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130・五分前の俺

 オーレリアンの体が光で包まれる。


「消える……オレが消えるというのか?」


 光は周囲に拡散していき、やがて粒子となっていく。

 オーレリアンの体が徐々に薄く透けていった。


「ライリーに勝てない……革命は防げない、とお前が思っている証拠だな」


 やはりオーレリアンを倒すためには、俺だけがどう足掻いても無理だったのだ。

 オーレリアンにとって実の弟……いや、妹であるライリーに討たれることは代え難い屈辱であろう。

 なんせ500年前に一度やられているのだからな。

 革命を防ぐため、オーレリアンは着々と準備を進めていた。

 そして満を持してライリーに挑み……それでも届かぬと分かったら、諦めもつくものだ。


 しかし。


「オ、オレはこんなところでやられねえ。やられてはいけない存在なんだああああああ!」


 喉が張り裂けんばかりに叫ぶオーレリアン。


「諦めが悪いな」

「がっ!」


 そんなオーレリアンの頭をつかんで、そのまま壁へと押さえつけてやる。


「いい加減諦めろ。お前は()()には勝てない。小物は小物らしく、素直に革命を受け入れろ」

「オレが小物だと……?」

「そうではないのか? みんなを幸せにしたいという大義名分を掲げてはいるが、実際にやっていることは愚政ぐせいにも程があるではないか。これだったら俺の方がちょっとはマシな政治が出来るというものだ」

「黙れえええええええ!」


 オーレリアンが俺の手から逃れようとするが、ヤツのか弱い力ではそれもかなわない。

 だが、これだけの劣勢になっておきながらも、オーレリアンの瞳には僅かな光が宿っていた。


「みんなみんな一緒になればいい」


 うわごとのようにオーレリアンが呟く。


「オレの野望はここでは成就しない。しかし……500年後の世界なら? 魔法が衰退した500年後の世界なら、それも可能のはずだ」

「一体なにをしようとしている?」


 弱々しくなっていた光ではあったが、やがてだんだんと強さを取り戻していく。


「ぐああああああ!」


 そのまま光が強くなっていき、オーレリアンは最後の叫びを上げながら……そして姿を消滅させた。



「ク、クルト。倒したの!?」

「これで終わり……」



 ララとシンシアが駆け寄ってくる。

 俺の手の内にはもうなにも残されていない。あるのはただの虚無である。


「いや……まだ完全には消滅していないな。この世界を放棄して、現代でなにかをするつもりだ」


 俺の推測が当たっていれば、このままだと厄介なことになる。

 急いでララとシンシアの手を握る。


「現代に戻るぞ。そこで最終決戦といこうではないか」

「ちょ、ちょっとクルト? 一体どういうこと?」

「説明は後だ」


 まだ状況を理解出来ていない様子の二人だが……仕方がない。

 ここまでオーレリアンの諦めが悪いとはな。往生際の悪いヤツだ。


 俺はララとシンシアと共に、魔念の外に転移するのであった。


 ◆ ◆


 魔念の外に出ると、そこは丁度クラス《ファースト》の演劇が執り行われている……まさしくその場面であった。

 舞台の上でクラスメイトが各々の役柄を演じている。

 客席の方を見ると満席で、みんなの視線が舞台に釘付けになっていた。


 どうやら演劇も佳境のよう。

 革命軍が王都に集合し、オーレリアンがいる城へ乗り込もうとしているのだ。

 それに従い、観客のボルテージも上がっていく。


 そんな最中。



「みんな一つになればいい」



 突如、禍々しい声が響いた。

 舞台上にいるクラスメイト、そして観客が一斉にきょろきょろと辺りを見渡す。



「一体この声は……?」

「な、なんだ? どんどん力が抜けていく?」

「魔力が吸い取られていくような感覚だ……」

「なにが起こっている!?」



 みんなの体から魔力が抜けていく。

 それらは空に向かっていき、一カ所に集合していった。

 これがオーレリアン最後の手段といったところか。


 やがて魔力の集合体は人物を形取っていく。

 その人物の名とは。



()()()()!?」



 舞台上に立つマリーズが、その姿を見て驚きの声を上げた。

 まさしく……クルト。つまり俺とうり二つの存在が現れ、ゆっくりと舞台上に降り立ったのだ。


「クルト、なにが起こっているのですか? 一体この魔力が吸い取られていくような感覚は……」


 彼女が()に駆け寄る。


 しかし、


「ははは! こいつの体はすごいな! 今からこの力を使って、暴れ回ってやる!」


 と()は気持ちよさそうに高笑いをし、マリーズに手をかざした。


 手元に魔力が集まっていく。

 それを見ても、マリーズはすぐさま行動をうつせなかった。


「まずは手始めにお前だ、消えろ」


 魔法が()から発射され、それによってマリーズが木っ端微塵に——


「だが、俺がそれを許すわけもない」


 その時。

 転移魔法が完了し魔念の外へと脱した俺達は、()とマリーズの間に割って入る。

 すぐさま俺は結界魔法を展開し、マリーズを守ったのであった。


「クルトが二人!? それにララとシンシアも? 魔念はどうなったのですか?」


 混乱したように、いきなり現れた二人の俺を交互に見るマリーズ。


「俺が二人? こんなまがい物を俺にしないでくれ」


 肩をすくめる。

 目の前に立った()……は確かに姿もうり二つで、魔力の形も全く同じだ。


「はっ、やはり戻ってきやがったか」

「黙れ。俺の姿を借りておいて、ただで済むとは思うなよ……オーレリアンよ」


 と俺は目の前に立った()……いや、オーレリアンに対して威圧するようにして告げる。

 端的に言うとこいつは魔法を発動し、俺の姿形……そして力を完全にコピーしてしまったのだ。


 有象無象のヤツならともかく、まさか俺をコピーするとはな。一朝一夕で出来るものではない。おそらく、長年……それこそ、500年準備し続けてきた魔法なのだろう。


 膨大で複雑な魔法式。

 どこかで見たことがある。

 1000年前ではない。

 つい最近のことだったように思えるが。


「お前は強い」


 思考を続けていると、それを遮るようにオーレリアンが声を発する。


「だが、今の俺はお前と全く同じ。果たして俺を殺しきれるかな?」


 オーレリアンの手からファイアースピアが放たれる。

 うむ、この一発で街一つは簡単に滅ぼすことが出来るだろう。それだけの威力を有している。

 魔念の中で俺の魔力を分析したおかげなのか、確かに完璧なコピーを作り上げていた。


 だが、こいつは肝心なことを忘れている。



「それはせいぜい()()()の俺だろう。五分もあれば、俺は無限に成長を続けるぞ?」



 意趣返しだ。

 俺もファイアースピアを発射し、オーレリアンが放ったものを相殺……いや、それ以上の力で返した。


「ぐあああああああ!」


 そのままオーレリアンの胸にファイアースピアが突き刺さり、後ろに吹っ飛んでいった。


「まがい物とはいえ俺と全く同じ姿のものを攻撃するのは……なかなかどうして良い気分にはならないな」


 溜息を吐く。

 息絶え絶えのオーレリアンは、ゆっくりと膝を立て。


「バ、バカな? どうしてお前の力がオレを凌駕する!? オレとお前は全く同じ力だというのに……」

「五分前の()と、今の俺とでは勝負にならない。この五分で、それほどの力の差が出来てしまったのだ」


 オーレリアンへ一歩ずつ歩み寄りながら、俺はこう続けた。


「さて、俺の真似をしてくれたんだ。覚悟は出来ているんだろうな?」

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