15・迷宮があるらしい
俺の自己紹介が少々長引いたが、特に問題もなく続行された。
「わたしはララだよ! みんな、お友達になってください!」
「私はマリーズです。よろしくお願いします」
その中でも一際注目を集めていたのは、ララとマリーズの二人だ。
仕方がない。
試験において、ララとマリーズの魔法は頭一つ抜けていたのだ。
注目されるのも仕方ないだろう。
「さて。30人全員の自己紹介が終わったところで、君達に話すべきことがある。今日はそれを話して、終わりとしよう」
教卓に両手を置いて、より一層真剣な声音でエリカ先生は続けた。
「君達もこの学園の敷地には《宝物迷宮》と呼ばれるダンジョンが、存在していることを知っているだろう」
なに。
そんな面白そうなものがあるのか。
ついつい前のめりになって聞いてしまう。
「《宝物迷宮》に地下に繋がっていくダンジョンだ。そこには魔物が棲息し、まだ誰も手を付けていない宝も多く存在している。一年生から一定の条件を満たせたば《宝物迷宮》に挑戦することが出来、腕を鍛えることが出来る……とはいってもロザンリラ魔法学園のウリとして、入学パンフレットにも書いてあるから知っているとは思うんだがな」
知らなかった。
それにしても迷宮か……。
1000年前の迷宮と呼ばれるダンジョンは存在していた。
生活費を稼ぐためや、魔導具を作る際の素材の収集によく使っていた。
俺が踏破した《ソルラヒーゼ大迷宮》は地下1000層まで続いていた。
たかが迷宮に三日もかけてしまったので、あの時はなかなか楽しめたんだな。
この《宝物迷宮》というヤツも、大迷宮ほどじゃないとへいえ、300層くらいまではあるんだろうか?
「大迷宮に区分される《宝物迷宮》は100層まであると言われている。しかし誰も最下層に足を踏み入れた者はおらず、まだまだ謎に包まれている迷宮だ」
ここまできたら大体予想してたけど……どうやら違ったみたいだった。
それに100層だったら、随分小規模な迷宮なんだなあ。
「その《宝物迷宮》で二ヶ月後。帝国の魔法学園と交流戦が行われる。そのことについて知っている者はいるか?」
先生が問うと、クラスにいる半分くらいの生徒が手を挙げた。
その中にはマリーズもいた。
まあまあ知られているらしい。
「では交流戦についても少し説明しよう。簡単にいうと、他校との競争だ。学校の代表者が迷宮に潜り、制限時間内にどちらがより多くの素材や宝を得ることが出来るか。それを競い合うんだ」
なんだそれは、面白そう。
「基本的に交流の目的で行われているのだが……ここ数年、ロザンリラ魔法学園は帝国の魔法学園——ディスアリア魔法学園に負け続きだ。今回負けてしまえば、史上初の10連敗となってしまう」
負け散らしてるな。
それにしても、1000年前において帝国は魔神に滅ぼされていた。
しかし長い年月をかけて、復興に成功したということか。
帝国には嫌いな貴族も多くいたので、あまり思い出したくない国ではあるが。
「今年こそはなんとしてでも勝ちたい! 連敗なんて不名誉は、これで終わらせてやるのだ! そのために君達新入生の力も借りたい!」
熱を込めて、先生が拳を握る。
その後、先生はルールの詳細な説明を続けた。
それを聞いていくうちに、ますます疑問が深まっていく。
「そんなに連敗が続くなんて、ちょっとおかしくないか? そんなに帝国の魔法学園とはレベルが離れてるんですか?」
なので先生に問いを投げかけてみた。
すると先生は悔しそうに顔を歪ませ、
「いや……そこまでレベル自体には大きな差はないとは思うんだが……不運もあって勝ちきれなかった」
不運?
