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151・結界無効のブレス

 最終試練がはじまった。


 大地が揺れ、今にも洞窟は崩壊してしまいそうだ。


「あまり長居ながいは出来そうにないな。さっさとララ達がいるところに戻るとするか」


 呟いて、俺は転移魔法を発動させようとする。

 だが。


「……どうした《赤鳥》《青鳥》。お前等も脱出しないと、このままでは死でしまうぞ」


 パタパタと羽ばたき、その場に止まろうとする二羽の鳥が目に入った。


 俺がそう問いかけても、《赤鳥》《青鳥》は声の質を変えず、


「いえ、私達はここまでです」「マスターのご武運をお祈り申し上げます」


 と極めて冷静に言った。


 それを聞いて俺は「なんてバカなことを」と言ってから。


「なにを言っている。死んでしまってもいいというのか。また俺がここを使いたくなった時に困るぞ」

「いえ、マスター」「マスターは忘れているかもしれませんが、私達は再生します」


 二羽はそう続けた。


 再生……ああ、再生か。

 やはり1000年も経つと、所々忘れている記憶が多いな。俺としたことが……もしくは転生魔法を使った際に、いくつかの記憶が抜け落ちてしまったのか。


「お前等は死んでも、また同じような二羽の鳥が再生する。そうなった場合、あらためて試練を行うことが出来る……のだったな」


 俺が問うと、二羽は同時に頷いた。


 つまり《赤鳥》《青鳥》は死ぬが、すぐに生き返る。全く同じものにな。

 しかし死ぬことには変わりない。全く同じものが生き返るとはいっても、そこに連続性があるのか……哲学的な領域に入ってくるが、疑問であった。


「なので大丈夫です」「私達のことはお気に召さらず」


 二羽には確固たる意思があるようであった。

 自分達は試練が終わったんだ。自分達の仕事は終わった。だから後は朽ちていくのみと。

 たとえ死んだとしても、また同じものが生き返ってくる。

 マスターはなにも心配する必要はない。それどころか私達は誇りさえも覚えている……と。


 しかし。


「それはあまり良い気分にならないな」


 そう。

 たとえ生き返るとしても、目の前にいる二羽が一旦死ぬことには変わりない。


 俺がそれを許す?

 1000年前はそう考えていたのかもしれない。


 しかし……転生して、俺も色々と考えが変わってきた。


「俺の肩に乗れ」


 そう促すと、《赤鳥》《青鳥》は驚いたように目を大きくした。


「なっ……なんという」「心遣い」

「俺が救える命を救えないとでも思ったか? それにこんなところで気分を害して、後々の試練の障害になるのも億劫だ。一緒に行くぞ」


 ——ララとマリーズ、シンシアのような仲間と出会い、俺も変わった。


 俺が言っても、《赤鳥》《青鳥》の二羽は、当初なかなか肩に乗ってこようとしない。


「早く乗れ。時間がない。それとも……マスターの命令に逆らうつもりか?」


 わざと威圧的な目を向ける。

 すると二羽はぶるっと体を震わせた。


「は、はい!」「マスターのその目つき……久しぶりに見ます。ああ、なんて私達は幸せなんでしょう」


 鳥だから表情は分からないが、おそらく二羽は恍惚としているだろう。

 1000年前の俺が作ったのだからあまり文句も言いたくないが……どうして、ここまで『主大好き』といった鳥を作ったのだ?


 まあいい。

 どちらにせよ時間がない。

 二羽がすぐに俺の左右の肩に乗ってきた。


「よし……行くぞ」

「「はい!」」


 こうして俺は転移魔法を発動し、崩れ去る洞窟から脱出を果たすのであった。


 ◆ ◆


 外に出ると、どうやら森の中が騒がしくなっていた。


「クルト!」


 ララの声。


 彼女が真っ先に俺を見つけ、急いだ様子で駆け寄ってくる。


「これってどういうこと!? なんか大きな地震が起きて、嫌な予感がするんだけど……」

「うむ、その予感は間違いではないな」


 続いて、マリーズとシンシアも俺の前まで走ってきた。


「クルト、まだ試練は続いているということですか?」

「矛盾生物は倒したのに……」


 どうやら、俺が少し目を離した隙に矛盾生物を全滅させたらしい。

 なかなかどうして……この短い時間で心の眼を体得するとはな。やはり、三人の成長速度は俺を驚かせてくれる。


 だが。


「褒めるのは後だ。今から最終試練がはじまる。俺の記憶ではまず手始めに……」


 と説明をはじめようとした時であった。



 グォォォオオオオオ!



 地を震わすような雄叫び。

 空を見上げると、そこには白いドラゴンが翼をはためかせており、俺達を見下ろしていた。


「ド、ドラゴン!?」

「なんてものが現れるんですか!」

「早く……逃げないと……」


 それを見て、三人が慌てふためく。

 しかし俺は白いドラゴンを見ても、心が弾むだけで恐怖など抱いていなかった。


「まずはあのドラゴンを倒す」

「ド、ドラゴンを!? あっ、でもクルトは帝国で一度倒しちゃってるしね」


 ララが言っているのは、魔神フォンバスクがドラゴンと同化した時のことであろう。


「マスターなら」「ドラゴンくらい一ひねりです」


 肩に乗っている《赤鳥》《青鳥》もそう声を発する。

 ララ達は二羽の鳥を見て「わっ! 鳥が喋った!」と目を見開いたが、こいつ等についての説明は後からでも大丈夫だろう。

 そうこうしているうちに、ドラゴンの大きな瞳がぎょろっと俺達を見据えた。


『マスター、久しぶりだな』


 頭に直接語りかけるような、ドラゴンの声。


「ああ。転生して姿も変わっているはずだが、俺が分かるのか?」

『無論だ。姿が変わろうが、魂は変わらぬからな』


 うむ、その通りだな。


『しかしマスターよ、1000年も経って力が衰えているではないか』

「その通りだ。だからこそ、この空間に俺達はやってきた」

『ならば早速力を試させてもらう。結界魔法を破壊するブレスを、見事防いでみせよ』


 そう言って、ドラゴンはゆっくりと口を開けた。

 口腔に魔力が溜まっていく。

 ドラゴンの言う通り、あれは結界魔法を無効化するブレスだ。普通なら結界で防ごうとするのは、あまりにも愚策であろう。



 ()()ならな。



 ドラゴンが容赦なくブレスを発射させる。

 天からとどろくブレスは、放っておけば一発で森全体を焼け野原に変えてしまうほどの威力がある。


「ララ達、下がっておけ」


 ブレスに対して、手をかざす。

 そして俺は()()魔法を展開させた。



「結界魔法を無効化させるブレスから身を守る結界魔法……それくらい展開出来なければ話にならん」



 そう口にして、ドラゴンからのブレスを防いだのだった。


『さすがマスター。どのような不可能なことでも可能に変えてしまう。それこそ、私の惚れたマスターだ』

「1000年前に比べ力が衰えているとはいえ、これくらいの芸当は朝飯前だ」


 相手を威圧するドラゴンの瞳は、どこかうっとりしているようにも見えた

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