表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

150/187

150・心の眼

「では、そろそろララ達のもとに戻るか」


《赤鳥》と《青鳥》による試練が終わった後。

 俺はそう呟いて、きびすを返そうとした。


「マスター」「お元気で」


 二羽の声が重なり合う。


 それにしても……まだなにか残っていた気がするのだが?

 お世辞にも、まだ転生前の力を取り戻したとは言えない。転生前の俺は()()()力を有していた。

 今からなにをすべきなのか。


「っと……その前に、ララ達の様子でも見るとするか」


 俺はともかく、果たしてララとマリーズ、シンシアの三人は存在なき者……矛盾生物を斬ることが出来ているのだろうか。

 三人にはあらかじめ意識共有魔法を使っている。これがあれば、遠くからでも三人の様子を眺めることが出来るのだ。


「戻ってからゆっくり見るのもいいんだが……早く三人の成長度合いも見ておきたい。少し眺めてみるか」


 俺は意識を集中させ、三人と意識を共有させた。


 ◆ ◆


「マリーズちゃん、危ないっ!」

「は、はいっ! ありがとうございます!」

「やっぱりどうしてもダメージが通らない……」


 三人の様子がぼんやりと頭の中に浮かんでいた。

 ララとマリーズ、シンシアの姿は土が付着しており、所々汚れていた。


「はあっ、はあっ……」

「これじゃあ、らちがあきませんね」

「さすがに疲れてきた……」


 三人が矛盾生物を眺めながら、膝に手を置く。


 うむ、相当疲弊しているようだな。

 一方、存在しながら存在している……矛盾生物はピンピンしている。

 矛盾生物は品定めするかのように、三人を眺めている。


「やっぱり……わたし達じゃ、矛盾生物を倒せないのかな?」


 ララが弱音を吐く。


「そんなことありませんよ。クルトはいつだって、私達に乗り越えられるレベルの試練しか与えません」


 マリーズが激励する。


「うん……その通り……せめて一発だけでも矛盾生物に攻撃を通さないと。クルトがガッカリする……」


 シンシアも戦意を失っていない。

 だが。


「うーん、でもわたし疲れたよ! もう一歩も動けない」


 長時間動き回ったせいだろうか、ララはだだっ子のように両手をブンブンと振った。


「でも一発だけ……一発だけって思えば……」

「ララ!」


 疲れ果てているララに対して、矛盾生物が攻撃を仕掛ける。

 マリーズが結界魔法を張ろうとするが、間に合わない。

 ララは三人の中でも一番前衛で動き回る役割である。三人よりも疲労度の蓄積が大きかったのだろう。


 助けにはいるか?


 いや、これは……。


「しんどい……」


 ララが虚ろな目で矛盾生物が向かってくるのを見る。

 ぼーっと眺めているだけで、思考が働いていないようだ。


 それでも……ララも俺と行動を共にすることによって、経験が蓄積されている。

 反射的に手を伸ばし、ファイアースピアを発射させた。

 そこに無駄な意識など介在していなかっただろう。


 炎の槍が矛盾生物に伸びていき、今まで通りその体をすり抜け——



 ドゴォオオオオン!



 ——なかった。


 見事、矛盾生物にファイアースピアが命中し、大きな爆発音を立てた。


「え、え? どういうこと?」


 ララが目を丸くする。

 黒煙がなくなると、矛盾生物の姿はすっかり消滅していた。


「ララ、どうしたのですか!?」

「矛盾生物に攻撃を当てた……」


 すぐさまマリーズとシンシアが駆け寄ってきて、ララに問いかける。

 しかし彼女は未だ混乱しているようで、


「わ、わたしも分からないよ。ただ……疲れすぎて、なにも考えずに魔法を放ったらあんなことに……」


 とあたふたしながら言った。


「なにも考えずに……それです!」


 しかしそれを聞いて、マリーズはなにかを閃いたらしい。


「クルトは心の眼で矛盾生物を見よ、と言っていました。ララのやったことはそれに通ずるのでは?」

「どういうこと……?」


 シンシアが首をかしげる。


「おそらくですが、矛盾生物を倒さないとダメだ……そうしないと殺されるかもしれない……クルトを失望させてしまうかもしれない……そういった邪念や雑念がわたし達を邪魔するのです。それをなくして、素直な気持ちで魔法を放てば……?」

