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123・ライリーの真実

 王都が放った魔物軍を倒した後。

 俺達は革命軍に受け入れられ、小さな宴会が開かれることになった。



「君達に疑いをかけてすまなかった」



 宴会の席、愚王オーレリアンの弟ライリーが頭を下げる。


「気にしなくていい。今は戦時中なのだろう? 警戒心するのは仕方のないことだ」


 対して、俺はそう口にした。


 あの後、魔物の大群を始末したことによって、俺達は警戒を解かれることになった。

 俺がいなければ、革命軍はこのまま滅んでいただろうからな。それが彼等の信頼を勝ち取ることとなったのだろう。


 それに……俺達がもし王都側の人間なら、あそこで魔物を倒す利点はない。

 さらに仮に俺達がなんらかの考えがあったとしても、三百の魔物の大群を倒すヤツと敵対することは好ましくないと考えたようだ。


「そう言ってもらえると助かる」


 そう言って、ライリーがコップを俺に向かって掲げた。


「さあ、今日は素晴らしい同志に出会ったことを祝福し、飲んで食べようではないか。とはいえ戦争中なので、質素なものにはなるが」

「いや、ありがたい」


 俺はライリーと乾杯した。


「クルト〜、わたし、目の前がぐるぐるになってるよー」


 そうこうしていると、ララがふらふらになって俺の肩に手を置いた。


「ララ、お酒を飲んだのか?」

「んん」


 質問すると、ララが首を振った。


「飲んでないんだけど……お酒の匂いがすごっくて。嗅いでたら、なんだか頭の中がぐるぐるになっちゃった」

「……そうか。少し横になっているといいだろう」

「ふにゃ」


 ララは俺の膝を枕にして、その場に寝そべる。


「なにをしている?」

「ひざまくらー」


 そのままララは俺の膝に、頬をすりすりとさせた。


 ……まあ好きにさせておくか。


「ララは……お酒に弱い」


 隣では、シンシアがちびちびとぶどうジュースを飲んでいた。


「全くだ。これだったら、樽一つ分くらいのお酒を飲んだくらいで、酔っぱらってしまうかもしれない」

「そんなの飲んで……酔っぱらわないのは、ドラゴンだけ。普通の人は……死ぬ」


 前世から酒はあまり好きではない。だからといって、飲めないわけではない。

 前世では山一つ分の体積がある酒を飲んで、そのままドラゴンを狩りに行ったことがある。

 修行のために、あえて縛りプレイをしてみたのだ。


 そんなことを考えながら、俺もぶどうジュースを飲んでいると、



「おいおい! ジュースなんて……お子様かよ。それに女の子といちゃいちゃしてるのが気にくわねえ!」



 いちゃもんを付けてくる、巨漢の男が近付いてきた。


「おい、ディルク……止めろよ。その方は俺達を救ってくれた英雄だぜ?」


 すぐに男……ディルクを止めようと、周りから人が集まる。


 しかしディルクは腕をぶんぶんと振り回してから、


「はっ! 英雄だろうがなんだろうが、女といちゃいちゃしてるヤツを見てると虫酸が走る!」


 と叫んだ。


 その腕の力に止めに入った周りの人物も吹っ飛ばされる。


「酔っぱらいか」


 ディルクを見ると、片手にはジョッキ一杯のエールが注がれていた。

 よく見ると、足下もふらふらになっている。

 たちの悪い酔っぱらいだ。


「おい……おまへ!」


 ディルクの舌が回っていない。


「さっさと、女から離れろ。さもなくば俺の鉄拳が炸裂するえ?」

「俺からララに近付いたわけではない。ララから俺に甘えてきたのだ。それなのに俺から離れろ、というのは変な話だろう?」

「うるへえ!」


 最初に言った通り、ディルクの拳が飛んできた。


「ふん」


 俺はそれを受け止め、ひねりながら地面へと叩きつける。


「ぐべぇ!」


 潰されたカエルのような声を上げるディルク。

 その勢いでディルクの手からジョッキが離れた。

 俺はそれに重力魔法を使い、そのまま自分の手へと手繰り寄せる。

 無論、ジョッキから一滴のエールすらも零れていない。

 戦時中の大事な酒だ。こんなところで無駄にするわけにはいかない。


「興がそがれるようなことをするな。この酒は没収だな。少しそこで頭を冷やすといい」


 俺がそう続けると、周りから歓声が起こるのであった。


 ◆ ◆


 宴会も盛り上がってきた。

 しかしライリーの姿が見えない。


「クルト、どこに行くの……?」

「なに、夜風に当たってくるだけだ」


 シンシアにそう言って、俺はライリーを捜すため外へ出た。


 とはいっても、ライリーはすぐに見つけることが出来た。


「ライリー、こんなところにいたのか」


 そこには夜風に当たりながら暗い空を見上げている、ライリーの姿があったのだ。


「クルト」


 ライリーが振り返る。


「もう宴会はお開きか?」

「いや、まだまだ夜も長いといったところだろうな。まだみんな、中で騒いでいる」

「それじゃあどうして?」

「ライリーと喋ってみたかった。だから抜け出してきたのだ」


 そう言うと、一瞬ライリーは驚いたような表情。


 しかしすぐに、


「そ、そうか。オ、オレもお前と丁度喋ってみたかった」


 と俺から顔を逸らしながら言ったのだ。


 どうして視線を外す?

