表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/187

152・本気を出す試練

「さて……無論これで終わりではなかろうな?」


 ドラゴンを睨む。

 結界無効のブレスごときでは、本気の十分の一も出せないではないか。

 それに1000年前の俺が考えたにしては、あまりにも()()すぎる。


『マ、マスター……やはり1000年前から()は変わっていないな。マスターに見られると、自然と体がすくんでしまう』


 ドラゴンはそう言って、ブルッと体を震わせた。


『もちろん、これで試練は終わりではない。マスターならこれからなにが行われるか分かっているのでは?』

「うむ、大体察しは付く」


 俺はニヤリと口角を吊り上げ、こう続けた。


「今から本気のお前と戦えばいいのだろう?」


 ドラゴンがコクリと首を縦に振る。


『その通りだ』

「意外に簡単な試練だな。先ほどの結界無効のブレスくらいしか吐けないのでは、すぐに終わってしまうぞ」

『なにを言う。あれだけではない。それに私は1000年前のマスターの手によって作られたものだ。そう一筋縄でいくと思われるのは不本意』


 これもドラゴンの言う通りかもしれない。

 先ほどだけでは、あまりにも退屈な試練になってしまう。

 しかし——細かいところは転生魔法の副作用なのか、あまり覚えていないが——1000年前の俺が作ったドラゴンなのだ。

 そうつまらないものにもならないだろう。


「クルト……ドラゴンと戦うって本気?」

「いくらクルトでもドラゴンを二度倒せるとは……」

「クルトは帝国でドラゴンを粉砕した。今回もきっと勝てる……」


 ララ達三人は、口ではそう言っているものの、胸を弾ませているようであった。

 俺の勝利を確信しているのだろう。

 どんな戦い方をするのか興味があるはずだ。そして勉強熱心な彼女達は、どん欲にそこからなにを学び取ろうとするに違いない。


 しかし……残念なことが一つだけある。


「ララとマリーズ、それにシンシア。今回は残念ながら、三人に教えられることは()()ぞ」

「「「?」」」


 三人がきょとんした顔になる。


 俺はそれ以上の説明をせず、魔法を使ってドラゴンのところまで浮遊する。


「さて、ドラゴンよ。早速やるとするか」

『久方ぶりにマスターと戦うのは、私にとっても楽しみだな』


 ドラゴンだから表情は分かりにくいものの、僅かに口に笑みが浮かんだように見えた。

 俺は魔法式を展開する。



 ——教えられることはないぞ。



 俺が三人にそう言った理由は……。



「早すぎて見えないだろうからな」



 そう呟き、ドラゴンに向かってイフリートフレアを発動する。


 それが戦いの合図となった。

 ドラゴンを中心に大爆発が起こる。

 だが。


『それがマスターの本気か?』


 ドラゴンはピンピンとした様子で、翼をはためかせていた。


「まさか」


 まだ五分の一くらいしか出していない。

 ドラゴンは間髪入れずに高威力のブレスを放ってくる。俺はそれを結界魔法で防ぎつつ、滑空しながら楽々かわした。


 なかなかの速度だ。

 この上イフリートフレアをくらっても、傷一つ負わせられない防御力の高さを持っているのである。倒すのは至難の業であろう。

 普通ならな。


 しかし俺は魔剣を異次元から取り出し、同時に魔法を使いながらドラゴンを追い詰めていった。


「す、すごいよ……マリーズちゃん。クルト達の動きが見える?」


 地上でララ達が話しているのが目に入った。


「いえ、全く見えませんね」

「シンシアも……クルトがなにをしているのか分からない……」


 マリーズとシンシアが唖然とする。


「だよね。これじゃあ全然参考にならないよ」


 ララがお手上げといった感じで、両手の平を空に向けた。


 まあ仕方ない。

 いくら心の眼を体得したとしても、三人の眼では俺達の動きを捉えることが出来ないだろう。


『マスターよ! 楽しいな!』

「ああ、その通りだ」


