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102/189

102・これくらいは普通だ

 エルナは結界を張った寮そして俺を見て、色々と引っ掛かるところがあるらしい。

 しかしひとまずは学内の見学をすることになった。


 エルナが移動すると、それに釣られるようにして野次馬達も動く。

 俺も野次馬に混じって、エルナの様子を観察することにした。


「わたくしが子どもの時に見た時から、さほど変わっていないようですわね。懐かしさを感じますわ」


 エルナは学園長と隣り合って歩きながら、そんな会話を交わしている。


 さらにその後ろからついて行っている一人の老人がいた。

 おそらくエルナの従者かなにかなのだろう。

 魔力を感じる……大したことはないが、魔法使いのようだ。


 それからしばらくエルナは学園長と楽しそうに喋りながら、学内をグルグルと回っていたが、


「ところでエルナさん。文化祭のためにあなたの作品を寄贈してくれると聞いていましたが……」


 と学園長が「我慢出来ない」とばかりに話を切り出した。


「ええ、その通りですわ」

「失礼かもしれませんが、どういったものを頂けるのでしょうか。なになに、私もエルナさんの一ファン。ワクワクしているのですよ」


 学園長の言葉に、野次馬達も耳を立てる。


 少しは単純に楽しみたい……という部分もあるかもしれないが、そもそもエルナはこの学園に観光に来たわけではない。

 本筋は文化祭に作品を出してくれることであるのだ。

 学園長がうずうずしているのも仕方がない。


 みんなの注目がより一層エルナに集まる。

 エルナはその花弁のような小さな口を開き、


「銅像を出そうと思っていますわ」

「ええ。この日のために少しずつ作成しておいたのですわ」

「おお、それは楽しみです。早くお目にかかりたいものですな」

「では早速お見せしましょう」

「え?」

「セバス」


 エルナはそう後ろから付いてきた老人に声をかける。

 するとセバスと呼ばれた老人はエルナの前に出て、手を掲げた。

 近くの壁に魔法が発動する。


 すると——荒いものの、そこにとある銅像の映像が映し出されたのだ。


「これが今回、文化祭に寄贈しようと思っている銅像ですわ」


 心なしか、エルナは少しドヤ顔のようであった。

 うむ、どうやら映像再生魔法かなにかを使って、壁に映し出しているようだな。


「わあ、キレイだね」

「そうだな」


 一緒に来ていたララがキラキラと目を輝かせて、その映し出されている銅像を見ていた。


 なかなか立派なものだな。

 美の神ラゼバラをして作られた銅像のようだ。

 魔法の精度が甘いのか、非常に映像が荒いのが残念なのだが……それでも細かいところまで作り込んでいるのが分かった。


「はあっ、はあっ。エルナ様、そろそろ良いですかな?」


 セバスが息切れをしながらも、エルナに問いかける。


「ええ。すいませんね、セバス。もう良いですわよ」


 そう言われ、セバスは魔法の発動を止める。

 銅像が映し出された映像が消える。

 魔法の発動時間はせいぜい10秒くらいだろうか。

 それなのに、あれだけ疲れているとは……魔力の貯蔵量が少ないのだろうか?

 その程度なのに、かなり有名人らしいエルナの付き人をしていて大丈夫か。


 俺がそう思っていると、



「それにしても……さっきの魔法! あんな映像を再生出来る魔法があるなんて!」

「クルトがたまに使っているように思えるけど? それに映像もクルトに比べて荒いし」

「バカ。あいつは別格だろう。比べたらダメだ」

「そりゃそうだな」



 先ほどの映像を見て。

 野次馬達は、銅像のことよりもセバスが使った魔法のことが気にかかるらしい。

 そこはやはり魔法学園の生徒。魔法使いの端くれといったところか。

 芸術よりも魔法に興味が出るのは仕方のないことに思えた。


「む」


 そんな生徒達の反応に、セバスは少し不満顔。


「クルト……という名前が聞こえましたが、その方は寮に結界を張った人物なのでしょうか?」


 そしてエルナも興味を引かれたらしい。

 学園長にそう質問する。


「ええ」

「遠くの映像を保存し、再生する魔法はなかなかの使い手でなければ発動出来ませんわ」

「ごもっともです」

「だからこそ、セバスをボディーガード兼付き人にしているのですが……それ以上の魔法を使えるというクルトという生徒は、どのような人物なのでしょうか? そろそろご挨拶させていただいてもいいのでは?」