 それに耳たぶが赤くなっている。


「うむ……まずライリー、一つだけ質問してもいいか?」

「奇遇だな。オレもクルトに尋ねてみたい」


 顔を合わせる。


「ならば同時に言うとしよう」

「そうしようか」


 俺達はお互いをじっと見つめながら、こう口を開いた。



「どうして女であることを隠している?」

「オレは女だ」



 たまたま言いたいことの内容が重なり、ライリーが目を丸くした。


「き、気付いていたのか……」

「ああ、最初からな」


 ライリーを見た瞬間から違和感を感じ、記憶の表層を読み取った時に性別が確定した。

 愚王オーレリアンの弟……いや、妹ライリーとでもいおうか。英雄の革命家は女だったのだ。


「オ、オレだって好きに隠しているわけではない。ただ女だからといって、舐めるヤツもいるからな。男にしていた方が色々と便利なのだ」


 ライリーは唇を尖らせながら言った。


 ここはオーレリアンの魔念の中。

 ゆえに、ヤツが真に信じることが出来れば、事実を改変することが出来る。


 ならばライリーの性別も、その改変の結果なのだろうか?


 ……いや、それは考えられにくい。そうする必要性が感じられないからだ。

 なので弟……男だと後世まで伝えられていたライリーが、実は女だったと考える方が自然であろう。


「それにしては、やけに簡単に認めるのだな。俺が質問しても否定すると思ったぞ」

「クルトを信頼しているから」


 目に力を込めて、ライリーは俺を見つめる。


「いや……信じるしかない、と言っていいかな。我が革命軍は圧されている。最早じり貧だ。このままではいつ王都軍に押し切られてもおかしくはないだろう」


 うむ……やはり事実が歪められているか。


 正史によると、革命軍は破竹の勢いで勝ち続け、そのまま王都軍を滅ぼしてしまったはずだ。

 それなのに……先ほどの大量の魔物を率いた王都軍といい、革命軍がボロボロの廃村を拠点としているのといい、やけにライリー達が追い詰められているように見えるのだ。

 それは少しずつ、オーレリアンがライリー達革命軍に勝てると思いはじめている……ということ他ならない。


 だが。


「心配しなくてもいい。俺もとある事情でオーレリアンを討たなければならないのだ。協力する」

「……! ありがとう。虫の良い話かと思うかもしれないが、今日の王都軍を倒した時を見てから、君にはなにか感じていたのだ」


 とライリーの上ずった声。


「この手でオレはあの王を討ちたい。それが弟……いや、妹としての役目だと思う。だが……!」


 ライリーは腰に手をやり、剣を鞘から抜く。


「もし、オレが無理だった場合……クルトにこの剣を託す。この剣であの愚王を討って欲しい」

「それくらいの頼みなら、いくらでも聞いてやる」


 無論、ライリー自身がオーレリアンを討つ方がいい。

 正史通りの方が、オーレリアンも諦めるからだろうだ。そうすれば魔念の核の消滅もすんなりといく。


 ライリーの剣を見て、俺は分析をはじめる。


「なかなかの名剣だな」

「分かるか。これは魔石によって作られた剣だ。名シェルエーベスをという」


 あくまでオーレリアンの魔念の中ではあるが……ここは500年前の世界。

 フォンバスクによる魔法文明衰退も途中のはずだ。

 オリハルコンなんかを頑丈な素材として扱っている現代に比べれば、比較的に1000年前の技術も残っているのだろう。


「そろそろ戻るとするか。オレ達がいなかったら、他の者が探しにくるかもしれない」

「そうだな」


 俺は返事をし、ライリーと隣り合って宴会をしている建物の中に戻ろうとした。


 しかし途中で彼女が立ち止まり。


「最後にクルト、もう一つ質問してもいいか?」

「なんだ?」

「クルトはどこからきたのだ? いや、無理に喋ってくれなくてもいいんだ。こういうご時世……喋りたくないことも多いだろうからな」


 なんだ、そんなことか。

 拍子抜けのような気分になりつつ、俺はこう口にした。


「……500年後からといったら信じるか?」

「はは。なに、それ。嘘を吐くなよ」


 それに対し、ライリーは笑い飛ばすのだった。

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