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101・学生寮の結界

※前回の話で、シンシアが『演劇』をやりたいということになっていましたが、そもそもクルト達とは別クラスでした。なのでその設定をなくしました。読者様には混乱させることになってしまい、申し訳ございません。以後気をつけます。

 出し物の内容も決まり、早速クラス《ファースト》のみんなで準備に取りかかることになった。


「でも演劇って……内容はなにをするのー?」


 ララが首をかしげる。

 最初は誰からも意見が出てこなかったが、


「愚王オーレリアンの話……はどうでしょうか?」


 とマリーズが言った。


「愚王の話?」

「ええ、題材としてはぴったりでしょう。愚王オーレリアンは愚政ぐせいによって市民を苦しめていた。そんな中、国外追放されていた弟クリフトンが少しずつ賛同者を集めていき、最終的にはオーレリアンを討つ」


 そらんじるようにしてマリーズが続けた。


「こう言っては少し失礼ですが、物語としては面白いのでは。実際オーレリアンについて書かれた物語はたくさんありますからね。文化祭にぴったりの題材だと思いますが……」


 それは愚王を魔王と見立て、弟を勇者と見立てた冒険譚としても成り立つだろう。

 特に反対する理由もないな。


 そう他のみんなも思ったのか、次々に、


「うん……面白そう! 私、頑張っちゃうよー」

「主役はいただき!」

「ずるいよ! 主役の革命者クリフトンは私のものなんだからねっ」

「お前には愚王オーレリアン役で十分だ」

「ひどい!」


 と早くも配役を決めようとまでしていた。

 みんなの顔を見ると、各々が楽しそうであった。

 決まりだな。


「では反対意見がなければ、愚王オーレリアンが討たれるまでを描いた『革命への道』という小説を題材にしましょう。みなさん、それでよろしいですか?」


 マリーズの質問に、誰も首を横に振ろうとすらしなかった。


「どのような演劇になるか楽しみだな」


 俺が不意に呟くと、


「クルトも演劇やるんだよーっ!」


 ララがそう言って肩をポンと叩いてきた。


「俺が?」

「もちろんだよ、だってクルトもクラスの一員なんだから」


 まさか前世で異端者とまで呼ばれ嫌われた俺が、みんなで仲良くこんなことをするとはな。

 前世からでは想像も付かなかったことだ。


 良いだろう。

 余興は好きだ。

 演劇であっても、思う存分に力を振るわせてもらおうではないか。


「ではクレープ屋班と演劇班に分かれて、まずはやりましょうか。クレープ屋班の人はレシピを……」


 てきぱきとマリーズがみんなに指示を出していく。

 なんせ普通なら出し物が一つのところを二つやるのだからな。

 準備が早すぎるということはないだろう。




 みんなが各々に教室で準備をしている最中。


「ねえねえ、クルト。知ってるー?」


 とララが質問をしてきた。


「なんだ?」

「エルナさんのこと。明日……この学校にやって来るらしいよ」

「うむ……エルナか。名前だけは聞いたことがあるな」


 確かこの時代でも有数の芸術家だとか。

 絵画や彫刻、演劇に音楽……と非常に多才で、エルナの生み出した作品には安くても金貨百枚以上の値が付けられるという。

 それにしても。


「どうして学校に来るのだ? 《文化発展日カルチャー・デイ》も近いのだし、色々と忙しいことは推測出来るが」

「うーん、これは噂なんだけど、ここの学園長と昔から仲が良いらしいよ。だから文化祭にも作品を出してもらおうと思っているらしくて……明日はその下見」


 アヴリルの時もそうだったが……この学校の学園長はなかなか顔が広いらしいな。

 魔法学園のおさをやっているのにも頷けた。


「楽しみだねっ。お話出来る機会あるか分からないけど……サイン貰えるなら貰いたいな」

「俺も楽しみだ」

「クルトも? クルトって、芸術とかに興味あるの?」

「ああ」


 この時代は1000年前に比べて衰退している。

 だが、それは魔法文明に関して……だ。

 芸術の分野がどのように発展したのか。

 それにエルナは芸術という分野を決めた人物だ。単純に興味がある。


「もし顔を合わせる機会があれば、エルナとやらの『芸術』がどれほどのものかを見極めたいところだな」


 ◆ ◆


 翌日。

 約束の通り、エルナが魔法学園が顔を現した。



「お久しぶりですわね、学園長」



 正門のところで迎えていた学園長に対して、エルナがそう仰々しく頭を下げる。


 エルナを見ようと、多くの生徒達が正門の前に集まっていた。

 俺達……ララとマリーズ、シンシアも含めた四人は野次馬に混じって、エルナとやらに視線を注いだ。


「エルナから魔力を感じるな」

「魔力ですか……?」


 マリーズが興味津々とばかりに目を開く。


「ああ、エルナは優れた芸術家なのだろう。しかし同時に魔法使いのはずだ。それも相当の使い手のな」


 とはいっても俺はともかく、ララ達には勝てない程度ではあろうが。


