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111/189

111・ペンは剣より強し

 しばらくララと歩いていると、面白そうなものが目に入った。


「魔剣……大会?」


 足を止める。

 受付の周りには大勢の人が集まっていた。

 奥の方にはロープで囲まれた特設のステージが見える。


 あれは一体……?


「魔剣大会。《文化発展日カルチャー・デイ》の目玉的なイベントだよ」

「なんだそれは」

「エントリーした人達で決闘をするんだよー。勝ち抜きのトーナメント戦で、優勝した人には豪華景品が貰えるみたい。見てっ!」


 受付の上のところに飾られていたものに、ララは指をさす。


「優勝景品は南の国ジオハルワまでご招待だって! しかも二人分! クルトと行けたら、すごい楽しそうだな……」


 そう言って、ララはちらちらと俺の方を見てきた。


「魔剣大会と言うのだから、魔剣を使わなければならないのか?」

「クルトみたいに魔剣なんて扱える人なんていないよ! 魔法の『魔』、剣術の『剣』、どちらに自信がある人でも魔剣大会には参加していいよー、って意味だよ」


 うむ。どうやら本当の意味での魔剣は関係ないみたいだな。


 それにしても大会か。

 面白そうだ。

 何回も言うが、今日は他国からも人がやって来る。

 その中に強いヤツがいないとも限らない。


 ゆえに俺は。


「よし、ララ。出場するぞ」

「へぇ?」


 ララの腕を引っ張って、受付まで歩き出す。


「あの南の国とやらの招待チケットを取ってやろうではないか。無論、俺が優勝すると思うが……ララも腕試しに出場してみるといい。運が良ければ、俺と戦えるかもしれないぞ」

「招待チケット……! クルト、わたしのために……」


 ん?

 ララが目をとろーんとさせた。


 しかしすぐに目に力を込める。


「う、うんっ。わたしも頑張るね! クルトと当たったら絶対に負けると思うけど……わたしの力もどれだけ通用するか試してみるね」

「その意気だ」


 とはいっても、俺自体は招待チケットにさほど興味がないのは言うまでもない。

 ララは「どれだけ通用するか試す」と言っているが、彼女の力ならよほどの者相手ではない限り負けないだろう。

 

「すいませーん。二人分、大会に出場したいのですが……」


 ◆ ◆


『いよいよ魔剣大会の開幕だ! 世界中の荒くれ者よ、祭りで美味しいものを食べているだけじゃ飽きるだろう? そこで……オレ達が、暴れ回れる場所を作ってやった! ここで存分に暴れ回り、豪華賞品を獲得してくれ!』


 司会の人がそう言うと、ステージを囲んでいる観客達から爆発的な歓声が巻き起こる。


 なかなか人が集まったものだな。

 トーナメントの出場者は五十人ほど集まったようだ。


『では早速一回戦! 隣国からの視覚だ。騎士団所属のノーマンンンンンンンン!』


 名前を呼ばれたらしい男が、歓声に応えながらステージに上がる。

 見るからに優男といった感じの風貌だ。


『そしてノーマンの相手は……ここ王都が誇る最強の冒険者、クルトォォォオオオオオオ!』

「「「うおおおおおお!」」」


 先ほど以上の歓声が起こった。

 だから冒険者ではないというのに。


 まあ否定するのも面倒臭い。

 俺はなにも言わずステージに上がり、対戦相手のノーマンを見据えた。


「聞きましたよ。あなたは長い歴史のある王都の中でも珍しい、SSSランク冒険者だということをね」


 ノーマンとやらは余裕げに笑みを浮かべて、そう言った。


「……まあそうなっているみたいだな」

「ですが、私も負けません。なんせ私は二十歳にして、騎士団の小隊長を任されている男! たかが一介の冒険者に負けるわけにはいかないのです」


 自分で自分を褒めるのを見る限り、なかなかのナルシストだ。


 ノーマンは剣を手に取る。

 細い剣(レイピア)だ。


『はじめっ!』

「はあっ!」


 試合の開始と共に、ノーマンが俺との距離を詰め、鋭い突きを放ってくる。

 しかしそれは()()時代基準だ。

 俺は一度欠伸をしてから、余裕を持って剣をかわした。


「……! やりますね!」


 ノーマンは距離を測りながら、驚愕に目を見開いた。


「しかし私もまだまだ本気ではありません。今から繰り出される、一秒間に百の突撃! 躱せるものなら躱してみせなさい!」


 いちいち自分で説明したがる男だな。


 ノーマンの体から闘気とうきほとばしった。

 彼はその右手に持ったレイピアをぎゅっと握り、言葉の通り百もの突きを繰り出してきたのだ。

 それらは同じところを狙っているのではなく、俺の目や鼻、心臓や腹といったところに照準を合わせていた。


「うむ。なかなかやるではないか」


 俺はバックステップを踏み、さらには追撃してくるレイピアを時には右手で払う。

 最小限の動きで百もの突きを無効化したのだ。


「なっ……!」


 それを見て、ノーマンが唖然としている。


「なんということだ! 私の突きを……全て避けるだと!?」

「なかなか筋は良い。騎士団で小隊長を任されているというのも本当のことだろう」


 だが、まだまだ俺には届かない。


 さて、俺も攻撃に転ずるか。

 俺は腰からぶら下げている魔剣——ではなく、胸に挿しておいたペンを手に取った。


「よし、俺の技も見せてやろう」

「は?」


 ノーマンが怪訝そうに目を細める。


「あなたはふざけているのですか? それはペンですよ。どうやって私に勝つつもりですか」

「ペンは剣より強し、という言葉を知らないか。お前に勝つには、これで十分だと言っているのだ」


 軽く挑発してやると、ノーマンは顔を真っ赤にして、


「ぶ、侮辱するにも程があります! 私はあなたのような雑種冒険者ではなく、エリート達が集まり騎士団の小隊長ですよ!? 私を侮辱することは、それすなわち騎士団全てをおとしめようとしているということ……!」


 大袈裟なヤツだ。

 彼は再度レイピアを構える。


「覚悟しなさい。ここでは使いたくありませんでしたが……仕方ありませんね。受けなさい! 奥義《二百総連撃》!」


 ノーマンがレイピアを突き出す。


 しかし俺は彼が一突きする前に、ペンに魔力を込める。

 そして一秒間に()もの突きを、ノーマンに繰り出した。


「ぐああぁぁあああ!」


 突きをまともにくらったノーマンは、ステージの周りに張ってあるロープまで吹っ飛んだ。

 しかしそれだけでは動きが止まらない。

 ノーマンの体は勢い余って場外に出て、頭を強く打ち付けて気絶してしまったのだ。



『ノ、ノーマン、場外によりクルト勝利! 強おおおおおおおおおおい!』



 司会が俺の勝利を告げると、一瞬静かになった人達が再度歓声を上げた。


「うおおおおお! あいつ、すごいぜ!」

「当たり前だろ! お前、クルトを知らないのか? 帝国でドラゴンを倒したんだぜ」

「もう優勝はあいつで決まりだな」


 ノーマンは俺のことをあまり知らなかったみたいだが、さすがに王都にいる人達は分かっているらしい。


「すごいよー、さすがクルト! 一番カッコいい!」


 観客の中にはララの姿もあって、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねていた。


「準備運動としてはこんなものか」


 俺はそう呟き、ペンを胸ポケットに戻すのであった。

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