表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/189

11・VS天才魔法使い

 ステージに上がると、紫色の髪をしたかわいらしい女の子が立っていた。

 腕を組んで、表情は何故か不機嫌気味だ。


「受験番号99……あなたですね。十体のマッド人形全てに魔法を当てられた天才というのは」


 俺が口を開く前から、その女の子が喋りだしていた。


「まあそうだな。なにか文句があるみたいだが?」

「当たり前です。私は……この学園の入学試験に首席で合格しようと思っていました。そこにあなたが現れた。わたしの首席入学のための障害が、目の前にいたら文句の一つや二つも言いたくなるでしょう?」


 逆恨みじゃないか。

 呆れていると、ステージを囲んでいる周囲からぽつぽつと声が聞こえてくる。



「おい、あれってマリーズ・シゼノスナじゃないか」

「ああ。シゼノスナ家の天才魔法使いとも言われている」

「知ってるか? あのマッド人形に一発で魔法を当て、しかも半壊させたらしいぜ」



 どうやら目の前にいる女の子はマリーズという名前らしい。

 しかも結構な有名人みたいだ。


 だが。


「だがあの男もマッド人形を全て破壊したらしいぜ? しかも欠陥魔力で」

「ははは! なんだ、そのメチャクチャな話は。そんなの出来るわけないだろう! そもそも欠陥魔力で魔法なんか使えるのか?」



 俺の話も聞こえてきた。


 的当ての試験は、複数の会場で行われていたのだ。

 俺がやったことを知らない人間も、ここにはいるらしい。


「あなた、聞きましたよ。欠陥魔力だってね」


 ああ、またその欠陥魔力というワードか。

 至高の色でもある黄金色が、どうしてそんなこと言われなくちゃならないんだ。


「お前も欠陥魔力だとか言って、バカにするつもりか?」

「バカにする? そんな低レベルなこと私いたしません。だって——私も『劣勢れっせい魔力』なんですからね。魔力の種類だけで優劣を決めるのは、くだらないことです」


 ふむ。

 劣勢魔力というのがなんなのか分からないが、この子はちょっとはマシな感覚を持っているらしい。


 問題はその実力なんだが……。

 果たして俺を楽しませてくれるのだろうか?


