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141・美の神

秘匿された道筋(シークレット)》を通ると、そこは……。


「うむ、どうやらここが迷宮の最奥のようだな」


 周囲を見渡しながら、俺はそう声を零す。


「なんか……神聖な場所だね……」


 ララが背伸びして、キョロキョロと視線を動かす。


 彼女の言った通り、俺達が辿り着いた場所は神々しい雰囲気をまとっていた。

 まるで神殿の中のようだ。

 眩いばかりの真っ白い光に包まれている。

 ぞっとするくらい人の気配を感じない。


 ()の気配はな。


「だ、誰かいますよ?」


 マリーズがそれを指差す。


 台座の上。

 そこで両手を合わせて膝を付く一人の少女がいたのだ。


「キレイ……」


 無意識なのだろうか、シンシアはぼーっとした瞳で少女を見ながら、そう口にした。


 その少女の姿に俺も息を呑む。

 肌は吸い込まれそうなくらいに白く、ツヤのある黒髪が腰付近まで伸びている。

 彼女を見ていると、言葉を失ってしまった。


 俺達は黙ってその少女を見ていると、やがて彼女はゆっくりと顔を上げ、



「久しぶりね。1000年ぶりかしら。この()()ではクルト……と呼んだ方がいいかしら」



 と口を動かした。


「ああ、久しぶりだな。美の神ラゼバラよ」


 俺はそれに対して、すぐに答える。


「え……?」

「どういうことですか?」

「神……?」


 ララとマリーズ、シンシアがきょとんとした表情になる。

 理解が追いついていないのだろう。


 俺は彼女に向かって一歩踏み出し、


「ここでなにをしている?」


 と問いかけた。


 するとラゼバラは「ふっ」と妖艶に微笑み。


「あら、あなたでも、私がなにをしているか分からないのかしら」

「大方予想は付いている。この地下迷宮を作ったのは——お前だろう?」


 俺が指摘すると、ラゼバラはコクリと首を縦に動かした。


「ご名答。やっぱりあなたは全てお見通しのようね」

「お前を見た瞬間に不思議と分かったものでな」


 口元に手を当てると、俺は無意識に笑っていた。


「ねえねえ、クルト? 一体あの人は誰なの? 知り合い? それに1000年前って……」

「知り合いか……まあ間違いではないな」


 ララの質問に短く答える。


 ラゼバラは俺が1000年前に出会った神の一柱だ。


『美』を司る神。


 1000年前において、神はろくでもない連中ばかりであったが……このラゼバラとは不思議と馬が合い、よく魔法や世界について話し合ったものだ。

 懐かしい気分になる。


 だが。


「俺はここに思い出話をしにきたわけではない。ラゼバラよ、お前はどうしてこの地下迷宮を作った。お前のことだから、なにか考えがあってのことだろう」


 その答えを聞かなければならない。


 この世界にしては、難易度がかなり高いダンジョン。

 俺達以外では最奥どころか、三層に辿り着くことも困難だろう。

 あの見かけ倒しのへっぽこ勇者とやらは別だが……ほとんど事故のようなものだった。実力では到底追いつかない。


 美の神ラゼバラは、この1000年間。ずっと神としてこの世界に君臨し続けてきたはずだ。

 ならば1000年前の世界についても知っている。

 無論、この世界の()退()についてもな。


 色々話したいことはあった。

 しかし……この地下迷宮に入った時から、なにか嫌な予感はしていた。

 まずはその予感を確かめるためにも、まずはラゼバラにこのことを問い質さなければならない。


 そういった意味での問いであったが、


「ふふふ、私が簡単に教えるとでも思ったかしら?」


 ラゼバラが悪戯少女のような笑みを浮かべる。


「相変わらず、お前は一筋縄ではいかないな」

「私のこういうところ、嫌い?」

「いや……嫌いではないな」


 頭を掻く。


 こいつは1000年前から、こちらが質問してもなかなか答えてくれないことがあった。

 答えたくないわけではない。

 すぐに答えることがつまらないと思っているのだ。


「ねえ、クルト」

「なんだ」

「一つだけゲームをしない?」


 口の前で、ラゼバラが一本指を立てる。


「追いかけっこ。範囲はこの地下迷宮内。制限時間は()()。私を捕まえることが出来れば、あなたの聞きたいことを教えてあげる」


 うむ、そんなことを言い出すような気はしてたがな。


 どちらにせよ。


「乗ろう。昔から変わらず、子どもっぽいヤツだな」

「ふふふ。こんな話に乗るあなたも、昔と変わっていないわね。負けず嫌い」


 ラゼバラの唇が妖しく動く。

 彼女の一挙一動に、胸がざわつく。


 さすがは美の神。

 ラゼバラを一目見た者は、男女関係なく彼女の虜になってしまったという。


「ねえねえ、クルト。一体なにを話しているの?」

「私達にも教えてください」

「その子と話している時、クルトなんだか嬉しそう……悔しい……」


 三人が俺の肩を持って揺さぶってくる。


「じゃあスタートね」


 ラゼバラはそんな三人を意に介した様子もなく、転移魔法を使って姿を消してしまった。


「話は後だ。とにかく俺はあいつを追いかける」


 なんせ制限時間は一分だ。

 三人に一から説明していては、いくら俺でも時間が足りない。


「待ってよ、クルト……っ!」


 ララの言葉を聞かず、俺は彼女達に結界魔法を使った。

 これでもし不測の事態が起きても大丈夫だろう。


「なに、すぐに戻る。戻った後に()()話す」


 俺は探知魔法を使って、すぐにラゼバラの居場所を確認する。


 ん……? 

 なるほどな、そういうことか。

 悪戯好きのラゼバラらしい。


 俺は転移魔法を発動して、ララ達と一旦別れた。

 場所は……ここよりも三つ上の層。


 ラゼバラの姿はすぐに見つけることが出来た。


「ふん、このような追いかけっこ。制限時間は一分もいらなかったな」


 俺はそんな彼女の手を取って、そう語りかけた。


 ラゼバラは振り返って、小さく舌を出して、


「あら、もう捕まっちゃった」


 と可愛らしく返した。


 勝負事に負けたというのに……その動作は余裕を感じさせた。


「この程度で俺から逃げられると思うな」


 俺が嘆息しながら言うと、ラゼバラは嬉しそうに微笑んだ。

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