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113・軟弱な攻撃

 その後も俺は順調に勝ち上がっていき、とうとう決勝まで歩を進めることが出来た。


 当たり前ではあるが、ここまでただ一つの苦戦もなかった。

 あえて言うならデズモンドとの戦いは、少々骨があったが……それでも少しだけだ。まだ俺に本気を出させてくれるまでには至らない。


「ララも次勝てば決勝か」

「うん!」


 準決勝の舞台に上がろうとするララに、俺はそう声をかけた。


「後一つ勝てばクルトと戦うことが出来るね」

「うむ、そうだな」

「じゃあ頑張るねっ」


 ララがギュッと拳を握る。


「クルトと決勝で当たっても、絶対に負けると思うけど……それでも、今の全力をクルトにぶつけたいんだ。クルトに教えてもらった魔法をね」

「頼もしいことだ」

「そうかな?」

「しかし負けるつもりでやるのは感心出来ないな。どうせなら勝つつもりでやるといいだろう。そうしてこそ、俺もやりがいがあるというものだ」


 そうララに発破をかけた。


「うん……! でも、とにかく準決勝を勝たないとねっ。頑張ってくるねー」

「応援してるぞ」


 ララは俺といくつか言葉を交わしてから、準決勝の舞台に足を踏み入れた。


 その瞬間、爆発的な歓声が巻き起こる。


『可憐な少女の快進撃も、とうとう準決勝まで来ちまったぁぁああああああああ! その可愛い体のどこのパワーが詰まっているのか、ララぁぁああああああ!』


 準決勝ということもあり、実況の声もさらに力が入っているように聞こえた。

 歓声を受けてなお、ララは堂々として手を振っていた。


『そしてそんな少女のお相手は、ホレスぅぅぅうううううう! あの東方の国シャガドーからの刺客だ! シャガドー戦士の腕前は謎のベールに包まれているが、どんな戦いを見せてくれるというのか!』


