ ◆


 転移魔法で王都に到着。


「え……あの雲はなに?」

「不気味です」

「あんなの……見たことない……」


 ララ達三人が空を見上げる。

 上空はどす黒い雲が覆っていた。


 ただ天気が悪いだけか? 

 いや違う。あの雲には多量の魔力が含まれている。バグヌバの影響力であろう。


 周囲を見ると、王都にいる人達が外に出てきて、みんなが不安そうに空を見上げている。



「なにかよからぬことが起きる前兆じゃ……?」

「なんだろう。見ていると不安になってくる」

「災厄だ! 災いが起こるんだ!」



 そんな声も聞こえてきた。


「どちらにせよ、あの雲をあのままにしておくのはあまりよくなさそうだ」


 人々の不安を煽ることになるからな。

 まずはこれを片付けるか。


 俺は別次元から魔剣を取り出し、それを握る。


「クルト、なにをするのー?」

「あれを斬り裂く」


 剣を振りかぶり、それを()に向かって一閃した。

 無論、地上で剣を振るっただけなので、あの雲に剣が届くはずもない。

 しかし俺が魔剣を振るうことによって、魔力の波動が飛ぶ。

 それが雲を斬り裂き、切れ目が出来た。


 両断された雲はそのまま霧散していき、あっという間に王都に青空が戻ったのであった。


「人には不安や悩みといったものが付きものだ」


 別次元に魔剣を収め、俺はこう続ける。


「しかし……俺がそんな無用な不安は全て斬り裂いてやる。俺は()()が好きだからな」

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