14・いきなり注目されてしまった
「クルトの制服姿! 似合ってるよ、カッコ良い!」
合格発表が終わって、すぐにロザンリラ魔法学園の制服が配られたので、早速袖を通してみた。
この世界にしては、なかなか良い材質で作られているらしい。
軽くて破れにくい素材で出来ている。
「そういうララも似合ってるぞ」
「ありがとっ! もっと見て見てー」
クルクルとララが回ると、スカートがひらひらと舞った。
お世辞とかじゃなくて、本当にかわいいと思う。
「制服姿ではしゃぐなんて、あなた達は子どもですか!」
「そういうマリーズちゃんも子どもじゃん」
「わ、私ははしゃぎませんから! この制服を着たということは、魔法学園の生徒として見られるということです。外に出ても恥ずかしくない行動を……」
「俺から見たら、マリーズもはしゃいでいるように見えるがな」
「なっ……!」
マリーズはキッと視線を鋭くさせた。
だが、実際制服を着たマリーズはいつもより声が上ずっているように聞こえる。
それに、
「マリーズも似合ってると思う。とってもキレイだ」
「あなたはまたそんなことを……」
ポッとマリーズが頬を朱に染めた。
……まあ制服については置いておくとしよう。
俺達はその後、《ファースト》クラスへと向かった。
「クルトと同じクラスで良かったー」
「あなたの魔法、在学中にたっぷり見させてもらうんですからね!」
どうやらララもマリーズも同じクラスらしい。
俺も知り合いがいなかったら寂しいし、この二人は魔法の筋が良い。
今後のことを考えても、同じクラスだったのは幸運と言えるだろう。
教室に着くと、《ファースト》クラスには俺達を含めて三十人の生徒がいた。
他のクラスも似たような人数なんだろうか。
「まずは諸君。入学おめでとう。私はこの《ファースト》クラスの担任、エリカと言う」
そして教室に座るなり、先生がみんなに対してそう告げた。
女性だけど、厳しそうな先生だ。
「私のことは親しみを込めて『エリちゃん』と呼んでくれ」
…………。
教室が静寂に包まれた。
どうやら、エリカ先生の言ったことはいわゆる滑ったらしい。
「コ、コホン」
誤魔化すようにして、エリカ先生は咳払いをしてから、
「君達にはこれから三年間、この学園で過ごしてもらう。三年間をどう使うか君達の自由だ。厳しい魔法の訓練に使うのも良いだろう。研究に勤しんでもいいだろう。だが、一つだけ言っておく。三年間をダラダラ過ごした者は、例え魔法学園を卒業したとしても、暗い未来が待っているだろう。それを肝に銘じて、君達にはこれから充実した三年間を過ごしてもらいたい」
エリカ先生の言葉に、教室の空気がピリッと引き締まった。
「エリちゃん、よろしくねー!」
「ふ、ふむ。よろしく」
だが、ララだけは手を振っていつもの調子で先生の名を呼んでいた。
エリカ先生もエリちゃんと呼ばれて、ちょっと嬉しそうだ。
ララ、マジこの教室の癒し。
「では自己紹介からはじめるか。まずは首席のクルトから」
俺に視線を向けられる。
まいったな……。
なんて喋ればいいんだろうか。
まあ別にエリカ先生みたいに、ウケを取ろうとしなくていいだろう。
無難に終わらそう。
そう思いながら、椅子を引いて立ち上がる。
「俺はクルト。クルト・レプラクタだ。学園では平和に楽しく暮らしていきたいと思っている。みんな、よろしく」
俺が自己紹介を終えると、まだらな拍手の後にコソコソと生徒達が話をしだした。
「首席合格のクルト。あっ、あの受験番号99だよね」
「マッド人形を五体、一気に壊したらしいぞ」
「それだけじゃない。実技試験では巨大な光の剣を出現させたり、騎士団長にも勝ったらしいぞ」
「でも欠陥魔力って聞いたぜ? そんなこと出来るわけない。俺は戦いを見てなかったが……嘘に決まっている!」
