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136・三百層の地下迷宮

 ファントムウルフを倒した後。


「なにかがおかしいってどういうこと?」


 ララが目を丸くして質問してきた。


「ファントムウルフが一層にいるのはおかしい……ということだ」


 それに対して、俺は短く答える。

 しかしララはあまり理解していないのか、可愛らしく首をかしげるのみであった。


「マリーズならどういう意味か分かるか?」


 試しにマリーズに話を振ってみる。


「え、えーっと……」


 彼女は記憶を引っ張り出すかのように、自分の髪を撫でながらこう続けた。


「ファントムウルフ……というのは、確か人間や魔物の『魂』を喰らって生きている魔物。それが一層にいるということは……」

「そうだ。その基本情報さえ分かっているなら、マリーズなら答えを導き出せるはずだ」

「ん……地下迷宮の奥に行けば行くほど、ダンジョンとしての難易度も上がっていく。それはすなわち、死んで食べやすくなった『魂』が多いということ……それなのに、こんなところまで出てくるのは……」


 ぶつぶつと呟くマリーズであったが、やがて目を輝かせ、


「……一層は死者も少ない……! つまり死んだ『魂』が少ないはずの一層に、ファントムウルフが出てくるのはおかしいということですね」


 興奮したように言った。


「そうだ。マリーズはやはりさといな」


 そう言って、俺はマリーズの頭を撫でてあげた。


 すると彼女は、


「う〜ん……あなたに撫でられると、なんだか胸のところがぽかぽかと温かくなってきますね」


 と顔を赤くして俯いた。


 彼女の言う通り、『魂』を喰らうはずのファントムウルフが一層に出てくるのは不可思議なことだ。

 ファントムウルフの習性としてダンジョンにいる場合は、奥へ奥へと行こうとする……というのは、ちょっと分厚い魔物図鑑なら載っているほど有名なことであった。


 それなのに一層にいるということは。


「奥……つまり地下迷宮の下層でなにかが起こっているということか」


 俺はそう結論づける。


「クルト、なにかが起こっているって?」

「……嫌な予感がしますね」

「変な魔力を感じる……ような気がする」


 ララ、マリーズ。そしてシンシアがそう順番に口にした。


「それはまださすがに俺でも分からないな。おそらく地下迷宮の最奥さいおうでなにかが起こっているんだろう」


 俺は下層へと続く階段に視線をやる。

 この階段を下っていき……そしていくつかのエリアを踏破することによって、この地下迷宮の最奥に辿り着くことが出来る。


「ク、クルトでも分からないの!?」

「時間がかかりそうですね」

「どれくらいまで下があるのか……分からない……」


 俺がそう言ったからなのか、ララ達三人は尻込みをしていた。

 確かにどれだけ下っていけばその『最奥』に辿り着くことが出来るのか、分からなければ不安にもなるだろう。

 ただでさえここはダンジョン。どんな脅威が待ち受けているか分からないのだ。


 とはいえ恐れ入るだけではない。

 地下迷宮の入り口のところでろくな準備もしていないのに、お宝に釣られて目を輝かせている冒険者達とは違う。

 三人はちゃんと冷静に物事を分析しているのだ。

 そういった意味では……やはり、三人は魔法学園の生徒としてだけではなく、冒険者としてでも既に頭一つ飛び抜けているだろう。


 だが。


「心配するな。最奥でなにが起こっているか分からない……とはいったが、場所までなら把握している。()()にな」

「「「え?」」」


 三人が声を揃える。

 きょとんとしている三人を横目に、俺は探知魔法をさらに広範囲なものへと変化させた。


「そのなにかが起こっている場所……とはこの地下迷宮の三百層。どうやらそこが、地下迷宮の最奥にあたるらしい」

「「「さ、三百層!?」」」


 またもや三人は同時に驚きの声を上げた。


 それを聞いて、周りの冒険者達も騒ぎ出す。



「さ、三百層だと!?」

「そんなに深いダンジョンなのかよ!」

「三百層の地下迷宮なんて聞いたことがないぞ……」

「オレ、《宝物迷宮》でも五層までしか降りたことがないのに」

「せいぜい、十層くらいまでのものだと思っていた」

「ってかどうしてそんなことが分かるんだ?」

「おいおい、史上最強の魔法使いの『クルト』っていう名前知らないのかよ。魔法学園の制服を着てるし、きっとこいつがそうだぜ」

「だったら分かるのも頷ける」



 おいおい、十層って。それじゃあただの地下迷宮ではなく、子どもの秘密基地だ。


「……クルト。それが分かるなんて出鱈目……クルトの探知魔法はどれだけの範囲があるの……?」


 シンシアはあんぐりと小さく口を開いていた。


「かなり大規模な地下迷宮ですね……おそらく世界最高でしょう」

「まあ中規模クラスの地下迷宮といったところか。大したことはない。中の下クラスだろう」

「え」

「ん?」


 マリーズの呟き声と、俺の声がちょうど重なり合ってしまった。

 彼女と目を合わせた。


「こほん……まあそこまで向かうとするか。三人は付いてくるか?」


 誤魔化すように咳払いをしてから、三人に問いかける。

 三百層と聞いて、三人はかなり恐れているようだ。

 それがダメなことだとは思っていない。現状を分析する力も大切だからだ。


 しかし、真っ先にララが拳をぎゅっと握り、


「うん! クルトが行くなら、もちろん付いていくよ。だってわたし達、学園でも『パーティー』を組んでるんだからね。クルト一人に任せてられないよっ」


 力強い言葉を放つのであった。

 マリーズとシンシアも負けじと、


「はい……! それにクルトがいるなら安心だと思いますしね」

「シンシアも……クルトの傍にいる……」


 と続いてくれた。


 三人の瞳を見る。

 確固たる意志の光が宿っている。これなら大丈夫だろう。


「よし、分かった。俺としても三人に来てくれる方が安心だからな。三人でこの地下迷宮を踏破しよう」


 俺がそう言葉にすると、三人はパッと表情を明るくさせた。


「でもどうやって行こうか? まさかクルト……一層ずつ順番にクリアしていくとか思ってないよね?」

「当たり前だ」


 ララの質問に対して、俺は腕を組んで答える。

 そんなちまちまとした真似はしてられない。

 この地下迷宮も《宝物迷宮》と同じく、《秘匿された道筋(シークレット)》と呼ばれる裏道が存在しているはずだ。

 本来は一層ずつしか下っていけない地下迷宮ではあるが、《秘匿された道筋(シークレット)》さえ使えば、一瞬で階層をまたいで転移……というような真似が出来る。

 今回もそれを捜しだし、効率的に三百層を目指そう。


「よし行くぞ……一応言っておくが、警戒は怠るなよ? なにが待ち受けているかまでは、俺とて完全に把握出来るものではないからな」


 俺は三人にそう言ってから、まずは二層へ足を踏み入れていった。


『三百層』という話を聞いて、他の冒険者は完全に戦意を失ってしまったのだろう。

 ララ達三人以外で、誰も付いてくる気配はなかった。

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