 そんなララの相手は筋肉隆々とした男である。

 ララの三倍は体の大きさがあるように見えた。


 ホレス、と呼ばれた男は巨大な斧を軽々と持って肩に載せている。

 ホレスはララを見下しながら、こう口を開いた。


「はあ? ここまで来たっていうのに、オラの相手は女かよ? しかもひょろひょろしてるじゃねえか。時間の無駄だ、お嬢ちゃん。ギブアップしな」


 挑発する。


「女だからって、甘く見ちゃいけないよーっ。ホレスさんこそ、ギブアップすれば?」


 しかしララも怯まずに応える。

 それを受けて、ホレスは「ちっ」と心底面倒臭そうに舌打ちをした。


「仕方ねえな。だが、後悔するんじゃねえぞ? オラがこう言うってことはな、ただ『女』という理由だけで甘く見てるわけじゃねえ」


 ホレスは言葉を続けているが、審判が手を下ろし試合の開始が告げられた。


 その瞬間、ホレスはその大きな斧を振り上げ、



「絶対にオラが勝つからという確信があるから言ってるんだ」



 ララの前から姿を消した。


「え……?」


 いきなり眼前から消えたホレスに対して、ララは目を丸くする。

 だが、反射的に探知魔法を発動させていた。


「滅びよ」


 ホレスはララの後ろに回り込み、そのまま脳天に斧を振り下ろした。

 斧の斬れ味とかそういうのが無関係になるほどの、超重量から振り下ろされる一撃だ。

 うむ。どうやら、その巨体から似合わぬなかなか俊敏な動きを見せるようだな。


 だが。


「その程度ならララにだって対応出来る」


 俺は腕を組みながら試合を鑑賞している最中、一言呟く。


「わあっ!」


 斧が下ろされようとしている矢先、ララは身体強化魔法を使ってその場から退避したのだ。

 結果、斧は舞台の床に突き刺さりドゴォォォオオオンと大きな地響きを起こした。


「む」


 攻撃は回避されたが、ホレスの口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。


「この一撃を避けるか。魔法でも使ってやがるのか? 今までのヤツとは少し違うようだな」

「どう? ギブアップしろなんて言ったこと、撤回してくれる?」

「まさか」


 まだホレスには余裕が残っている。


「今度はそっちから攻撃してみろ。全部オラが弾き返してやるから」

「だったら……」


 ララは手を前に掲げ、魔法式を展開した。

 ファイアースピア。

 しかも一発ではない。十発同時にファイアースピアをホレスに向けて発射させたのだ。


「はああああっ!」


 しかしホレスは斧を振り回して、ファイアースピアに立ち向かっていったのだ。


「う、嘘っ」


 ララが思わず声を漏らす。

 何故なら、ホレスは斧を振り回した風圧でファイアースピア全てを消滅させてしまったからだ。


「ははっ、そんな軟弱な攻撃では、オラには勝てないな」


 離れ業をやってみせてなお、ホレスは「大したことがない」といったような表情を浮かべていた。


 あの男、なかなか面白い真似をしてくれるな。

 ララの魔法は決して軟弱ではない。赤色の魔力は射程は短いが、攻撃の威力に優れている魔法だ。

 それにホレスとの距離はそこまで空いていない。なかなかの精度で放たれたというのに、結界魔法も使わずに、たかが斧さばきだけで魔法を無効化してみせるか。


 東方の国シャドガーといったか。

 1000年前にはなかった国だ。覚えておくか。


「そろそろ()()だけ本気を出すぜ」


 それが合図だった。

 ホレスは地面を蹴り上げ、ララとの距離を一瞬で0にしたのであった。


「んんんんーっ!」


 ララが身体強化魔法、さらには結界魔法を使って、なんとかホレスの猛攻に耐えようとしている。

 しかしあの男、あれだけ重い斧を振り回しているというのに、全く疲れた様子を見せない。


「ハハハ! 面白え、面白え! これも対応してみせるか!」


 それどころかホレスは笑いながら、斧でララを攻撃している。

 さすがのララとて、その連撃を前に防戦一方だ。


 やがて。


「きゃっ!」


 ララから短い悲鳴が上がる。

 攻撃を凌いでいる最中、ララは勢いに負け尻餅を付いてしまったのだ。


「終わりだな」


 倒れているララに向かって、ホレスはそう声を投げかける。


 ここからララの逆転は不可能だろう。

 連戦につぐ連戦でララの魔力も切れかかっている。


「ギ、ギブア……」


 それはララも分かっていたようだ。

 手を制するように前に持ってきて、ララの口からそう告げられようとした。


 だが、ホレスはそのまま斧を構え、


「はっ、聞こえねえな。それにオラは最後までケリを付けたいタイプなんだ。今更そんな言葉……許さねえよ!」


 と横薙ぎにララを払おうとしたのだ。


 最早避けられない斧の攻撃に対して、ララが目を瞑る。



「もう勝負は付いているんだ。止めてやれ」



 ホレスの斧がララに当たろうかとした瞬間。

 俺は転移魔法でそこに移動し、ホレスの斧を片手で受け止めたのだ。


「む……」


 危機を感じたホレスが、斧を引いて距離を取る。


「なんだ、お前は? 確かお前は……クルトと言ったか。どうして邪魔をする」

「それはこちらの台詞だ。これが本当の戦いなら、お前のやり方も間違ってはないのだがな。だが、これは試合だ。それに勝負が付いたかどうかくらい分からなくはないだろう?」

「最後のトドメを刺して、戦いというのははじめて終わるんだ。試合かどうかなんて関係ねえよ」


 一目見た時から思っていたが、好戦的な性格なようだ。

 しかしあのまま斧を振り下ろしてしまえば、ララは死ぬ……とまではいかなくても、かなりの重傷を負ってしまった。

 例えそうだとしても、俺の治癒魔法で治すことは出来るが、その際に感じた痛みは計り知れないものがあるだろう。


 だからこそ、俺は助けに入ったのだ。


「ク、クルトっ! ありがとう!」

「良い。ララ、下がってくれ。後は俺が相手する」

「う、うん! わたしの仇を取ってねー!」


 ララがそう言って、舞台から下りていった。


 審判の方に視線をやると、


『おーっっっと! 優勝候補が一人、クルトが乱入だぁぁああああ! 今の試合はホレスの勝ちとして、このまま決勝に移行してしまいましょう』


 実況席からそんな声も聞こえた。

 助かる。これで思う存分力を振るえるんだからな。


 それに……気になることがある。

 殺意に取り憑かれているようなホレスの行動。

 なかなかお目にかかることが出来ないものだが、まさか()()なのか。


「ふんっ! 自分からわざわざ死ににくるとはな!」


 ホレスがララの時に見せた体さばきで、俺のところまで移動し斧を振り回す。

 一撃で十の跡を残すことが出来る、目にも止まらぬ連撃だ。


 しかしあくまで、()()()()のレベル基準の話だがな。


「ふう」


 うっとうしかったので、俺は溜息を吐きながらそれを手で払った。


 すると。


「うおおおおおおおお!」


 その勢いでホレスが遙か後方まで吹っ飛んでいった。

 ホレスの体は舞台の端のところまで飛び、そしてそこで止まる。


「ずいぶん軟弱な攻撃だな。それで俺に傷を負わせられると思ったか?」

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