入学試験でちょっと目立ちすぎたためだろうか。
まだ入学初日なのに、俺は大層有名人らしかった。
「はい! 質問いいですか、クルト君!」
その中の一人の女の子が手を挙げて、立ち上がった。
「クルト君って試験点数が∞点だったんですよね? 満点は300点のはずなのに……どういうことですか?」
「そんなの俺の方こそ知りたいよ」
肩をすくめる。
答えられない俺に代わって、エリカ先生がこう答えた。
「そのままの意味だ。クルトは300点の範疇では収まらないからだ」
「300点の範疇に……収まらない……?」
「というより我々では彼に点数を付けられなかった、ということだ。そうだな……クルト。この問題を解いてみてくれるか?」
とエリカ先生は黒板にすらすらと魔法式を書き出した。
ふむふむ……どうやらイフリート・フレアという魔法みたいだな。
前世では上級魔法に位置していた。
こんなものがこの世界で拝めるとは……。
「ん? でもこれって……」
あまりにも間違いが多すぎる。
これじゃあ暴発してしまって、ろくに魔法が発動しないぞ。
「先生。間違っているんじゃないですか、その魔法式」
「ほう? 間違っているとな? では正しい魔法式を書いてみよ」
まさかいきなりひっかけ問題を仕掛けてくるとはな。
俺は先生からチョークを受け取り、正しい魔法式を書いていく。
イフリート・フレアは俺にとって比較的簡単な魔法ながらも、ちゃんと組もうと思えば黒板いっぱいを使うことになる。
それを一分で書き終えて、
「はい。これが正しいイフリート・フレアの魔法式です」
全く。
こんなの頭の中で組めば、1秒もあれば楽勝なんだがな。
やはり手書きで魔法式を書くのは、どうしてもまどろっこしく感じてしまう。
エリカ先生は俺の書いた魔法式をマジマジと見て、
「おお……! すごい! 確かにこちらの方が理路整然として美しい! これを実現するには、私では魔力が足りないと思うが……これは学会に発表すれば、一躍注目を浴びるだろう!」
となにやら興奮した様子だった。
「先生?」
「す、すまない。興奮してしまったようだ」
「それで……正解なんですか、どうですか?」
「ふむ」
先生は頷いてから、
「正解でもない」
え?
ということは誤答?
「そもそも正解などない。この魔法がイフリート・フレアという名前であることも今知った」
「どういうことですか先生?」
「これは遙か昔に失われたと言われる『遺失魔法』の一つだ。この学園にいる人どころか——世界中でもこれを扱える者は一人もいない」
マジで?
いくら上級魔法とはいえ、ちょっと魔法が使えるヤツだったらバンバン放っていたぞ?
広範囲に攻撃するのに向いている魔法なんだ。
相手が結界もなにも張っていなかったら、街一つくらいは優に吹っ飛ぶが、現実的にはそんなことは有り得ない。
1000年前の魔法革命以降では、街一つ崩壊させるレベルの魔法は当たり前だったからだ。
「だが、古い古い文献に残っている遺失魔法の記述……それを解読し、出来る限り復元してみた結果が最初に私が書いた魔法式だったのだが……クルトの書いた方が数段素晴らしい。レベルが違う」
ぶつぶつと呟く先生。
それに対して、見守る生徒達は、
「魔法式ってあんなに長くなるものなのか?」
「あれを戦闘中に組もうと思ったら、一時間はかかるんじゃないのか? それに詠唱文律はなんなんだ?」
とちょっとずれたことを言っていた。
「……みんな、分かっただろう? 試験では今回と同レベルの問題も出されていた。こういうのが重なって、我々は彼を『∞』として処理するしかなかった。もちろん文句なしの首席だ」
それを聞いて、質問や文句を口にする者は現れなかった。