「んー! マリーズちゃんが、なに言ってるか分からないよ!」

「仕方ありません。だって私にもよく分かりませんから」


 うむ、とうとう答えに辿り着いたか。

 矛盾生物は心のありかたそのもの。

 なぞなぞクイズのようになってしまうが……たとえば、心の中で俺が三人を思い浮かべたとする。しかし三人は実際に目の前にいるわけではない。

 これが矛盾生物の理屈である。


 心のありかた……つまりヤツを倒すためには、それと同じステージに立たなければならないのだ。

 そういった場合、マリーズの言った『邪念』や『雑念』は邪魔なものになる。

 二時間程度の時間で、それに気づけるとは。


 だが気付いたとて、簡単に出来るわけではないぞ?


「マリーズちゃん! なんか相手は怒っているみたいだよ!?」


 一体やられてしまったことに気が張っているのか、矛盾生物が三人に一斉に襲いかかってきた。


「雑念を消す雑念を消す……ファイアースピア!」


 ララが手をかかげ、先ほどのように魔法を放つ。

 しかしファイアースピアは矛盾生物を通過してしまい、ダメージを与えられなかった。

 雑念を消す……という考え方そのものが雑念となり得るのだ。


「心の眼……」

「マリーズちゃん、危ないよ!」


 矛盾生物がマリーズに襲いかかる。

 だが、彼女は慌てず、目を瞑って左手を胸に置いていた。

 まるでマリーズの周りだけ時間が静止しているかのようだ。


「ファイアースピア」


 落ち着いた声音で、マリーズが一言だけ魔法名まほうなを呟く。


 すると炎の槍が飛び出し、矛盾生物に直撃。ララの時と同じく、煙を上げて矛盾生物は消滅した。


「マリーズちゃん、すごい!」

「どうやってやったの……?」


 ララとシンシアがはしゃぐ。

 一方、マリーズはそれにおごることなく、まだ残っている矛盾生物達に視線を逸らさなかった。


「私、子どもの頃によく精神修行をやらされていたんです。地面の上で正座をして、少しでも動けば後ろから叩かれていました。あの時はイジめられているだけと思っていましたが、まさかこんなところで役に立つとは」


 しかし、そのことが今のマリーズのかてになっていることは確かだ。

 しっかりと心の眼で矛盾生物を捉え、攻撃することが出来ていた。


「コツとかってあるのかな?」

「教えて欲しい……」


 ララとシンシアは攻撃をかわしたり、結界魔法で防ぎつつ、マリーズに問いかける。


「難しいですね。ただ慌てないことが肝心です。矛盾生物の攻撃力が大したことないのが幸いですね。一度攻撃をくらっても、死にはしない……それくらいの肝を据えることが大事かもしれません」

「む、難しそう」

「でもやらないと……この試練は突破出来ない……」


 ララは尻込みしているように見えるが、瞳を見ると確かなやる気が秘められている。


 うむ、これだったら心配ないな。

 ここまで気付けば、後はそう時間もかからないだろう。

 俺はそのことに安心しつつ、頭の中に浮かぶ映像を遮断したのであった。


 ◆ ◆


「やはり三人の成長速度には目を見張るものがあるな」


 感嘆する。


 しかしその直後……地面が突如揺れだした。


「ん……地震か。いや、これは……」


 地面の揺れは大きく、天井や地面から岩がポロポロと剥がれ落ちていく。

 このままでは洞窟が崩壊してしまうに違いない。


「そうだ、思い出した。まだ試練は残っているのだったな」


 俺は1000年前のことを思い出し、《赤鳥》《青鳥》を見た。


「今までのは前座。これからが本物の試練だ」


 全く、1000年前の俺はなかなかギミックを施してくれる。


 これから迫り来る試練に対して、俺は一切恐怖を感じない。

 それどころか、気分が高揚していくのが分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