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139・動く床

 落とし穴を落下し続け、辿り着いた場所で……。


「暑い!」


 いの一番にララが叫んだ。


「どうやら溶岩地帯……といったところか」


 少し歩くと、溶岩の海が広がっている場所に出た。

 そのせいでエリア全体が暑くて、汗が噴き出てくる。

 熱によって風景が歪んでいるように見えた。


「さすがにこれは……暑いですね。気分が悪くなってきます」

「シンシア……暑いの苦手……」


 マリーズとシンシアも暑さにまいっているのか、手をパタパタとさせたり、服で汗を拭いたりする。


「うーん、もう我慢出来ないよっ!」


 ララは自分の服に手をつけ、そのまま脱ごうと——、


「おい、ララ!? なにをしようとしている?」


 もう少しで下着が見えそうになった瞬間、俺は手を伸ばしララの動きを止めた。


「だって! 暑いんだもん! このままじゃ死んじゃうよお」


 ララの服に汗が付着して、うっすらと肌の色が浮き出ている。

 胸元に汗の粒が浮いており、それが彼女の艶やかさを増長させていた。


「だからって脱がなくてもいいだろう」

「でも……」


 ララの両目を見る。

 瞳には涙が浮き出ている。今にも泣きだしてしまいそうだ。


 すぐにここを抜ける気だったので、我慢しようかと思っていたが……これはいけないな。


「コントロール」


 俺は自分自身、そしてララ達三人に温度調節魔法を使った。


「あれ? なんだか涼しくなってきたよ」

「本当です」

「これなら……耐えられそう」


 すると三人の汗がすっと引いていき、先ほどまでの疲れた様子を見せなくなったのだ。


「これを応用すれば、たとえ溶岩の中でも耐えられるように、体を変容させることが出来る。三人もこのダンジョンから出たら特訓してみるといいだろう」

「溶岩に入っても耐えられるって……!?」


 ララが目を丸くした。


「そうだ」

「そんな状況になることなんてあるのかな……?」

「なにを言う」


 仮に溶岩に入る……なんていう直接的なことをしなくても、敵から同等の攻撃をくらう場合も出てくるだろう。

 そんな時、この魔法『コントロール』があれば凌ぐことが出来る。

 結界魔法で防ぐのも一つの手段であるが。


「教えるのはまた帰ってからしよう。取りあえず今はここを抜けるか」


 そう言って、俺達は再び歩きだそうとした。

 そんな時であった。



「お、おい! お前等!」



 俺達以外の男の声がこだました。


「誰?」


 呼びかけるララ。

 俺も声をした方を振り向く。


 そこには……。


「ぼ、僕も連れて行け! 全く……川で溺れたかと思ったら、こんなとんでもない場所に出てきて……今日は災難だ」


 一人の汗だくの男がいて、俺達の方へ歩み寄ってきたのだ。

 身に付けている装備品だけは豪奢ごうしゃな男である。


 しかしほとんどが無駄なものに思えるが?

