132・MVP
全てが終わった。
オーレリアンの魔力は完全に消滅してしまっている。
愚かな王の魂はシェルエーベスによって塵も残さず灼かれ、二度と甦ることもないだろう。
「口ほどにもなかったな」
俺はそう呟いて、シェルエーベスをしまった。
うむ……オーレリアンを倒すために使用したこの剣は、ライリーの思いが強く反映されている。
人の強い思い……それは時に魔力となる。
そのせいなのか、シェルエーベスが魔剣にまで昇華しているのだ。
あの気高き女の力が必要となれば、また使わせてもらおう。
戦いが終わってから、俺はそんなことを思っていると。
パチパチ。
どこからともなく拍手の音が。
それは最初、観客席の方からであった。
まだらだった拍手は徐々に広がりを見せ、舞台上のクラスメイトも巻き込んでいく。
パチパチ。
「うわあ、すごい拍手っ!」
ララがきょろきょろと顔を動かす。
「完璧なタイミングでクルトが現れましたからね、当然です」
どこか誇らしげな表情のマリーズ。
「……きっとオーレリアンを倒したのも……演劇だと思ってる……かも。じゃないと、こんなに盛り上がらない」
冷静に努めようとするシンシアであったが、彼女には珍しく気分が高揚しているようにも見えた。
「うむ、つまり今の俺の戦闘も余興だと思ったわけか。それなら良いんだが」
繰り返すが、こんな魔念の騒動がありながらも、俺は文化祭を止めるつもりは毛頭なかった。
今日はせっかくの楽しい日なのだ。
中止にしてしまえば魔念がさらに強化される……という事情もあったが、同時に人々の楽しみを奪ってしまうことに俺は抵抗を覚えた。
その結果、文化祭を中止にさせることなく、王都の人々は心から祭りを楽しんだ。
それはとても良いことだったと思う。
「さて」
俺は後ろを振り返り、クラスメイトに告げる。
「ショーは終わりだ。閉幕の挨拶といこうではないか」
「「「「はいっ!」」」」
クラスメイト全員から元気な返事。
俺達は舞台上で一列に並んで、観客席に向かって頭を下げる。
拍手は鳴り止む気配もなく、雨となって俺達に降り注いだ。
◆ ◆
「文化祭のMVPを発表します」
演劇も終わった後。
しばらくすると文化祭も終わりを告げ、俺達魔法学園の生徒は広い校庭に集められた。
壇上では文化祭実行委員の女の子が立っている。
「MVP……どこのクラスが貰うんだろう?」
声を弾ませるララ。
「私達だったらいいんですけどね」
「きっとそう……シンシアのクラスも頑張ったけど、《ファースト》の人達には負ける……」
マリーズとシンシアもMVPの発表をまだかまだかと待ちわびている。
俺はMVPの発表を待ちながらこれまでのこと、そして未来のことを考えていた。
オーレリアンの使っていた魔法。あれは1000年前にはなかったものだ。
あいつは《公正空間》と呼んでいた。フォンバスクが開発した魔法を改良したものだとも。
俺からしたら、まだまだ未完成にもほどがある。
しかし使いようによっては、可能性を秘めている魔法のようにも感じた。
なにかが裏で動いている。
いくら1000年前の魔神フォンバスクが生み出したものとはいえ、この衰退した世界であんなものが使われるとは。
帝国も滅び、全ての元凶であるフォンバスクを倒したので一安心していたが……なかなかどうして、このまま放置していればこれ以上のよからぬことが起こりそうだ。
今回の件で、俺はそのことを強く意識するのであった。
「MVPは……一年の《ファースト》のみなさんですっ!」
思考を展開させていると、いつの間にやらMVPが発表されていた。
しばしの沈黙。
だが、時間差でクラスメイトの歓喜が爆発した。
「や、やった! 僕達がMVPだ!」
「みんな頑張ったもんね! クレープ屋さんも演劇も上手くいったし当然だよっ!」
「これもみんなマリーズのおかげだ」
「ララちゃんも忘れたらダメだよ? 美味しいクレープも作ってくれたし……」
「その二人も大事だが、それよりも……」
喜ぶクラスメイトの視線が一斉に俺の方を集まる。
「クルト、やったね!」
「あなたのおかげです!」
「さすが……」
続いてララとマリーズ、そしてシンシアも俺に抱きついてきた。
三人が密着しているせいで、そのなんだ……柔らかいところが俺に当たってしまっている。
「別に俺だけの手柄ではない」
「「「え?」」」
「このMVPはみんなで勝ち取ったものだ。誰一人欠けていたら、このような名誉は授かれなかっただろう」
本心から零れた言葉であった。
——俺はこの1000年後の世界で、素晴らしい友達に出会えた。
まだまだこの世界は楽しめそうだ。
「それに……だ」
最後に。
俺はララ達三人の頭を撫でながら、こう続けるのであった。
「俺達の祭りはまだ終わっていない。まだ文化祭の打ち上げが残っているんだからな」
4章の文化祭編はこれで終わりです。
引き続き5章も頑張っていきます!