13・合格発表を見にきた
「今年の受験生達はどう思う?」
ロザンリラ魔法学園の会議室。
そこでは職員達が集まって、今年の試験について話し合っていた。
「なかなか優秀ですね」
一人の職員が口にする。
「まず魔法使いの名家、シゼノスナ家のご息女。マリーズ・シゼノスナ。劣勢魔力でありながらも、あれだけの才能は素晴らしい。実技試験で最上級魔法も使用していた。受験生の中では頭一つ飛び抜けている存在だ」
「あのララという少女も素晴らしい。マッド人形に当てることは出来なかったが、高威力の魔法を放っていた。あれは鍛えれば強くなるぞ」
会議室に集まった全員が興奮したように、次々に自分の注目受験生達を口にしていった。
それを学園長は手を組んで、黙って聞いていたが、
「ふむ。君達の言いたいことは分かった。だが、一人だけ異常なほどの力を持った少年がいるだろう? クルトという少年だ」
その名前を言うと、今まで饒舌だった試験官の口が止まる。
あまりにもクルトという少年の魔法が圧倒的すぎたのだ。
それほど、まるで夢物語を目にしているような光景だったのだ。
「クルトの試験点数はどうなっている?」
「もちろん、的当てと実技試験の点数で合格点数は超えています」
「筆記は?」
「筆記も素晴らしいです。彼が描いた魔法式は私達が想定していたものよりも、数段レベルも高かったし、極めつけは最終問題です」
「最終問題……。ああ、あの解けないことを前提に作られた問題か」
「そうです。1000年前の遺失魔法理論からの出題です。彼の答案用紙に書かれた内容は『実現不可能』と言われた遺失魔法の理論が、補完されて書かれていました」
「なんだと……?」
「学会に発表すれば、革命が起こるでしょうね。それほどの内容です。もっとも今の我々が使おうにも、まだ実力が追いつかないのですが」
職員が肩をすくめる。
それを聞いて、学園長はあまりの才能の到来に絶句していた。
だが、クルトなら——学園長が望む『革命』というものを実現してくれるかもしれない。
「決まりだな」
「ええ。文句なしでしょう」
「よし。クルト・レプラクタを——」
◆ ◆
早いもので、とうとう合格発表の日がやってきた。
「緊張するねー」
魔法学園まで足を運ぶと、ララが「クルト! 一緒に見よっ!」と駆け寄ってきた。
特に断る理由もないので、一緒に見ることにした。
「そうだな」
「ホントにそう思って言ってる? クルト、いつもと同じ感じに見えるんだけど……」
「そんなことはない。俺だって、本当に合格してるかどうか心配だよ」
これは本当だ。
試験内容には自信があったが、なにか大きな間違いをしていることも考えられる。
もしかしたら試験官に気に入られなくて、不合格かもしれない。
「クルトだったら絶対合格してるよ。というかクルトが合格出来てないと、誰も出来ないよ」
そんなことを喋りながら、合格発表の数字が提示されたところまで歩みを進めていく。
周りを観察すると、みんな緊張した面持ちであった。
そんな中。
「あっ」
声をかけられたかと思ったら、女が俺達の方に歩幅を多くして近付いてきた。
「クルト・レプラクタ!」
「そういうお前は……確かマリーズだったか?」
「覚えていてくれていたんですね」
ほっと胸を撫で下ろすような動作を見せたマリーズ。
だが、すぐにブンブンと首を振って、
「と、当然ですよね! だって実技試験であれだけ戦ったのですから! 実力には差がありましたが……」
「なんかごにゃごにゃ言ってるが、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
マリーズは腕を組んで、ぷいっと顔を逸らした。
マリーズ……低レベルな試験で、この子だけが中級魔法のホーリーソードを使っていた。
ララもそうだが、筋が良いと思って注目していたのだ。
「それに……合格発表の大切な日に、女連れなんてハレンチです!」
「ふぇ? わたし?」
「だってそうでしょう? 本当に嘆かわしいことです! そんな男に私が負けるとは……」
「わわわ、私とクルトはマリーズちゃんが思っているみたいな関係じゃないんだからね! そりゃゆくゆくはそうなりたいんだけど……」
ララもなにやらごにゃごにゃ言っていた。
魔法については分かる。
しかし前世からそういう経験に疎かったので、いまいち女心というものは理解出来ないのだ。
「マリーズちゃん。私、ララっていうんだ。よろしくねっ!」
「よろしく……って、私。ここの学園に友達作りにきたわけじゃありませんから!」
うむ。
でもどうやら仲良くなっているみたいだ。
「おっ。合格発表が掲示されるぞ」
そんなことをしていると、職員らしき人がやって来て、掲示板にでかい紙を貼りだした。
そこには受験番号と、その横には点数らしきものが書かれている。
「試験点数は筆記、的当て、実技のそれぞれ100点。計300点です。170点以上が今回の合格点数になります」
職員がそう告げると、
「ひゃ、170点! 去年は140点だったのに……」
「今年はレベルが高かったということなのか?」
と周囲から悲鳴が上がった。
去年のことは知らないが、大事なのは今だ。
俺は下から順番に受験番号を見ていく。
……ない。
なかなか現れないぞ?
一体どこにあるんだ?
もしかして落ちたか?
とうとう上位五人を残すだけになった。
心臓がバクバクしながらも、そのまま視線を上げていくと、
『受験番号99 ∞点』
あった。
99というのは俺のことだ。
「あ、あったよ! やった!」
「わ、私もありました! 目標としていた首席ではないのですが……」
なにやらララとマリーズも合格したみたいで、飛び跳ねて喜んでいた。
「俺も合格しているみたいだった。なかなか数字が現れないから、落ちたかと思ったぞ」
「そんなことあるわけないじゃん!」
「そうですよ。それに∞点というのはどういうことですか? 次席の私でも285点なのに……」
それは俺の方こそ聞きたい。
「なにはともあれ合格していてよかった」
これで俺もはれて魔法学園の一年生だ。