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125・魔法博士

 王都を囲む城壁が消えたことにより、雪崩れ込むようにしてそこから革命軍が侵入していく。


「ゆけ! 愚王は城にいる!」


 ライリーが城の方向を指差して、鼓舞するようにして兵士達に叫んだ。


 見ると、高くそびえ立つ城の姿がここからでも見えた。

 ライリーの言う通りなら、あそこに愚王オーレリアンがいるのだろう。俺の目標の一つである。


「クルト……転移魔法であそこまで行けないのかな?」


 前に進みながら、ララが俺に問いかけてきた。


「ああ、俺とララ、それにシンシアの三人なら可能だろうな」


 城には転移魔法を封じる魔法結界も張られていたが……俺にとっては、ペラペラの木の板のようにしか見えなかった。

 大した問題でもない。


「早速城に乗り込んで、最終決戦といこうか。だが、まずはその前に……」


 そう言って、俺は空を見上げる。


 すると……。



『ふふふ、私達の魔法実験の生けにえ共が、列をなしてわざわざ来てくれたわ』



 バッサバッサ。

 そう羽音を響かせ、一体の魔族が俺達の前に姿を現したのだ。


「も、もしやあれは……」


 ライリーが魔族を見上げて、声を震わす。

 そのまま魔族は優雅に地面へと着地し、ライリー達を見据えた。


 革命軍は五百人以上に及ぶ。

 しかし……それらがたった一体の魔族に恐れをなして、足を止めてしまったのだ。


『私のことを知っているのかしら?』

「貴様は……魔法博士ミジル! 貴様のせいで、我ら同胞どうほうは何人も殺された」


 ライリーは声に静かな怒りを滲ませる。

 この突然現れた魔法博士だとかいう魔族……なかなかの魔力貯蔵量だ。


『光栄ね』


 ミジルの唇が妖しく動く。


「どうしてお前等魔族……そして魔物は王都に協力するのだ? 人間と手を組むなど、魔族らしくないではないか」


 ライリーの問いに、ミジルは唇を歪ませ。


『協力……そうね、一時的に手を組んでいるだけといっていいかしら』

「どういうことだ?」

『私は魔法の研究さえ出来ればそれでいいの。そのために……実験材料として、新鮮な人間を何千人……いや、何万人も用意してくれるって言うからね。私にとって、この戦争は好都合なの』


