122・後の英雄
書籍化が決まりました!
光が徐々になくなり、やがて視界が開けると。
「ここはどこー?」
真っ先に、ララがきょろきょろと辺りを見渡す。
シンシアも隣にいる。転移魔法は無事に成功したようだ。
ララと同じようにして、俺も周囲を見渡した。
「廃村みたいだな」
まず目に映ったのは建ち並んでいるボロボロの小屋と、壊れた噴水であった。
寂れた空気が村中に漂い、通り抜ける風が冷たい。
「誰もいないのかな?」
「ララ、油断するな」
「え?」
ララが目を丸くする。
確かに、彼女の言った通り、人っ子一人見当たらない。
「うん……いる……」
しかし……どうやら、魔力の分析に長けたシンシアは気付いているらしい。
「おい、さっさと出てきたらどうだ。どこの誰だか知らないがな」
と一見誰もいないように見えるボロボロの小屋に向き直して、俺はそう声を出した。
そいつは最初、出てこようとしなかった。
しかし、やがて観念したのか、
「やあああああああ!」
と声を上げ物陰から飛び出し、剣を振りかぶって俺に襲いかかってきたのだ。
「ふん」
「がっ……! う、動けないだと……!?」
その剣が俺に当たろうかとした瞬間、俺は拘束魔法を使いそいつの身動きを封じる。
「いきなり斬りかかってくるとは不躾ではないか。少し話をさせてもらいたい」
そいつの顔を見ながら、俺はそう話しかける。
拘束魔法で動きを封じられたそいつは、敵意を露わにさせて、
「話だと……? 今まで散々暴れ回っておいて、それか。どうせ卑怯な王都軍は、まともに話出来る口もないというのに」
とじたばたと四肢を動かした。
「ほう、なかなかやるではないか」
それを見て、思わず言葉を漏らしてしまう。
完全に拘束から逃れることは出来ていない。まともに剣を振るうことも出来ないはずだ。
しかし拘束魔法をかけられているというのに、わずかではあるが動いている。そのことに驚いているのだ。
「魔法に対する抵抗があるということか」
俺はそう言って、拘束魔法を解く。
「俺はクルトと言う。お前の名前は?」
「……! お前に名乗る名など持ち合わせていないっ!」
そいつは剣を握る力をさらに強くした。
しかし再び襲いかかってくる様子はない。
おそらく、もう一度攻撃しても先ほどの二の舞になると踏んでいるからだ。
戦力の分析も出来ているのだ。
「ならば……お前の記憶を探らせてもらうぞ」
「一体なにを……!」
俺はそいつの額に手をやり、その表層にある記憶を読み取った。
そいつに関する情報がおぼろげではあるが、頭に浮かんでくる。
「うむ……どうやらライリーという名前のようだな」
そう指摘すると、そいつ……ライリーは驚いたように目を見開く。
眼前の人間は、後に愚王オーレリアンを討つ英雄ライリーのようであった。
……ん? しかもこいつ……なるほど、面白い。そんなこともあるか。
それが分かったところで、俺はゆっくりとライリーから手を離した。
その瞬間。
「ライリー様!」
「かかれっ! ライリー様の命は、俺達が死んでも守り抜く!」
「おおおおおお!」
次から次へと、物陰から人が出てきた。
「わわわっ、クルト!」
「みんな……武器を持っている……!」
囲まれたような形となる。
四方八方からそいつ等は剣や槍を振りかざすが、
「心配はいらない」
俺は咄嗟に結界魔法を発動し、そいつ等の攻撃を封じた。
「なっ……! け、結界魔法だと!?」
「有り得ない! これだけの大勢を前にして、持ちこたえられるだけの結界をすぐに張れるとは!」
どうやら結界魔法の存在は知っているらしいな。
いくら攻撃しても結界魔法を破れないと知ったか、やがて俺達から距離を取っていった。
「うむ、大体把握出来た」
どうやらここはオーレリアンの500年前の記憶。
愚王の弟ライリー側……つまり革命軍が廃村に身を潜めていた場所、といったところか。
「ならば、お前等に告げる。俺はお前等と戦うつもりはない。いわば、俺もオーレリアンを討とうとする同志だ」
両手を広げ、みんなに対して告げる。
「そ、そんなこと……信じられるわけがないだろう!」
そう声を出したのは、隣で膝を付いているライリー。
俺がほんの少し隙でも見せれば、その手に持った剣を再び振るうであろう。
「うむ……どうすれば信じてもらえるんだろうな」
愚王オーレリアンを諦めさせるため。
それは俺自身がオーレリアンを討つ……という方法もある。
だが、オーレリアンにとってはこの目の前のライリーも重要な人物である。
オーレリアンの魔念の核を消滅させるためには、このライリーにも協力してもらいたい。
どうしたものかと頭を悩ませていると、
「た、大変です! 王都軍に操られた魔物が、こちらに向かってきていますっ! 後十五分もすれば、こちらに辿り着くでしょう!」
急遽、息を切らした男が走ってきて、剣呑な雰囲気のままそう叫んだのであった。
「な、なにっ!? この場所を知られたということなのか! や、やはり貴様……スパイだったのか」
ライリーが射貫くような視線を俺に向ける。
「落ち着け。例えそうであっても、連絡する術がない。その時間もなかった。これだけ短い時間で、進軍する魔物軍を用意することは不可能だ」
俺がそう説明すると、ライリーは「くっ……」と顔を歪ませた。
「クルト、どうしよう?」
「このままだったら……この人達も殺されるかも……」
ララとシンシアが顔を近付ける。
「二人だったら俺がなにをしようとしているか分かるだろう?」
「えへへ。聞いてみたかっただけ」
ララが頬を掻いた。
王都軍の魔物とやらは俺達の方に向かってきている。
ならば俺のすることは……。
「迎え撃つのみだ」
◆ ◆
「なかなかの数のようだな」
魔物の大群は蠢くようにして、村の方に向かってきている。
その数、およそ三百は超えるであろう。
「さて、やるとするか」
俺は手を掲げ、同時に魔法式を組んで行った。
どうやらまともな知能を持った魔物はいないらしい。
それもそうだ。王都軍に操られる程度の、低級な魔物達なのだからな。
昔《四大賢者》のメイナードが、魔導具を使って魔物を操っていたことを思い出していた。それと同じ原理で操ってでもしているのだろう。
「イフリートメテオ」
愚直に突っ込んでいく魔物の大群。
その中央に大爆発を起こした。
魔物の断末魔が周囲に響き渡る。
そして……煙が晴れた頃には、あれだけいた魔物があっという間に殲滅されていたのだ。
それも一体残らずだ。
それと同時、後ろからどよめきと歓声が起こった。
「たった一体であれだけの魔物をやっちまったっていうのか!?」
「こいつ王都軍の回し者じゃなかったのか。それなのにどうして……」
「化け物かよ。三百体以上の魔物を、一瞬で殲滅しちまうなんて」
「もしや、こいつは俺達の救世主なのか?」
魔物が片付いたことに対する喜びが半分。
そして残り半分は俺の力に対する動揺があるようであった。
振り返り、そいつ等に対してこう告げる。
「これくらい大したことはない。お望みとあらば、これより十倍の大群があっても殲滅してみせようか?」
おかげさまで、Kラノベブックス様から書籍化が決まりました。
ここまで来られたのはみなさまのおかげです。ありがとうございます。
今のところは6月28日ごろ発売のようですが……また詳細は追ってご報告させていただきますので、よろしくお願いいたします。