 大した魔力も付与されていない。それではただお荷物になるだけだろうに。


 それにしても……こいつ、どこかで見たことがあるような……。


「「「あ」」」


 そう声を漏らしたのはララとマリーズ、そして突如現れた男の三人だ。

 三人はお互いを指差し、口を開けた。


「あ、あの時のナンパ男!」

「どうしてあなたがこんなところにいるんですか?」


 ララとマリーズが順番にそう口にする。


 そうか。

 どこかで見たことのある顔だと思っていれば……文化祭の買い出しに行った際、強引に女をナンパしていたヤツだったか。

 小物すぎて覚えていなかった。

 これは俺の悪い癖だな。相手が弱すぎると、すぐに記憶から消去してしまうのだ。あらためなければ。


「そ、それはこっちの台詞だ! どうしてお前等がこんなところにいる?」


 マリーズと同じ問いかけを男は発した。


「私達は突如発生したこの地下迷宮を探索しに来ました。まだ私達は魔法学園の生徒の身ですが、こうやってよくダンジョンに足を運ぶので……」


 マリーズが一歩前に出て男に説明をする。


「魔法学園の生徒……? たかが生徒風情が、あの夜僕にあんな酷いことをしたっていうのか?」


 不可解そうに男は口を動かす。


 そしてやっとのこさ俺に気付いたのか、


「あっ! 誰かと思えば、お、お前はあの時の!」


 と大きな声を上げた。


「うむ、なにか言いたげだな?」

「お、お前がいなかったら、僕はあの子をお持ち帰り出来ていたかもしれないんだ! それなのに……良いところで邪魔をしやがって……!」


 明らかな敵意を向けてくる男。


「お前、名前をなんと言うんだ!」

「俺か? 俺はクルトだ。そういうお前は?」

「ふふふ。よくぞ聞いてくれたね!」


 名前が分からないのも不便だ。

 そう思って軽い気持ちで問いかけてみただけだというのに。


 男は勇ましく腰に手を当て、こう言い放った。


「僕はアイヴァンだ!」


「「「…………」」」


 偉そうに名乗ったというのに、俺とララ、そしてシンシアは反応を返さず。


 しかしマリーズだけは合点したのか、手をパンと叩き、


「ああ。あなたが噂の『勇者様』ですか」


 と言った。


 それを聞いて、男……いや、アイヴァンは「ふふふ」と嬉しそうな顔。


「やっぱり僕は有名人だね。そういう君は可愛いね? もしよかったらこのダンジョンを出たら、僕とお茶しない?」

「結構です」

「即答!?」


 マリーズがぷいっと視線を逸らすと、アイヴァンは目を見開いた。


「さて、お前はどうでもいい。さっさと先に進ませてもらうか」

「僕がどうでもいいだと!? 僕は勇者だぞ。もっと崇めろ!」


 もっと言うと、どうしてこんな大したことないヤツが勇者と呼ばれているのか……少し気になったが、それも少しだけだ。どうでもいい。


 俺はぎゃあぎゃあ騒いでいるアイヴァンを放って、あらためて溶岩の海を眺めた。


「うむ……どうやらあの動く床を伝って、あちら側に辿り着くのが正規ルートのようだな」


 溶岩の上には動く床が設置しており、タイミングを合わして飛び移っていけば、移動は出来そうだ。

 そして向こう側には小さな扉が見える。

 あの扉が下層に続いているのだろう。


「落ちてしまえば一瞬で死んじゃいそうだね……」

「動く床をタイミングよく飛び移っていかないと」

「難しそう……」


 ララ達三人はそれを聞いて、若干尻込みしていた。


 だが。


「なに、問題はない。要は床が動かなければ難易度が下がるだろう?」

「「「?」」」


 三人が首をひねる。


「動くな」


 俺が口にしたのはその一言。

 言葉に魔力を乗せて、その動く床に放った。


 すると……。


「わっ! 動く床が静止した?」


 あれだけせわしなく動いていた床ではあったが、俺の魔力に恐れをなしたためか、その動きを止めてしまったのであった。


「これで行きやすくなっただろう」


 とはいえ、まだ床と床の間には距離がある。

 しかしここまでしてやれば、俺と三人なら身体強化魔法を使える。

 飛び移っていけば向こう側に行くのは容易い。


「よし、みんな。身体強化魔法を忘れるんじゃないぞ。まだそれだけの魔力は残っているな?」


 一応質問を投げかけると、


「う、うん!」

「ここまでほとんどクルト頼みでしたからね」

「シンシア……頑張る」


 と元気よく言葉が返ってきた。


 まあ動く床がどうとかいう問題より、浮遊魔法や転移魔法を使えば、一瞬で向こう側に辿り着くことも出来たが……。

 あえて俺は三人の特訓のためにこのような手段を取った。


 俺達は身体強化魔法を使い、早速向こう側を目指そうと思ったが……。


「ま、待ってくれ! 僕はどうなる!?」


 後ろからアイヴァンの焦ったような声。


「ここで待っているといい。最奥さいおうの三百層まで潜ってから、帰ってくるからな。勇者だからそれくらい楽勝だろう?」

「はあ? こんな暑いところで? それに三百層ってどういう……」

「文句があるなら付いてこい」


 俺はアイヴァンからの返事を全て待たず、一つ目の床に飛び移った。


「よっ!」

「はっ!」

「ん……!」


 ララとマリーズ、シンシアの三人もすぐにその後に続く。


「ゆ、床と床の間には距離があるというにそんな簡単に……! それにちょっとでも足を踏み外せば死んでしまうのに……お前等は一体何者なんだ!?」


 アイヴァンの叫び声が聞こえてきたが、付いてくる気配はなかった。


 俺が学園で広めたことによって、身体強化魔法くらいなら生徒の大半が使えるようになっている。

 しかし、他の地域から来た()()アイヴァンでは、そんな簡単なことも出来ない。

 ここまで計算づくだ。

 まあ死ぬことはないだろう。


 その後、俺達は無事に揃って向こう側に辿り着くことに成功したのだった

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