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124・強固な城壁を突破する

 夜が明けた。


 俺達はあの後、部屋を割り当てられそこで寝ることが出来た。

 質素なベッドではあったが、寝られないことはない。

 それに、いくらここが魔念の中とはいえ、そんなことをしてくれるライリー達の気遣いが嬉しかった。


「ララとシンシアを起こしに行くか」


 体を起こす。

 さすがに男女同じ部屋はいかがなものか……というわけで、ララとシンシアだけは別の部屋を用意されたのだ。


「ララ、シンシア。そろそろ起きろ」


 そう言いながら彼女達の部屋の扉をノックする。


「ふにゃ。ちょっと待ってね」


 ララの声が向こうから扉の向こうから聞こえ、


「わっ、クルト。おはよー」

「おはよう」


 彼女が寝ぼけ瞼を擦りながら、扉を開けた。


 少しだけ、ぴょんと寝癖が出来ている。それがなんだかララらしさを感じさせて、可愛らしく思えた。


「シンシアはなにをしている?」

「シンシアちゃんはまだ寝てるよー。入る?」


 頷き、ベッドの方に行くと、体を丸めて目を閉じているシンシアの姿があった。


「シンシア、起きろ。朝だ」


 シンシアの体を揺すってみるが「ん……」という声を上げるだけで、起きる気配がしない。


「どうやら起きそうにないね」


 それを見てララが声を出す。


「うむ、どちらかというと朝に弱いのはララの方に思えたんだがな」

「えー、それってどういうことー」

「深い意味はない。それにしても、ララ。昨日は酒の匂いで酔っぱらってみたいだが、それは大丈夫なのか?」


 俺た尋ねると昨日のことを思い出したのか、ララはぽっと頬を赤らめて、


「う、うん……昨日は恥ずかしい姿を見せちゃったよね。忘れてくれたら嬉しいな……」


 と恥ずかしそうに言った。


 それを見て、俺は「ふっ」と思わず吹き出してしまう。


「そんなことはない。可愛かったぞ」

「えっ、わたしが?」

「ああ」


 普段は見られないララの姿が見られたのだ。

 可愛くないわけがないだろう。


「そっか……可愛いか……ふっふん」


 その後、ララは機嫌を良さそうに鼻歌を口ずさんでいた。




 しばらくして、昨日宴会をやっていた建物の中へと俺達は集められた。


「昨日は楽しかったな」


 ライリーがみんなを前にして告げる。


「しかし昨日のことは昨日だ。すぐに王都軍への対策を考えなければならない」


 引き締まった表情をして、ライリーがそう続けた。


「その通りだな」


 俺はライリーの話を聞き、そう呟く。


 王都軍は革命軍……つまり俺達の居場所をつかんでいる。だからこそ、魔物の大群を操り、こちらへと差し向けてきたのだ。

 魔物の大群が殲滅されたのも、あちら側には伝わっているだろう。

 ならば……体勢を整え、すぐに第二陣を差し向けてくるのは容易に推測出来た。


「今のところは来てないかな?」

「ああ。探知魔法を使ってみても引っ掛からない。しかし今日中にはなにか仕掛けてくるだろうな」


 ララの質問に、俺はそう答えた。


「シンシアも分かるだろう? ララやマリーズに比べ、探知魔法の精度が優れているからな」


 シンシアにも話を振ると、彼女はぷいっと視線を逸らして、


「ん……」


 と短く、そして不機嫌そうに頬を膨らませたのだ。


「どうしたのだ」

「……クルト……シンシアの寝顔……勝手に見た」


 ああ。

 そのことで怒っているのか。


「ごめん、でも可愛かったぞ」

「そんな言葉じゃ騙されない……」


 うーん、困った。


 ならば。


「寝顔を見られたことを怒っているのか。ならば今度は俺の寝顔を見せてやろう」

「え……」


 その言葉に、はじめてシンシアの顔が俺の方を向く。


 寝顔を見られる……ということは、相手に隙を見せたということだ。いつ寝首をかられてもおかしくない。シンシアはそのことを危惧しているのだろう。