 転生してきて、学園の入学試験でデズモンドと戦ったことを思い出す。

 あの時も久しぶりに骨のあるヤツに出会って、楽しかったものだ。


『さてと、マスター。マスターならこの試練の目的がもう分かっているな?』

「大方な」


 つまりこの試練は俺に本気を出させるためのものだ。


 欠陥魔力……黄金色魔力に限って可能な方法。

 極めれば極めるほど伸びていく黄金色魔力なら、本気を出す……つまり限界値に近い動きをすれば、それだけ魔力の質が高まっていく。

 これは1000年前、俺がもたらした魔法革命によって当たり前の事実になったことだ。


 だが、この世界で俺はなかなか本気を出せない。

 この戦いによって俺は本気を出し、元の力を取り戻すことが出来るだろう。


 しかし……一つだけ問題がある。



「この程度ではまだ本気を出せんぞ?」



 俺が魔剣をぐっと握りしめ、ドラゴンに最後のトドメを刺す。

 その魔法名は王の一閃(ディバインロワ)

 あのドラゴン化したフォンバスクを一撃で葬った魔法である。


『グオオオオオオオ!』


 ドラゴンの断末魔。

 王の一閃(ディバインロワ)によって一閃されたドラゴンは光の粒子となり、そのまま消滅していった。


「こんなものか」


 俺は魔剣をしまいながら、地上に降り立つ。


 それと同時、ララ達三人、そして《赤鳥》《青鳥》が近寄ってきた。


「クルト! ドラゴンは倒したの?」

「なにをやっているのか全く見えませんでした」

「説明……して」


 この戦いの間に、俺は1000もの魔法をドラゴンに放ったが、その一つたりとも三人は視認することが出来なかっただろう。


「ドラゴンは倒した。だが……」


 俺の記憶通りなら……。


 そう思っていたら、目の前にぼわっと優しい光が灯った。

 そしてそれはだんだんと形を成していき、小型のトカゲのようなものが姿を現した。


『マスター、さすがだ』

「うわっ、これなんなの!?」


 ララがそれを見て、目を丸くする。


「先ほどのドラゴンだ。倒す……といってもあくまで試練のためだからな。魂ごと破壊しなくてもいいだろう」


 そう説明すると、小さくなったドラゴンはしゅんと肩を落とした。


『しかし……無念だ。マスターに本気を出させることが出来なかった。このままではマスターは元の力を……』

「なにを言っている?」


 俺はドラゴンを安心させるために、こう告げた。



「もう転生前の力を取り戻した」



『な……!』


 ドラゴンは驚愕に目を見開く。


 そうなのだ。

 先ほどの戦い、俺は本気を出すことは出来なかったが……それでも、非常に有意義な戦いが出来た。

 魔力が高まっている。質が段違いに良くなっていた。

 うむ、そうだ。この感覚だ。1000年ぶりなもので、なかなか懐かしいな。


『しかしマスターは本気を出すことが出来ていなかった。それなのに何故……!』

「本気を出さなければ、魔力の質を高められないわけではない。俺に限ってはな」


 そもそも1000年前においても、本気を出すことなどほとんど出来ていなかったのだ。

 それでも、俺は高みを目指し続ける必要があった。

 歩みを止めるわけにもいかぬ。

 その結果、生み出したのがこの『本気を出さなくても、魔力の質を高めることが出来る』トレーニング方法だ。


 とはいえ。


「お前の力を借りなければ、それは不可能だった。他のザコと戦っていては、さすがに元の力を取り戻すことが出来なかっただろう。感謝する」


 ドラゴンを労う。


 俺にとっては当たり前のことをしているつもりだが、


「……クルトがまた訳の分からないことを言ってる」

「前提条件なんて全て無視するのがクルトですからね」

「……クルト出会って、大分経つ……でもまだ慣れない……」


 とララ達三人は唖然とした様子だった。


 さて、準備も整った。

 後はここから出て、邪神バグヌバを始末しにいくとするか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