133・打ち上げ
文化祭が閉幕。
その後、俺達のクラス《ファースト》のみんなは教室に集まり、今回の打ち上げを行うことになった。
「MVPを取れたのはみなさんのおかげで……こんなクラスメイトに巡り会えることが出来て、私は幸せです」
コップを片手に、マリーズが緊張した面もちで喋る。
「マリーズちゃーん! 表情が固いよー! もっとニッコリ笑って−!」
そんなマリーズをララがはやし立てる。
ララは頭にちょこんとパーティー用の三角帽子を乗せていた。それがなかなかララに似合っていて可愛らしい。
「こ、こうでしょうか?」
ぎこちない笑顔を作るマリーズ。
「違うよーっ……もうっ。クルト!」
「どうした?」
「マリーズちゃんのこと褒めてあげて! みんなもそうだけど……マリーズちゃんは文化祭のために人一倍頑張ってくれたんだからね」
「うむ」
マリーズの顔を見つめる。
彼女がクラスのまとめ役として頑張っていたことは、俺も知っていることだ。いくらでも賞賛してあげよう。
「マリーズ、よく頑張ったと思う。俺はあまり役に立たなかったかもしれないが、文化祭が上手くいったのもマリーズのおかげと言っても過言ではないだろう。無論、成功したのはクラスみんなの力もあってのことだが」
「な、なにを言ってるんですか。クルトがいなかったら、文化祭自体がオーレリアンによって壊されていましたよ。それに私……」
内股になってもじもじと両足を動かすマリーズ。
頬は薄い桃色になっているが、口元には自然な笑みが浮かんでいた。
「……今だ!」
それを見て、ララが目を輝かせる。
そして光のような速さでコップを挙げて、
「かんぱーい!」
と声を発したのであった。
それが合図となり、みんなも同じようにコップを持ち手を挙げる。
打ち上げの開幕だ。
「あっ……もう。ララは良いところを持っていくんですからっ」
マリーズが不満げに唇を尖らせたものの、コップに口を付けてちびちびとオレンジジュースを飲み出した。
お菓子やジュースを飲み食いしながら、クラスメイトのみんなが文化祭のことを振り返っていった。
「それにしてもまさかMVPを取れるとはな!」
「そうだね。文化祭も無事に終わってよかった」
「本当だな。後で聞いたんだが……どうやら愚王の怨念だか魔念だかが、王都で暴れ回っていたらしいぞ」
「なあに、クルトがいれば万事解決だ」
「クルトが王都にいる限り平和が保たれる」
うむ。
頼りにされるのは悪い気分ではないが、あまり俺に依存しすぎるのもな。
俺とて、王都にいながら全世界の者達を幸せに出来るとは限らない。俺の見えないところで、脅威が現れていることもあるだろう。
しかし今日くらいはこの平和を享受していいように思えた。
オレンジジュースを飲みながら、引き続きみんなの様子を眺める。
「そういえば王都に勇者様が来ているみたいだぞ?」
「え……? そうなのか」
「ああ、最近色々と物騒なこと続きで注目されていないみたいだが……」
「史上最強とも呼ばれる勇者様とクルトが王都にいるってことか。これはますます王都は安泰だなあ」
史上最強の勇者?
なるほど、そんな者がいるというのか。
機会があれば戦ってみたいものだ。
「クルトー」
勇者についてもう少し詳しく話を聞こうと思ったら。
横からララが抱きついてきた。
「ララ、また酔っているのか?」
「んん」
ララが横に首を振る。
「今日はお酒ないからねー。けどクルトを見てたら、なんだか抱きつきたくなっちゃって」
「そ、そうか」
小さく舌を出すララ。
俺は戸惑うばかりである。
やれやれ。この世界に転生してからかなりの年月が経ったが……やはり女の子にはなかなか慣れないものだ。
「ラ、ララ!? クルトから離れてくださいっ。破廉恥ですよっ!」
マリーズがララと俺を引き剥がそうとする。
「またまた〜、マリーズちゃんも羨ましいんじゃないの?」
「そ、そんなことありません! 私はただ……! 公衆の場でそんなことをするのは、いかがなものかと思っているだけです!」
「マリーズちゃんも来なよ」
「へっ!?」
マリーズの口から彼女らしからぬ変な声が上がる。
ララがマリーズの首に腕を回し、そのまま俺に密着させたのだ。
「や、止めなさいってば!」
「マリーズちゃんも相変わらず照れ屋さんだね。いい加減素直になればいいじゃん」
「わ、私は!」
ぎゅうぎゅう。
ララとマリーズが引っ付いてくる。
そのせいで、三人の体の柔らかい部分が当たってしまっていた。
落ち着かない。
「くーっ! 《ファースト》でもとびっきりの美女を独り占めするなんてっ!」
「でもクルト君だったら仕方ないよね」
「ああ、クルトだしな」
「英雄色を好む……ということか」
変なことが聞こえたな。
特段女性が好き……というわけではないつもりだ。前世では男だろうが女だろうが、俺にこんなことをしてくるヤツなんて皆無だったからな。
どちらにせよ、良い時代になったものだ。
そして——打ち上げの時間が楽しく過ぎていった。
「あれ?」
クラスの一人が声を上げる。
「もうお菓子もジュースもなくなってきたじゃん」
「本当だっ! あんなにあったのになくなるなんて……」
教室の中央に机を集めて、その上にジュースやお菓子やらを広げている。
最初は山のように積まれていたんだがな。なかなかどうして、楽しい時間というものは周りを見えにくくするものかもしれない。
「よかったら俺が買いに行くぞ」
そう言って、俺は椅子から立ち上がる。
「そ、そんな! クルト君に買いに行かせるなんて……」
「なに、夜風にも当たりたかったところだ。それに市場までは近い。すぐに戻ってくる」
そのまま教室から出ようとした時、
「クルト−っ! 私も行くよ」
「わたしもです! ララとクルトを二人っきりにさせませんから!」
後ろからララとマリーズも付いてきた。
断る理由なんてない。
前世は一人でいる方が好きだったんだがな。俺も1000年後のこの世界に来て変わったものだ。
「じゃあ行くか」
「うんっ!」
「はいっ!」
二人の返事を聞いて、俺達は今度こそ市場に向かうのであった。
転移魔法を使うつもりだったが、二人が来てくれるなら歩いて行くとするか。
二人もいるし、夜の王都も賑やかそうだしな。
書籍版ですが、早いところだと明日から店頭に並ぶかもです。
よろしくお願いいたします!