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128・多様性の先は

 ()()()()男を片付けてから、俺達は長く続く階段を昇っていた。


 オーレリアンは近い。

 おそらく、この階段を昇った先でやっとお目見えとなるだろう。


「ねえねえ、クルト」


 ララが話しかけてきた。


「ライリーさん達、大丈夫なの? やられてないかな? かなり敵の数が多かったみたいだけど……」

「心配するな」


 ララの不安を、俺は一言で否定した。


「身体強化や結界魔法を重ね掛けしているからな。今、革命軍は全員ドラゴンを倒せるくらいには強化されている。無論、一人残らずだ」

「ド、ドラゴンを!? そんなこと出来るの!?」


 目を大きくするララ。


 そう驚かなくてもいい。

 俺も他人にそれだけバフ魔法をかけることは、なかなか魔力的に負担も大きかったが……仕方がない。

 俺の読みが正しければ、この戦いはオーレリアンを倒しただけで解決する代物ではない。

 ライリー達の活躍が鍵を握るだろう。


「けど……クルトだったら、やれる気がする……クルトは出鱈目だから……」

「くはは、シンシアよ。よく分かっているではないか」


 無論、俺は過剰に言ってるわけでもないがな。


「そうこうしている間に……着いたぞ」


 階段が終わった。


 それからしばらく廊下を歩いて、扉を開けたその先にいたのは……一人の男である。

 男は俺達に背を向け、窓から王都の風景を眺めているようであった。



「——歴史は変わる」



 俺達の方を振り返らず、男はこう続けた。


「そもそも()()歴史は間違いだったのだ。そう思わぬか?」

「どういうことだ?」


 自分に酔っているような男の声。


 そんな男の背中に向かって、俺はそう尋ねた。


「オレは誤ったものを直そうとしただけだ。『多様性を認める』、この間違った世界をな」

「間違った世界? 多様性があることのなにがダメだと言うのだ」

「貴様はなにも分かっていない。

 この世界に多様性……個性など必要ないのだ。そんなものはまやかしに過ぎない。そんなものが生まれるから思想が生まれる、悩みが生まれる。知っているか? 『不幸』の正体は、他人より劣っているという劣等感だ」


 男は力強い言葉で語る。

 たとえそれが間違ったものだとしても、確固たる信念があるようだ。


「ならば……みんな()()になってしまえば? この世に不幸がなくなる。悲劇がなくなる。オレはこの世界から無用な悲しみを取っ払おうとしただけなのだよ」

「その結果が、本や演劇、絵画といった文化を封じることなのか」


 男が黙って頷く。


 本や演劇といった娯楽、つまり文化は人の多様性によって育まれたものだ。

 そして、文化に触れることによって、人々は別々の考えを持つようになるのかもしれない。

 それはすなわち、男が嫌った『多様性』を産むという意味。


「だからこそ、文化を封じたということか——愚王オーレリアンよ」


 俺がそう呼びかけると、男……オーレリアンの体がゆっくりこちらを向く。

 オーレリアンは俺達を真っ直ぐ見て、ニヤリと口角を釣り上げた。


「いかにも。素晴らしい考えだろう? オレはみんなを平等にして、幸福にしてやろうとしただけなのだ。それのなにがいけない?」

「ただ反乱を恐れているだけのようにも聞こえるがな」


 多様性があると「オーレリアンを討とう」という考えを持つ者が現れるかもしれない。

 丁度、オーレリアンの家族であったライリーのように。


「やはり貴様にも、オレの崇高な考えは理解出来ないか」


 呆れたようにオーレリアンが口を動かす。


 それを俺は、


「つまらぬ。多様性があるからこそ、この世界は面白いのではないか。強い者、弱い者……優れた者、愚かな者。全員、この世界にいてもいい。優れているからといって生きていい証明にはならないし、劣っているからといって排除されていい証明にもならない」


 と一笑した。


 俺は本や演劇といった物語の類が好きだ。

 いくら俺が魔法を極めても、彼等・彼女等が紡いだ物語を作れるかとなると疑問が生じる。

 そういった面白いものは、世界が多様性を許容したから生まれたものであろう。


「ふっ、分かり合えぬか」


 オーレリアンが手をかざす。


「ならば、どちらの力が上か決めようではないか。分かり合えぬ者とは、拳を交えるしかないのだからな」


 魔法式が展開される。


「ク、クルト!? この魔法式は?」

「ものすごい……魔力……」


 それを見て、ララとシンシアが戦闘態勢を取った。


「うむ、俺が来るまでに準備を済ませていたようだな」


 オーレリアンが()()に魔力を通すと、部屋中にびっしりと記された魔法陣が光を放った。


 その数……およそ百。

 それ等全てが相互に干渉する。そうやって魔力を連結し、より強固な魔法式を生み出そうとしているのだ。

 後ろを振り返ると、ここに入ってきた時の扉がなくなっている。退路も塞がれたということか。


「簡単に言うならば、百人と複合魔法を組んでいる……それを一人で行っている、といったところか」


 俺がそう言うと、オーレリアンが勝ち誇ったような表情を浮かべた。


「そこまで理解しているか。そう分かってなお、魔法の発動を止められないのは歯がゆいよな? ガハハ! この部屋に入った瞬間から、貴様の負けは決まっているのだ。死ねぇい!」


 オーレリアンが唱えると魔法陣から光線が発射され、俺達に向かってこようとした。


 うむ、アブソリュートレイか。

 一発で即死級の光線が1000発連続で放たれる、普通にしていればなかなか厄介な魔法だな。


 しかし。



「俺に()()()瞬間から、お前の負けは決まっている」



 1000発の光線が放たれる僅かな間隙。

 その間に俺はヤツと()()魔法式を組み上げる。

 ぶつかり合っていく光線。


「なっ……!」


 オーレリアンが驚愕に目を見開く。

 こちらに向かってくる光線に、俺が放った光線が次々と当たっていき、衝撃を吸収していく。


 やがてオーレリアンの放った1000発の光線が止んだ。

 だが、俺の方は()()()()発だ。


「ぐあああああああああっ!」


 一発分残されていた光線がオーレリアンの胸を貫く。

 ヤツは衝撃に圧され、後方の壁に体を強く叩きつけた。

 城全体が揺れる。


「ふん」


 俺はオーレリアンを見下し、こう続けた。


「この程度で俺に勝つつもりだったとは……これが本当の魔法だ」

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