 ミジルの言葉に、ライリーが嫌悪感を露わにする。


 魔族というのは、普通の魔物に比べて知能が高い。

 ただ戦うだけで満足せず、さらなる高みを目指しているのだろう。


 だが。


「そのために、無用な被害者を出すのは褒められないな」


 俺はみんなより一歩前に出て、そうミジルを挑発する。


『どういうことかしら? 魔法の進歩には、被害は付きものよ』

「そう考えていること自体が、小物だと言っているのだ。無用な被害を出さなくても、魔法の研究などいくらでも出来るだろうに」


 無論、自分に敵対してくる者に対しては戦うべきだが。


 俺が言葉を続けると、だんだんとミジルが苛ついたような顔つきになる。


『バカなことを言わないでちょうだい。所詮力なき人間の言葉か。なんにも力を持っていないくせに、偉そうにしないで』

「それは俺の言葉だ。所詮力なき()()の言葉か。せめて、俺に擦り傷を負わせられるようになってから、そのような言葉は吐いてもらいたいところだな」


 実際1000年前において、魔族など人間に決して勝てないくらい弱い存在だった。

 ただずる賢いだけで、魔法では人間より劣っている。


「お、おい……クルトよ」


 後ろから、ライリーの震えた声が聞こえる。

 魔族のミジルに恐れを抱いているようだ。


「安心しろ」


 全く……この程度の魔族を恐れるとは。


 そんな俺の軽蔑しきった気持ちがミジルに伝わったのか、


『いいわ、見せてあげる』


 と指を鳴らした。


 その瞬間、上空を覆い隠さんばかりに魔物の集団が姿を現したのだ。


『取りあえず100体』


 空を見上げ、ミジルが誇らしげに言う。


『あなた達人間に、私と……そしてこの魔物の大群を倒すことが出来るかしら?』


 召喚魔法か。

 どこからか魔物を呼び寄せたのであろう。


 なるほど。

 先日、革命軍に攻め入った魔物よりも数は劣っているものの、一体一体の力が段違いだ。

 大口叩くだけ最低限の戦力は用意している、ということか。


 俺が冷静に分析していると、


「な、なんということだ……」

「こんなヤツ等と戦わないといけないというのか?」

「逃げよう! 敵うはずがないんだ!」


 と革命軍の中から、ぽつぽつと弱気な発言をする者も現れた。


 今にも逃げ出してしまいそうだ。


 しかしその中で、ライリーだけが勇ましく立ち、空を見上げる。


「皆の者! 恐れる必要はない! 我らにはクルトが付いているのだ! ここで逃げて、クルトと離れる方が危険であろう」


 その言葉により、逃げようと踵を返していた革命軍の何人かの足が止める。


「いい判断だな」


 俺はそれを見て、一安心する。

 俺から離れてしまえばしまう程、その者達の世話をするのがなかなか難しくなってくる。

 となると俺に近いほど、彼等彼女等の生存確率は上がるというものだ。


『ふふふ、面白いことを言うわね。いいわ、見せてあげる』


 ミジルが前に手をかざす。

 すると……周囲から光が集められ、極大の槍が形をなしたのである。


『まずはこの攻撃を防いでみなさい』


 まるで虫を払うかのような動作で、ミジルがその槍を発射させた。

 槍の周りに衝撃波が生じ、周りの建造物がなぎ払われていく。


 しかし。



「なにを言っている。()()は? ……二度目があると思うな」



 来い、魔剣よ。

 俺は手元に魔剣を呼び寄せ、それを横払いに一閃した。


 ズゴォォォオオオオオン!

 耳をつんざくような音を立て、迫り来る槍が斬られ、それによって爆発が起きる。

 さらにその爆発の余波は空まで及ぶ。

 空にいた魔物共は断末魔を響かせ、衝撃に耐えきれずその場で消滅。

 今ので消えなかった者も、次々と地面に落ちていき、そのまま絶命してしまった。


「な、なにが……起こっている!?」


 ライリーの声。

 無論、その爆発に巻き込まれないよう、革命軍には結界魔法を施している。

 そのおかげで、彼等は全員無傷だ。


「道は開かれた」


 と俺は前を見る。


 魔族ミジルも先ほどの衝撃波によって、最早虫の息だ。


「革命軍に力を授けよう」


 そう言って、俺は革命軍()()()人以上に身体強化魔法……さらには、結界魔法をかける。

 これだけあれば、もう一度魔物達が現れても、持ちこたえることが出来るだろう。


「俺はこのまま城に行ってくる。ライリーは……今から来るであろう王都の援軍を片付けてくれ」

「ちょ、ちょっと待て……!」


 俺を止めるライリーの声に返事をすることもなく、ララとシンシアと隣り合った。


「行くぞ。邪魔者はひとまず片付けた」

「う、うん……相変わらずクルト、メチャクチャだね。たった一振りで、これだけの魔物を殲滅するなんて……」

「しかも500人全員に、バフ魔法をかけた……魔力の貯蔵量……やっぱり出鱈目……」


 若干二人は引いているように見えたが、俺がやったことは大したことはない。

 これだけやっても、まだ俺の魔力は1%程度しか消費されていないからな。


「なに、最終決戦には問題はない。心配しているなら、安心しろ」

「心配してないよ!」


 ララに突っ込まれた。

 腑に落ちない気分ではあったが、俺は転移魔法を発動させ城への侵入をあっさりと果たすのであった。

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