131・俺達の舞台
書籍版が6月28日ごろに発売です!
表紙画像を活動報告やこのページの下の方で公開させていただいてますので、よければご覧くださいませ!
俺がオーレリアンに近付くと、ヤツはふらふらとしながらも立ち上がった。
「貴様……今ここがオレの舞台だということは分かっているのか?」
「くはは、お前の舞台だと? 笑わせるな。ここは俺達の舞台だ。お前のような不躾者が上がっていい場所ではない」
「それはこちらの台詞だ」
オーレリアンが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
うむ、この空間一帯に魔法が使われているな。
結界魔法のようなものだ。範囲は王都全体といったところか。
「オレはこれを《公正空間》と呼んでいる」
オーレリアンが謳うように続ける。
「これは魔神が作り出した魔法を改良したものだ。この魔法が発動すれば、結果内にいる者は全て平等になってしまう。貴様の生き死にも、オレの手の平の上ということだ」
「魔神が作り出したものだと? あんなザコの魔法を流用したくらいで、なにを良い気になっているんだ」
溜息も吐きたくなる。
「命乞いをしても遅いぞ」
オーレリアンが怒りで顔を歪ませ手をかざすと、周囲の空気が一変した。
それに伴い、俺の中にある魔力が改造されていく。
「これで貴様も平等になった」
ニヤリとオーレリアンが口角を釣り上げる。
なるほどな、そういうことか。
魔法式を分析し、俺は理解した。
「王都全体にいる魔法使い……その者達の強さを同じにしたわけか」
「そういうことだ。王都全体にいる者達の力を平均化して、貴様に与えた。強い者と弱い者がいるから、この世界は不幸になってしまう。せいぜい王都の平均の力しか持たなくなった貴様では、オレを倒すことは不可能だ」
「その程度で俺に勝った気になるとはな」
自分の中の魔力を分析した限り。
確かに、オーレリアンの言っていることは本当のようである。
オーレリアンが魔法式を展開する。
「今度こそ滅びよ!」
唱え、俺を中心にイフリート・フレアを発動したのであった。
「「「クルト!」」」
近くで見守っているであろうララとマリーズ、そしてシンシアの声が聞こえた。
しかし三人はなにを不安がっているんだ。
このような魔法など……。
「やはり子どもの玩具にしかならないな」
俺は結界魔法でイフリート・フレアを完璧に防ぎ、再度オーレリアンを見据えた。
「な、なんだと……?」
オーレリアンが唖然とし、口を開く。
「どういうことだ? 王都の平均になった貴様では、オレの魔法は防げないはず」
「お前は、中央値という言葉を知っているか?」
平均値というものは突出した存在がいる場合、どうしても偏った数値が出てしまう。
それに比べ中央値ならば、一部の突出した存在はそこまで影響を与えず、真ん中の数値を表すことが出来るのだ。
つまり俺が言いたいことは。
「平均値ではなく、中央値で出すべきだったな。王都の平均は俺一人で釣り上げている。ゆえにこれくらいなら、まだお前に勝てるくらいの力は残っている」
「あ、有り得ない! 王都の人口はどれだけいると思っているんだ!? その影響が微々たるものにしかならないくらい、貴様の力は突出しているということなのか?」
「簡単に言うとそういうことだ」
1000年前ならまだしも、この衰退した世界において……それにオーレリアンを倒すくらいなら、これくらいの魔力で十分だ。
オーレリアンに、俺は一歩ずつにじり寄っていく。
「し、しかし! オレの奥の手はこれだけではない」
《公正空間》の雰囲気がまた一変した。
周囲の風景が、水の中に絵の具を混ぜたようにぐちゃぐちゃに変わっていくように見えた。
「貴様の魔力は確かに膨大だ。だが、その魔力。オレが貰い受けてやろう」
オーレリアンが手の平を俺に向ける。
すると俺の魔力がヤツに吸収されていったのだ。
「《公正空間》の中だったらこのような真似も容易い」
こうしている間にも、徐々に俺の魔力がオーレリアンに移動していく。
「どうだ? いくら貴様でも《公正空間》の中では、為す術なしといったところか。貴様の魔力を貰い受けて、オレはさらなる力を得る。この王都……いや、世界を掌握出来るくらいにな」
「うむ」
しかし、あれだな。
《公正空間》の魔法自体は、なかなかよく出来ている。改良点も多いが、ここまで自由に相手の魔力を操作出来るようになるとは。
それに敬意を表して、ヤツの思惑に乗ってやろう。
「こんな少しずつなら、力を全て吸い取るのに時間がかかるだろう。もっと一気に持っていけ」
と吸い取られていく魔力をわざと多くして、オーレリアンに送り込んでやったのだ。
すると。
「ぐああああああああ!」
オーレリアンが悲鳴を上げ、地面にのたうち回る。
体には耐え難い痛みが襲い、精神も崩壊しそうになっているに違いない。
それでもオーレリアンが俺を見上げ。
「な、なんだこの膨大な魔力は……! これが貴様の魔力の正体ということか?」
「なんだ、たった十分の一しか送り込んでいないのに、もう根を上げたのか。それで俺の魔力を全て持っていこうとしていたとは」
呆れてものが言えなくなる。
俺の魔力を吸い取り、自分のものにしようとした……というところまではいいとしよう。
問題は俺の魔力を全て受け入れてしまえば、オーレリアンという容器が潰れてしまうということだ。
魔力は多ければ多いほど良いというものではない。それを上手く操作してやらなければ、暴走を起こすこともあるのだ。
ヤツは自分を過信していた。
だからこそ、俺の魔力を受け入れても大丈夫という甘ったれたことを考えていたのだろう。
「頭が高いぞ」
「ぐっ!」
未だ立ち上がることの出来ないオーレリアンの頭を、俺は右足で踏んづけてやった。
楽しい《文化発展日》の日に、これだけ王都をかき乱してくれたのだ。
そろそろ決着といこう。
「魔剣……いや、今回にふさわしい剣は別にあるか」
手の内に新たな剣を召喚する。
「そ、その剣は……!」
オーレリアンが息を呑み込む音が聞こえた。
——シェルエーベス。
500年の時を超え、俺の手の内に顕現された一本の剣。
『もし、オレが無理だった場合……クルトにこの剣を託す。この剣であの愚王を討って欲しい』
ライリーよ、確かにお前の気持ちは受け取った。
「オ、オレはまたやられるというのか? またライリーの剣に討たれるというのか?」
俺が振り上げる光り輝くシェルエーベスに、力をなくしたオーレリアンは抗う術がない。
オーレリアンの体が光の粒子となり、徐々に消えかかっていく。
「ご、500年待ったというのにか!? お前さえいなければ、オレはこの魔法で世界を掌握していたというのに? そんなバカなことが……」
「なにを言っている」
一閃。
シェルエーベスによって切り裂かれたオーレリアンは、完全にその体を消滅させてしまった。
500年前のライリーにも届くように。
最後に俺はこう言い放った。
「俺に挑むなど、1000年早かったな」