「では防御魔法を張らせてもらいます」


 話していると、試験官が俺の体に防御魔法を展開させた。

 あまりにも重く、それでいてもろい防御魔法だったので今すぐ破棄したくなった。


 だが、これが壊れたら負けらしいからな。

 我慢だ。


「では——試験はじめ!」


 試験官から告げられる。


「あなたお名前は?」

「クルトだ」

「クルト。私、手加減いたしませんよ——この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を——」


 詠唱魔法を唱えると同時、マリーズの周囲に炎の槍が三本出現した。


 ほう。

 的当ての試験を見るに、同時に複数のファイアースピアを展開させることが出来た人間はいなかった。

 なかなか骨がありそうだ。


「貫きけ!」


 三本のファイアースピアが同時に発射される。


 劣勢魔力というのはどうやら紫色魔力のことらしい。

 遠距離からの魔法に優れた魔力だ。


 だったら……こんなもんでいっか。

 発射されてから、俺はゆっくりと魔法式を組んで、向かってくるファイアースピアと()()()のものを作り上げた。

 そしてぶつけて、相殺。


「えっ……」


 ファイアースピアが相殺されるのを見て、マリーズが絶句する。


「なんてこと……私のファイアースピアと同等の魔法を放てるというのですか? あなたは?」


 正しくは()()()同等にしただけだ。

 一瞬でけりを付けることも出来たが、それは戦いとしては美しくないと考えたからだ。


「マッド人形を全て壊した……というのはあながち嘘じゃないかもしれませんね……ですが!」


 間髪入れずに、


「この手に集まりたまえ炎よ——」


 再度ファイアースピアを放とうとする。


 なかなか展開速度が早い。

 口だけだったシリルとは比べものにならない。


 だが、悲しいかな。


「遅い」


 この子の魔法は確かに早い。

 だが、詠唱に頼り切っているままだったら、上にはいけないだろう。


 俺は無詠唱でマリーズよりも早くファイアースピアを展開し、発射させた。


「キャッ!」


 マリーズの足下にファイアースピアが突き刺さり、彼女は小さな悲鳴を上げて尻餅をついた。


「ど、どういうことですか? はじめもですが、無詠唱で魔法を放った……? そんなことが実現可能なんですかっ? それに早すぎる?」


 どうやら俺の魔法を見て、マリーズは戸惑っていた。


 これくらいが今のこの子の限界か。まだ俺を楽しませてくれるには至らないらしい。

 まだ防御魔法は壊れてないみたいだな。マリーズも「ギブアップ」とは言っていない。


 俺がマリーズに近付くと、


「クッ……これは奥の手として隠しておきたかったのですが……仕方ありません!」


 マリーズの目の色が黒から青に変わった。

 瞬間、彼女は立ち上がって目を瞑って魔法を唱えだした。


「我らが神よ。我が手に聖剣の力を与えたまえ。神聖なる一本の剣よ、天よりとどろき敵を殲滅せよ。我はマリーズ。神なる力を行使する者なり」


 ゆっくりと組み上がっていく魔法式。


 おお、この子はもしや『ホーリーソード』を使うつもりなのか?

 前世でも中級に位置していた魔法だ。


「ほう。なかなか上手く出来てるじゃないか」


 俺の頭上に現れた、人一人分サイズの剣を見て声が漏れる。


「そんなに余裕で良いんですか? これであなたの…負けです! 《神の聖剣(ホーリーソード)》!」


 マリーズが手を振り下ろし、光の剣が落ちようとした時。


「だが、やはり遅い」

「え?」


 俺は背反はいはん魔法を発動した。


 ガラスの割れたような音が聞こえ、光の剣は跡形も消滅してしまった。


「ど、どどどういうことですか? 私のホーリーソードが……一体どこに?」

背反はいはん魔法だ。中級魔法が使えるんだから、それくらい知ってるだろ?」

「さ、最上級魔法にも位置するホーリーソードが中級ですって? それに背反……魔法?」


 マリーズは目の前に広がる光景を見て、わなわなと震えていた。


 ああ——背反魔法を知らないか。

 探知魔法や身体強化魔法が一般的じゃないんだ。これくらいはなんとなく予想出来た。


 背反魔法というのは、相手の魔法を分析し、()()()()()魔法のことである。

 簡単にいうと、相手の魔法を消す技術のことだ。

 ただ相手の魔法を完璧に分析し理解する必要があるので、相当な実力差がない限り背反魔法は使うことは出来ないが。


「そんな長ったらしい詠唱なんかしてるから、分析がし終わっちゃったじゃないか」

「無詠唱魔法を使えと?」

「ああ。簡単だろ」

「それはあなただけです!」


 うん。分かった。

 どうやらこの世界は、俺の起こした魔法革命以前のスタンダード……詠唱魔法が基本らしい。


 だったら。


「本当のホーリーソードを見せてやるよ」

「なっ……!」


 予め組んでいた魔法式を発動する。

 もちろん無詠唱だ。


 するとマリーズの頭上に先ほどと同じような光の剣が現れた。

 いや、同じじゃないな。


「な、なんて巨大な!」


 マリーズが見上げて、恐れているように後退する。


「これが真のホーリーソードだ」


 彼女が使ったものは人一人分のサイズに大して、俺のホーリーソードは家一軒分くらいの大きさがある。

 会場が眩い光に包まれ、周囲の観客も騒いでいるみたいだった。


「防御魔法があるから、これくらい大丈夫だよな? いくぞ。《ちっぽけな子どもの剣(ホーリーソード)》」


 とマリーズに向かって、光の剣を落とそうとした時であった。


「ちょ、ちょっと待って! 試験終了! 終了だから! そんなの、防御魔法で耐えられるはずがないじゃないか!」


 試験官が慌てたようにして、俺達の間に割って入った。


 マリーズは俺の魔法を見て、腰を抜かしている。

 先ほどまであった好戦的な視線はすっかりなくなっている。

 このまま魔法を使ってみたかったが……どうやら、勝負は決してしまったらしい。


「まあこんなものか」


 俺が魔法の発動を止めると、光の剣はなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