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104・SSSランク冒険者になってた

 とある日。



「俺にギルドから要請が来ている?」



 放課後になり、文化祭の準備をはじめようとすると。

 俺だけ担任のエリカ先生に呼び止められた。


「ええ」

「一体ギルドがなんの用なんですか?」

「悪いが、詳しいことは私も知らないのだ。しかし……どうやらギルドでは手に負えない依頼クエストが来たと言っていた。それでクルトにどうしても力を借りたいと」

「うむ……」


 正直、少しは面倒な気持ちもある。


 しかし最近は少々平和ボケしている傾向があって、戦いといったものから遠ざかっているのも事実だ。

 あのセバスだとかいう男にいちゃもんを付けられた件は、準備運動にすらならなかったからな。

 久しぶりに体を動かすのも悪くないだろう。


「分かりました。詳しい話はギルドで聞いてみます」

「頼んだぞ」


 こうして俺は文化祭の準備から抜け出し、冒険者ギルドに向かうことになった。


 ◆ ◆


「ク、クルト様っ! お待ちしておりました!」


 ギルドに足を踏み入れると、職員がいきなりそう声を発してきた。

 そのせいでギルドにいる人達の注目が一斉に俺に集まる。



「おお……! あれが噂のクルトという冒険者か!」

「もの凄い実力を持っているが、なかなか表に姿を現さないらしいぞ?」

「おいおい、それって本当なのかよ? もしかして本当は実力がないから、顔を出さないのでは?」

「バカ。あいつがSSSランクなのは事実だろ。ギルドの選定に文句を付けるつもりかよ」

「噂ではドラゴンを片手で倒すらしいぞ」



 随分お喋りが好きな冒険者達のようだ。

 前世では、冒険者といえば荒くれ者の集まりだったので、こうして俺が姿を現した瞬間に戦いを挑まれるのも珍しくなかったのだが。


 それにしても……SSSランク?

 こいつ等はなにを言っているんだ。


 疑問に思ったので、受付のところまで行き、


「SSSランクというのはどういうことですか?」


 と真っ先に受付嬢に問い質した。


 すると受付嬢は「は、はいっ!」と背筋をぴーんと伸ばし、


「ギルドでは最高のランクはSランクなんです。しかしクルト様は最強の冒険者! そこでギルドが特別に『SSS』というランクを特設いたしました! このことは会議でも満場一致でした!」

「……一度も依頼クエストをこなした記憶はないんですが? それなのにどうしてランクなんか付けられるんですか」


 それどころか冒険者でもない。


「クルト様のご活躍は聞いております! なんでも……帝国でドラゴンが現れた時は、軽くひねるように倒しただとか! 荒唐無稽こうとうむけいな話ですが、目撃者も多いですので! ああ! クルト様が最初にギルドを訪れた時が懐かしく思います! 伝説の冒険者に出会えて、私……感激です!」


 だから冒険者ではないというのに。


 どうやら勝手にギルドの方で俺を祭り上げていたらしかった。

 それはご機嫌取りのためなのか……理由は知らないがな。


 まあ良い。困るものでもない。

 本題に入るか。


「それで……なんでも俺にギルドから要請がある、と聞いたのですが」


 元々ギルマスからも「ギルドで処理出来ない問題が起こった時は、クルトに頼むかもしれない」と聞かされていた。

 その状況が、やっとのこさ訪れたといったところか。


 俺が問いかけると、受付嬢は真剣な声音になり、


「はい……! 街近くの洞窟で《滅亡級》の魔物が発生したんです」


 と話を続けた。


「《滅亡級》……確か魔物の中で最も危険だと指定されているものだったな」

「そうです! さすがはクルト様は聡明そうめいですね。普通の冒険者なら縁がないので、《天災級》までしか覚えていない方も多いのですが……」

 俺もこの時代に転生してきて長いしな。

 いい加減、この時代の仕組みも大体分かってきたのだ。


 魔物というものはスライムやウルフといった弱小から、ベヒモスといった危険なものまで幅が広い。


 その中でも危険だと認定されている魔物。

 さらにそこから《危険級》《災害級》《天災級》、そして《滅亡級》という四つの等級に分かれる。

 後者にいけばいく程、強力な魔物だ。


《危険級》は村の危機。

《災害級》は都市の危機。

《天災級》は国の危機。


 そして……《滅亡級》は人類の危機だと称されることもある。

 もっとも、これは危険度を分かりやすく例えたもので、実際はそうでないことも多いと思うが。

 少し大袈裟に危険度を示した方が、人々は警戒して準備を怠らなくなるのだろう。

 そちらの方が被害の拡散を防げる。


 とはいえ……そんな魔物が出るとは? 