「エルナさんは時には魔法を使って、絵画や彫刻を作るとも言われています。おそらくその辺りに理由があるのでは」

「そうかもしれないな」


 マリーズの推測に俺は頷いた。

 ますますエルナに興味が出てきたな。


「エルナさん、しばらく見ないうちにキレイになりましたな」


 学園長は一歩前に出て、エルナの顔を上げさせる。


 エルナは絶世の美女であった。

 プラチナブランドの長い髪は透き通っているようで、赤いリボンがよく似合っている。

 エルナの美しさに、他の生徒も息を呑んでいるようであった。


 しかしエルナはそのような視線を受けても、余裕の笑顔で、


「あら、学園長。『さん』付けなんて、あなたらしくありませんわ。昔のようにエルナちゃんと呼んでいただいていいのですわよ」

「いえいえ、もうそんなこと出来ませんよ」


 学園長が苦笑する。


「さて、早速校舎の中を見させてもらう前に学生寮も見させてもらいましょうか」


 とエルナは校舎に足を踏み入れる前に、回れ右をして学生寮の方へと向かっていった。


 それに付いていくようにして野次馬達も移動する。


「どうしてエルナは学生寮に興味があるのだ?」

「寮はエルナさんが設計した建物なんだよー。当時六歳のエルナさんが設計図を書いて話題になったよねっ。だから興味があるんじゃないかな?」


 ララが得意気に言う。

 ふむ。確か有名な建築家が設計した……ということは知っていたが、それが過去のエルナだったとはな。面白い縁があるものだ。


 エルナは寮の前に辿り着くと、


「あら……?」


 と怪訝そうに目を細めた。


「寮全体に結界が張られていますわね。これは……?」

「最近帝国とごたごたがあったということは、エルナさんも知っているでしょう?」

「ええ」


 エルナは寮から目を逸らさず、学園長の言葉に応じる。


「それで全体的に防衛を高めようと思い、建物全体に結界を張ることにしたんですよ。緊急とはいえ、勝手に結界を張ってしまい……すいませんでした」

「いえ、それはいいのですが……建物全体に結界を張るとは? しかも半永続的に発動するもののように見えます。こんなこと出来る人が王都に?」

「ええ。今年非常に()()な生徒が入学してきましてな。その者が一人で張ってくれたのです」

「なっ……!」


 エルナが驚いたように目を見開く。


「そんなこと可能なのですか!? これほどの結界をたった一人で? しかも一介の生徒が!? ……学園長、冗談が下手になりましたわね。そんなこと有り得ないことくらいわたくしでも分かりますわよ」

「信じられないかもしれまんせが、本当なんです」


 学園長はそう言ってから、チラリと俺の方を見た。

 無論、寮に結界を張ったのは俺のことだ。


 帝国は魔神や邪竜によって壊滅的な被害を受けた。

 しかし次にいつ王都に牙を向けるか、分かったものではないのだ。

 そのため、俺は王都から帰ってきて真っ先に学生寮……そして魔法学園の校舎に結界を張ったのだ。

 俺からすれば、この程度の結界を張ることなど容易だ。


「ふふふ、では一度試させてもらっていいでしょうか?」


 エルナが瞳の色を変える。好戦的な色合いだ。


「そこまで結界に自信があるというのなら、一度校舎に向かって魔法を放ってみてもいいでしょうか? 学園長は知っていると思いますが、わたくしは芸術家でありながら魔法使いでもあります。校舎に穴を開けるくらいの魔法なら放てますが」

「どうぞ、ご自由に」


 断られるとでも思っていたのか。

 エルナはその返答を聞いて目を丸くした。


 しかしすぐに寮の方を向き直して、


「後悔しないでくださいましね……この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を貫き灼け!」


 と詠唱しファイアースピアを建物に放ったのだ。


 詠唱魔法にしてはなかなかの威力と精度がある魔法だな。

 しかしこの程度では……。



「寮に傷一つ付けることが出来ないぞ?」



 つい呟いてしまう。

 しかし現にエルナが放ったファイアースピアは寮の入り口付近に当たったものの、すぐに消滅してしまった。


「こ、これは……!?」


 エルナが驚きのあまり言葉を失ってしまっている。

 建物の壁には焦げ跡一つすら付いていない。


「こんな強力な結界を張れるなんて……! 誰が! 誰が張ったのですか。その優秀な生徒とは!」


 うろたえながらもエルナがそう叫ぶ。


 その声に反応するようにして、出迎えに来ていた学園長……そして周囲の野次馬が一斉に俺へと視線を向けた。


「あなたが……この結界を……! なんてとんでもない方なのでしょうか……!」


 エルナが真っ直ぐと俺の方を見た。

 敵意は感じられない。それどころか好意のようなものも感じた。

 少し予想外の展開ではあったが、逆に考えるとエルナの力を見極めるのに好都合になったとも言えるか。


 俺は返事をせず、黙ってエルナのキラキラとした視線を受け止めるのだった。

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