 ならば俺の『隙』も見せてやろうではないか。

 お互いの心臓を握り合った状態にすれば、シンシアも安心するはずだ。


 そういう意味で言ったのだが、


「うん……今度、クルトの寝顔見させてもらう……」


 と嬉しそうに口にした。


 よかった。どうやら機嫌は直ったらしい。



「クルトの考えを聞きたい」



 そうこうしていると、ライリーが俺を一直線に見つめていた。


 周囲の視線も俺達に集まる。


「そうだな……」


 俺は自分の顎を撫でながら、


「今のところ、王都軍の動きは感じられない。だが、怯えて待っているだけというのもつまらないだろう。どちらにせよ、あちらは総攻撃を仕掛けてくるはずだ。ならば……俺達の方から仕掛けるというのはどうだ?」


 と続けた。


 すると周りからどよめきが起こる。


「うむ……クルトの言う通りかもしれないな。もうここに隠れているのは限界なのかもしれない」


 ライリーだけが冷静に俺の意見を受け入れる。


「クルトが言っているのは、こちらから王都に攻撃を仕掛ける……ということだな?」

「その通りだ」


 まどろっこしい真似はしてられない。

 俺はここ……魔念の中に遊びにきたわけではないのだ。

 急いで悪い結果になることは良しとしないが、それ込みでもここに留まっておく必要もないだろう。


「うーん……」


 ライリーが悩ましげにうなっている。


「どうした?」

「クルト一人は、三百の魔物の大群……いやそれ以上にも匹敵する戦力だ。王都側と戦うにも、革命軍に十分勝機はあるだろう。しかし王都に攻め入るとなっては別だ」

「なにか懸念けねん事項でもあるのか」


 俺が尋ねると、ライリーは首を縦に動かした。


「王都はぐるりと城壁で囲まれている。その壁は高く頑丈に作られており、いくつかの結界魔法も張られている。これを突破するとなっては至難の業なのだ。そうしている間に戦力を削られ……あちらの準備が整ってしまう。それが悩みどころだな……」

「はは」


 ライリーの言葉に、俺は思わず笑ってしまった。


「そんなもの悩みの種にもなりはしない。安心しろ。その城壁なら——」


 と俺は言葉を続けると、さらに周囲から大きなどよめきが起こるのであった。


 ◆ ◆


 俺達……そして革命軍は隠蔽魔法で身を隠しつつ、王都の前までやってきた。


「これがライリーの言っていた城壁か」


 なるほど。

 城壁は高く築かれ、所々に魔法陣が描かれている。

 この複数の魔法陣が一種の情報網を構築し、より強固な結界魔法を張っているのだ。


 だが。


「なに、これくらいなら大したことはない」


 そっと城壁に触れる。


 ……魔法陣破壊。

 背反魔法を使い、一気に魔法陣をなくしてから……さらに城壁自体にも、魔力を通す。

 それは一瞬で終了した。



「じょ、城壁がなくなった!?」



 ライリー、そして革命軍が驚きのため声を出す。


 無理もない。

 目の前に高くそびえていた城壁……それが一瞬にして完全に消滅してしまったからだ。

 ただ目の前……俺達が王都に侵入出来るだけのスペースだけをなくしたわけではない。

 王都をぐるりと囲んでいた城壁を()()消してしまったのだ。


「最初聞いた時は信じられなかったが……ク、クルトはとんでもないな!」


 ライリーの声に興奮が混じる。


「クルトだったらこれくらい当たり前だよねっ!」

「クルトは……出鱈目」


 ララとシンシアがどこか誇らしげに続けた。


 さて……と。

 ここに来るまでに革命軍全体に隠蔽魔法を施していた。ゆえに、俺達がここまで接近しても、ヤツ等は全く気付いていないはずだ。

 しかし、さすがに城壁がなくなったことにより王都軍には気付かれてしまっただろう。

 隠蔽魔法を解いておくか。


「一気に片を付けるぞ。俺とライリーの後に続け」


 後ろを振り返り俺がそう言うと、地を震わすような革命軍の雄叫びが響くのであった。

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