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154・誰と寝るか

「ふう、よく食べたね!」


 ララがテーブルの前で手を合わせ、満足そうに言った。

 テーブルの上にあれだけ並べられた料理の皿が、すっかり空になっている。

 ララ達の料理の腕が良かったためだ。

 俺も夢中になってオカワリもしてしまった。


「食べたら……眠くなってきた……」


 シンシアが欠伸をする。


「シンシア、食べてすぐに寝たら太ってしまいますよ」


 それをマリーズが先生のように窘める。


「いくら食べても太らない体質だから……大丈夫……」

「くっ、羨ましいばかりです」


 マリーズがそう口にして、自分のお腹を押さえた。

 彼女も決して太っていないのだがな。それどころかすらっとして、惚れ惚れする。

 だが、ストイックな彼女のことだ。この体型を維持するためにも、並々ならぬ努力をしているのだろう。


「わたしも大丈夫ー。食べても違うところに栄養がいくから」


 違うところ……胸のことか?


「ララ、わたしに喧嘩を売っているのですか?」


 一転、お腹を押さえていたマリーズは、今度は自分の胸元に手を当てた。


「そ、そんなことないよっ!」

「あなたがいくらそう言おうが、今のはわたしへの宣戦布告だと見ます。バツとして胸を揉ませなさい」

「どうしてそうなるの!?」


 マリーズが手を伸ばすが、ララはさっと身を翻し逃走に転ずる。


「待ちなさい!」


 意地になっているのか、そんなララをマリーズが追いかけた。

 はっは、なんと楽しいことか。


「マスター」

「どうした、シャプル」


 いつの間にかシャプルが俺の隣に立って、呼びかけてきた。


「こんなことをしていて大丈夫なのでしょうか?」

「どういう意味だ?」

「いえ……邪神バグヌバが復活しようとしているのでしょう? 彼女達はその脅威を分かっているのか……と。マスターがいるから大丈夫ですが、そうでなければバグヌバが復活すれば、この世界なんて一瞬で滅んでしまうのですから」


 うむ、シャプルの言うことにも一理ある。

 そういう彼女もいつもと表情が変わらないように思えるが、頭の中では不安を覚えているのかもしれない。


 だが。


「心配はいらない」


 そんな彼女の頭を優しくポンポンとする。


「バグヌバなど、俺にとってはただのザコだ。ヤツが1000年前となにも変わっていなければ、今度は一瞬で滅ぼすことも可能だろう」


 それに——あれだ。

 1000年前では考えられなかったことだが、こういう光景をいつの間にか『好き』だと思っている自分もいる。

 そして、この素晴らしい世界を守りたいと思っている自分も。

 ならばこれは戦いの前の一時の休息。

 こういう光景を眺めることによって、さらに力が湧いてくるのも分かった。


「さすがマスターですね。懐が深い」


 シャプルがうっとりした瞳で俺を見た。


「……さて。シンシアの言った通り、眠くなってきたことも事実だ。今日のところは寝るとするか」


 しっかし睡眠を取って、明日へと備えようではないか。


「クルトー! わたしと寝よーっ!」


 俺の声に気付いたのか、ララが足を止めそう手を上げた。


「なにを言っているのですか、ララ!? ララは女の子で、クルトは男の子ですよ? 男女が同じ部屋に寝るなんて……あり得ませんからっ!」

「でも、でもっ! わたし、クルトと一緒に寝たいよ。だって……一人で寝るの怖いし」

「あなた、今までどうやって寝てたんですか。一人が怖いなら、私が一緒に寝てあげます」

「マリーズちゃんよりもクルトが良い!」


 ……なにやら二人が勝手に言い争っている。


 ララと俺が一緒の部屋で寝る?