 エルナもうずうずといった感じで学園長に申し出る。

 先ほどから視線が俺の方をずっと向いたままである。


 ……面倒だな。

 まあここまで言われて、無視するわけにもいかないだろう。



 俺は野次馬から外れ、エルナの前に立った。



「あなたがクルトでしょうか?」

「それで間違いないぞ」


 普通に返事しただけなのに、急にセバスが血相変えて、


「エ、エルナ様になんという言いよう! 魔法学園の生徒は敬語の一つも使えないのか!」


 と怒鳴った。

 しかしそれをエルナが手で制する。


「セバス、わたくしは良いですわよ。こちらの方がお喋りしやすいですから」

「し、しかし……」

「良いですから」


 セバスはまだなにか言い足りないようであったが、あるじであるエルナにそう言われたら仕方がない。

 一歩後ろに引くものの、セバスの不満顔がさらに濃くなっていった。


「あなた、すごい魔法使いのようですわね」

「…………」


 俺の沈黙を『肯定』として捉えたのか、エルナは嬉々とした表情で、


「では一つだけ……試させてもらってもいいですか?」

「試す?」

「ええ。なにか魔法を見せてくれないかしら? わたくし、あなたに興味が出てきましたの」


 困ったな。

 今日はそのような気分ではないというのに。


 しかし彼女もわざわざここまで足を運んでくれたのだ。

 無碍むげにするのもいけない。


「では……俺も魔法で小型模型でも造ってみせようか」

「そんなこと可能なのですか」

「ああ、材料があればな。折角素晴らしい銅像を見せてもらったんだ。そのお返しもしたくてな」


 と褒めると、エルナはますます上機嫌になっていった。


「ありがとうございます。ですが……それを造るとなると時間がかかりますわよね? 困りましたわ。わたくし、次にここに来れるのは文化祭の日だというのに……」


 エルナは頬に手を当てて、困り顔を作る。

 しかしなにを言っているのだ?

 そんなに時間をかけなくとも、


「なに、心配しなくてもいい」


 俺はエルナに背を向け、こう続けた。


「そう時間は取らせない」


 ◆ ◆


 問題は材料だったのだが、転移魔法で《宝物迷宮》の奥に潜り、オリハルコンを採取した。

 ここまで十分程度しかかかっていないだろう。


「ではいくぞ」


 丸い塊のオリハルコンに魔力を注ぐ。

 するとオリハルコンはたちまち形を水のように変わっていった。


「ど、どういうことですか!? オリハルコンが水のように……」

「オリハルコンは本来()()()()素材だからな。これくらいは容易だ」

「オリハルコンが……柔らかい?」


 あっという間にオリハルコンが魔力によって()()され、魔法学園の形となった。

 手の平サイズの魔法学園のミニチュア。


「見てみるといい」


 それを俺はエルナに渡す。


「ふんっ! そんなの大したことないに決まっている!」


 その様子を見て、横からセバスが口を挟んできた。


「そもそもオリハルコンということも怪しい。どうせ紛いものだろう。そんな簡単に加工出来るわけがない! それにそんな子供だまし。よく世界一の彫刻家でもあるエルナ様に見せることが出来たものだな?」


 どうやらセバスは、俺の造った小型模型ミニチュアに文句があるらしい。


「エルナ様、時間の無駄です。そろそろ帰りましょ——」

「セバス。あなたにはこの銅像の素晴らしさが分からないのですか?」

「え?」


 エルナはマジマジとミニチュアを見て、こう続ける。


「細部まで作り込んでいます……! このわたくしの目をもってしてでも、この模型ミニチュアの全貌は分かりませんわ。外観だけではなく、一つ一つの部屋まで完璧に作り込んでいます。もしこれが世に発表されれば、芸術界にとんでもない革命が起こりますわ……!」


 セバスと目線すら合わさず、エルナは興奮気味のようであった。


「そ、そんなわけが……」

「セバス、あなたはわたくしの鑑定眼かんていがんに文句があるとでも? これ以上失礼なことを言うようでしたら、これからの処遇も考えなければいけませんよ」

「ああ……」


 そうたしなめられ、セバスの顔に汗が浮き出る。


 どうやらエルナは鑑定魔法が使えるらしい。

 模型ミニチュアの外観だけではなく、俺の本当の狙いであった『内装』まで見抜くとは……なかなか筋が良い。


「それに……これがオリハルコンであることは間違いありません。オリハルコンは固すぎるため加工が不可能とされていましたが……どうして、それをいとも容易く?」


 ここでエルナは顔を上げ、俺と視線を合わせた。

 キラキラとした瞳でじっと俺を見つめてくる。

 どうして容易く出来たのかというと、オリハルコンが()()()()なのだが……それを説明しても理解してくれないだろう。

 適当に誤魔化すか。


「これくらいは()()だ」


 そう口にすると「普通なわけがあるか」「お前の普通はみんなの普通じゃない」といような声が周りからぽつぽつと上がるのだった。

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