 それが本当なら、もう少し慌ててもおかしくないと思うが。


 俺の疑問を先読みしたかのように、受付嬢が言葉を続ける。


「まだその《滅亡級》は言うなれば子どものような状態です。しかし……少しきっかけがあれば覚醒し、暴れ回ることが予想されます。予断を許さない状況です」

「それでもまだ悠長に構えているように思えるのですが」

「もちろん、ギルドの選りすぐりの冒険者達が洞窟に向かっています。取り合えずこのクエストにかかるのは総勢百人。本当はもっと用意したかったのですが……相手はなんせ《滅亡級》です。名乗りを上げてくれる冒険者の数が足りなくて……他の地域からも冒険者の要請をしていますが、なかなか……」


 歯切れが悪いな。


 しかし急なこともあり、すぐには集められないということは分かった。


「ちなみにその魔物は?」

「ケンタウロスキングです」


 …………。

 なんと言った?

 あのケンタウロスキングだと……?


 ケンタウロスという魔物の中でも、魔力を多量に帯び強い力を得たものだ。

 本来物理攻撃しか使えないケンタウロスであるが、魔法を操ることも出来る。

 まあ確かにまあまあ強い魔物だ。この衰退した世界の冒険者では、百人束になっても敵わないだろう。


 しかし……前世では少し腕が立つ冒険者なら、喜んで討伐に出掛けたのだがな。

 実際、ケンタウロスキング達が徒党を組んだ時は、暇潰しがてらに俺も殲滅しに行ったことがある。

 あの時は、百体をも超えるケンタウロスキングを、一人で相手にしたものだ。


「ちなみにケンタウロスキングは何体いるんですか?」

「な、なにを言ってるんですか!? 一体に決まってるじゃないですか!」

「十体とかではないんですか?」

「そんなにいたら、覚醒しなくても王都が滅びてしまいます!」


 受付嬢は俺の言葉を聞いて、恐怖のためか震えているように見えた。

 ……まあ今更か。()()()のベヒモスが《災害級》扱いされていたこともあったし、この反応は想定内だ。


「ではそのケンタウロスキングを倒しに行けばいいんですね」

「は、はいっ! お願い出来ますか?」


 正直……もう少し強い魔物だと思っていたのでガッカリしたが、放っておくわけにもいかないだろう。

 ケンタウロスキングたった一体でも、先に向かった冒険者達の身が危ないことは事実だ。

 放っておけば、文化祭が中止になる可能性もある。


「洞窟の場所は?」

「ええと、ここから二十キロメータル程行ったところにある……」


 受付嬢が地図を持ち出して説明をする。


 ああ、あそこか。

 暇な時に行ったことがある。

 ということは……。


「もうそろそろ先発隊の人達は到着していると思います! ギルドから馬車も用意しているのですが……クルト様程の人物だったら、普通に向かった方が早いかもしれません」

「その通りですね」


 馬車なんてものを使ったら、その間に先発隊が何人犠牲になるか分かったものではない。


「少し時間はかかるかもしれませんが……なるべく早く向かってください。王都の危機を救ってください、クルト様!」


 受付嬢が手を組んで、瞳にうっすら涙を浮かべて言った。

 たかがケンタウロスキングで大袈裟なものだ。


 早速向かうとするか。


「では行ってくる。()()でその洞窟には着くから安心してください」

「えっ——」


 受付嬢がなにかを言い出す前に、俺は転移魔法を発動させた。


 転移魔法は魔力を無駄に使うので、あまり好きではないが……今回は緊急性が高い。さっさと向かうのが得策であろう。


 こうして俺はギルドから一瞬でケンタウロスキングが潜む洞窟へと転移し、クエストの開始となったのであった。

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