 そんなことをしてしまえば、たちまち胸の鼓動が高まって寝られなくなってしまうだろう。

 睡眠不足のまま明日の戦いに備えることは避けたい。


「……クルト、シンシア達。どこで寝るの?」


 俺の服の裾を引っ張って、シンシアが問うた。


「大丈夫だ。みんなが寝られる分だけの部屋は十分用意されている。各々そこに分かれて寝るのが無難だろう」

「うん……そだね」


 ん? 何故だかシンシアも寂しそうな表情を見せた。


「どうした、シンシア」

「ん……シンシアもクルトと寝たいな……って」


 恥ずかしそうに彼女が顔を赤らめて、俺から視線を外す。


「それは勘弁してくれ。シンシアと寝るのが嫌だというわけではないが、明日の戦いのために一人で精神集中しておきたい」

「うん……そうだよね。ごめん、変なことを言って……」

「謝らなくてもいいぞ」


 精神集中……というのはもちろん嘘で、実際は安らかな睡眠を取りたいがためだ。


「「クルト!」」


 そうこうしていると、いつの間にやらララとマリーズが俺のところまで近付いていた。

 二人はグイグイと顔を寄せ、こう続けた。


「「クルトはどっちと寝たい(んですか)?」」

「……どうしてそうなる」


 だから、ララとマリーズと寝ては正気がな……。


「早く言って! クルトはわたしと寝たいよねっ?」

「もちろん私でしょう。私……男性と一緒の部屋で寝るのなんてはじめてですが、邪魔はしませんから……っ!」

「ちょっと待て、二人とも」


 ここから逃げ出そうとするが、二人はさらに体を俺に押しつけてくる。


 俺が逃げられないだと……?



 ——結局、二人を説得して各自別々の部屋で寝ることになったのだった。



 ◆ ◆


「やはり()()ではいかないか」


 むくっとベッドから上半身を起こし、覚醒する。

 こうして平和な一日を過ごし、バグヌバは明日片付けようと思っていたが……なかなかどうして、そう簡単には終わらないようだ。


 嘆息を吐きながら、俺が部屋を出た瞬間であった。



「キャアアアアアアア!」



 突如、建物内に甲高い悲鳴が響き渡る。


 俺が走り出すと、しばらくして廊下のところで座り込んでいるマリーズの姿があった。


「ク、クルトッ!」


 マリーズは腰が抜けているらしく、這いずりながら俺の右腕を必死につかんだ。


「お、お化けが……!」


 彼女が指差す方を見ると、廊下に飾られていた花瓶や絵画といった類のものがふわふわと浮遊している。

 しかも煙状のなんとも形容しがたいものが、ケラケラと笑っているように見えた。


「ク、クルトはここに来るのは1000年ぶりなんですよね? や、やっぱり、人が居着いていなかったらお化けというものは発生するんでしょうか? このままでは、私達は取り憑かれて……」

「慌てるな。マリーズ、よく見ろ。ただの魔物の『ファントム』ではないか」


 俺はマリーズを落ち着かせるため、ゆっくりとした口調で言ったが、彼女が冷静になる様子はない。


 それどころか、


「ひっ……お、お化け……私達、取り憑かれて、殺されて……っ!」


 と俺の腕をつかむ力がどんどんと強くなっていく。


 そのせいで、腕に彼女の胸のむにむにとした感触が当たってしまい、そちらの方が気にかかった。


 このままでは俺の方もどうにかなりそうだ。

 さっさと片付けるか。


「ファントムデリート」


 一言だけ、その魔法名を告げる。

 ファントムウルフを倒す際にも使った魔法だ。

 するとマリーズを怖がらせている『お化け』……というか魔物のファントムであるが、そいつ等の周りに球体が現れ、次々と電撃を浴びせていった。

 あっという間に数体のファントムの駆逐を終わらせる。


「じょ、除霊……!」

「除霊ではない。ただ魔物を倒しただけだ」


 とはいえ、だんだんとマリーズも落ち着きを取り戻していくのが分かった。


 そうこうしていると廊下の向こう側から、



「クルトー? どうしたの。さっきすごい悲鳴が聞こえたけど……」

「なにがあったの……?」



 とララとシンシアも心配して駆けつけてきた。


 マリーズはそれを見て「な、なんでもありませんからっ!」と気丈に振る舞おうとするが、未だ立ち上がることすら出来ていなかった。


「丁度いい。ララ、マリーズ、シンシア。聞いてくれ」


 続けて、俺は三人に対してこう告げた。


「明日に行動を起こそうと思っていたが、それではどうやら遅いようだ。今からバグヌバと決着を付けにいく」

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