なんだかきな臭いな。
卑怯な帝国のことだ。なんかやってる可能性もある。
……いや、帝国が卑怯だなんていう常識は1000年前のことだ。
この世界では違うかもしれないし、先入観はよくない。
「だが、今年こそは勝てると思っている。なんせ今年は逸材が多いんだからな。みんな……勝とう!」
「一年生が代表なんかに選ばれるんですか?」
「基本は三年生が多いが……一年生にも卓越した者がいたら選ばれる。というか今年に限って一人は絶対に選ばれるだろう!」
ちょっと冷たいような印象もあったが、エリカ先生は結構熱いところもあるらしい。
それにしても話している間、チラチラと先生が俺を見ていたのは気にかかった。
まあ良いだろう。
まずは代表になれるよう、実績を積まないとな。
それに俺も負ける気なんて毛頭ない。
交流のためだとは言っているが、勝負は勝負だ。
勝負には全て勝つべきだ。
◆ ◆
先生の話も終わり、王都で借りている家に帰ろうとした時であった。
「クルト! ちょっと良いかな?」
ララが寄ってきて、俺の肩をポンポン叩いた。
「なんだ?」
「一つお願いがあるんだ……私に魔法を教えて!」
ララはぎゅっと拳を握って、力強い目をして言った。
「どうしていきなりそんなことを?」
「さっきの先生の話、聞いて……わたし、なんだか燃えてきちゃった! それに試験の時は、クルトのおかげだったもん。まだまだ私、力が足りないと思うし……」
「そんなことないと思うぞ」
「そんなことあるよ! だからわたし……クルトに魔法を教わって、もっともっと強くなりたいんだ。お願い、クルト! どんなに厳しい特訓にも耐えるから!」
ふむ。
向上心のある良い子だ。
こういう子は嫌いじゃない。
「私もお願いします」
どうやって答えようかと思っていると、マリーズも来て同じようなことを言った。
「マリーズも?」
「はい。私、まだこの学園を首席で卒業するという夢を諦めていません。そこであなたに教わるのが、一番の近道だと考えたのです」
「俺から魔法の技術を盗む……ってことなのか」
「そう捉えていていただいても構いません」
マリーズの瞳にもメラメラと炎が宿っているように見えた。
教えるのはあまり得意じゃない。
1000年前は基本的に一人で行動していたからだ。
だが……。
「分かった。二人とも、俺でよかったら教えるよ」
「やったー!」
「本当ですかっ?」
ララとマリーズが目を大きくする。
「ただし」
俺は指を一本立てて、話を続ける。
「一つだけ俺からの頼みも聞いて欲しいんだ」
「なになに? わたしでよかったら、なんでもするよ!」
「エ、エッチなことはダメですからね!」
マリーズは顔を赤くしているが、なにを想像しているんだ?
「俺としばらく《宝物迷宮》に潜るパーティーを組んで欲しい」
「「パーティー?」」
二人が声を揃えた。
一人で行動してもよかったが、パーティーを組んで攻略する方が効率的なことは分かっていた。
それにどうやら一年生が《宝物迷宮》に潜るためには、最低3人のパーティーを組まなければならないらしいのだ。
そのためにララとマリーズを鍛える。
このクラスで一番筋が良いと思ったからだ。
一人で迷宮を攻略するのは、1000年前に飽きるほどやったしな。
ならば——この世界ではパーティーを組んで、攻略してみるのも面白いだろう。
「意外ですね」
「なにがだ?」
「そういうの、あなた嫌いそうですのに」
なにを言ってるんだ。
別に俺は孤独が好きじゃない。
前世は友達を作りたくても作れなかっただけだ。
「でもでも! 一石二鳥じゃん! 迷宮で一緒に行動していたら、クルトを近くで見られるんだし」
「本当ですね。それなら私の方こそお願いしたいくらいです」
「決まりだな」
自然と笑みがこぼれてしまう。
「だったら学園の生活に慣れてきた頃にでも、早速迷宮に潜ってみようよ」
「なに言ってんだ、ララ?」
「え?」
そんな悠長なことやってられっか。
「今から潜るぞ」